第6話 正義の行方
忠臣蔵。赤穂浪士たちが主君の無念を晴らすべく仇討ちを果たす物語。十二月になるとテレビドラマが放送される。僕はそれが好きで小さい頃から何度もテレビで見ていた。
揺るがない忠誠心。子ども心でも、そこに格好良さを見出していた。仇討ちは決して褒められた行為ではない。それでも、忠臣蔵という物語は長く親しまれている仇討ちの物語である。もちろん、仇討ちされた側にとっては不名誉この上ない。単純に勧善懲悪という解釈では物語をちゃんと楽しむことはできないのではないだろうか。今の僕なら、もう少し物語の深みに迫れる気がする。
そもそも忠誠心とは何か。誰かに盲目的に尽くすことは美徳なのか。無償の愛と同じくらい、純粋で微笑ましいけれど、脆く危ういものであろう。絶対的な神を信仰するのと同じくらい、危険な思想ではないだろうか。
仇討ちは殺人とは違うのか。理由があれば、人を殺めても良いのか。問い方を変えれば、多くの大人たちは否定するだろう。理由の如何に関わらず、殺人は罪深い行為であると宣うだろう。復讐を認めてしまうと公共の安全が維持できないかもしれない。知らず知らずのうちに、誰かを傷つけることがある。その一つ一つに復讐が許されるとしたら、人間社会はすぐに崩壊してしまうだろう。
仇討ちをする側が正義でされる側が悪と物語では描かれる。でも、冷静にドラマを見ていると、夜襲しているではないか。これは卑怯なのでは、そんなふうに僕は思った。それに結局、仇討ちをした後、皆、切腹をしてしまう。これも考えようによっては卑怯ではないか。潔いと思うべきなのか。
リビングにいる父親が真剣に忠臣蔵のクライマックスを見ている。振り返らずに、父親は言った。
「大義ってのは、夢や希望と同じなんだよ。その道を真っ直ぐ進めば、全てが正義になる。でも、踏み外したら、それで終わりなんだよ」
僕は父親の言葉を理解するのに時間を要した。
「忠臣蔵だって、ただの暗殺劇だけど、大義名分を大きく掲げることで、その行為を正義とした。現代の戦争だって、そうだろ?何か確固たる理由を見つけて、戦争へと突き進む。ただの殺し合いにも関わらず」
僕は頷くしかない。
「夢や希望だって同じだ。振りかざすものじゃない。心に秘め、一歩一歩進めていくものなんだ。もちろん、声を上げて、協力者を求めることも必要だろう。でもな、協力ありきの夢や希望なんて、個人の夢や希望にしては大き過ぎると思うんだよな、俺は」
今夜の父親は何故かしら饒舌だった。
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