第3章 氷に溶かした恋はいつしか
第15話 再会
両親にはひどい風邪を引いたのだと嘘を吐いて、数日間寝室に籠った。きっと祖母は全て気づいているだろうが、何も言われなくて助かった。この気持ちもノニの決意も、今はまだ自分一人の物にしていたかった。
「こんにちは、アウル」
「お前……」
落ち着いた頃に、アウルを尋ねると彼は今までで一番驚いた顔をした。
「お願いがあるの。あなたの仕事を私に教えてちょうだい」
「……なぜだ?」
アウルは顔を顰めてばかりだ。いや、ノニがそうさせるのだろう。
「後任が必要でしょ?」
「重労働だ。お前に氷漬けの人間が運べるのか?」
「引きずればなんとかなるわ。手先だって器用なのよ」
「寒さとの闘いだ」
「この地方に住んでいて、寒さと無縁の人なんているかしら? それに私は生まれたときからここにいるのよ。あなたよりも寒さには強いわ」
ますます顔を顰めながら、アウルは最後に最も重要な質問をした。
「呪術師の仕事はどうする? この地域の貿易を支える重要な役割だ。お前の夢だろう」
来た。必ず訊かれると分かっていた。ずっと祖母のような優れた呪術師になるのだと、ノニが言い続けてきたのだから。だが、ちゃんと答えは用意してある。
「もちろん、続けるわ。お父さんも説得済みよ。術の対象がちょっと変わるかもしれないけどね」
アウルが舌打ちをした。心底面倒そうな顔をしている。
「ちっ! 勝手にしろ」
アウルはこういう人だ。嫌々ながらも他人の意思を尊重してくれる。
思わず笑ってしまうと、思い切り睨まれた。
「ありがとう」
きつい視線を物ともせずに、ノニは笑う。
「もう一つお願いがあるの」
「面倒なことでないなら」
「あの女性を引き上げましょう」
アウルの動きが止まった。
二人でやればできるはずだ。祖母からやり方も習ってきた。
本当はアウルの恋人を引き上げる術はある。しかし、アウルの前任者は彼が生きようとするためにあえて彼女を引き上げなかったのだと、祖母から教えてもらった。
だが、今が引き上げる時だ。
アウルは無言で道具を用意し始めた。
作業は素早く行い、氷を砕くとすぐに沈みそうになる彼女を、ノニは懸命に支えた。
「メリア……」
アウルは切り出した女性を包む四角い氷に覆い被さった。
頬をつけ、彼女を抱き締めようと腕を回す。話しかけても答えることはなく、抱き締めても触れあえないが、そうせずにはいられない。
足音を立てないようにして、ノニは二人から遠ざかっていった。
きっとアウルも彼女も、二人きりになりたいだろう。
家に帰りながら、ノニはふと思った。
彼女の名前はメリアというのか……。
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