第4話 通学電車の不良

 午前七時十六分。僕は毎朝、この時間に電車に乗る。家から学校までの通学時間は片道一時間半。往復三時間。一日は二十四時間。単純計算で起きて活動している時間の六分の一が移動時間。

 僕は眠気に包まれながら、くだらないことを考える。不意に揺れる電車に咄嗟に反応して吊革を握りしめた。

 乗客のほとんどは高校生。この沿線には四つの高校がある。制服を見れば、どの高校の学生かは一目で分かる。そして、その中で制服を独特に着こなす輩が不良と呼ばれる。

 幸か不幸か、不良グループと何かしらで関わる機会はなかった。僕自身は特に毛嫌いしているわけではないが、そういうタイプの人間に好かれる雰囲気を持っていないのだろう。

 僕は真面目で勤勉な高校生だと言い切る自信はないし、そのつもりも全くない。ただ、勉強がしたくないのなら、高校に行かなければ良いのでは、と思ってしまう。否、勉強が得意な不良も多いのだろうか。

 車内の端で騒いでいる高校生のグループがいる。真面目そうな高校生が絡まれているようだ。周りの高校生は見て見ぬ振りだ。僕も遠目に見ているだけなので、誰かを責めるつもりはない。特に珍しい光景でもない。そんなふうにすら感じてしまう。

 「うるせーな、黙れや、ガキが」

 明らかに言葉遣いの悪い男が高校生の不良グループに向かって言った。彼らは向き直り、その男を見ると、舌打ちした。その男は屈強という言葉の化身のような体格だ。

 どうやら、腕っ節では勝てないと判断したのだろう。彼らはそっぽを向き、絡むのにも飽きたようで、別の話題で盛り上がっているようだ。絡まれた高校生は何事もなかったかのように静かに読書をしている。言葉遣いの悪い正義の男はそれ以上不良グループをたしなめることはしなかった。

 電車はそのような出来事など気にせずに次の停車駅に止まる。そこで、高校生たちの多くが降りていく。

 ふと扉のほうに視線を遣ると、先ほど絡まれていた高校生が屈強な男に礼を述べていた。

 「兄ちゃんよ、無理に戦う必要はないで。でもな、それならそれで頭を使って、ああいう輩と関わらないように注意せなあかんで」

 そう言って、足早にプラットホームに消えて行った。それに続くようにその高校生も降りて行く。

 戦う強さ。

 戦わない賢さ。

 きっと、どちらも正しい。

 そして、どちらも難しい。

 不良グループに何かしら罰が降れば良いと祈ってしまった僕は、自分自身がただただ愚かな人間だなぁっと苦笑してしまった。

  

 

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