第13話 溢れ出る気持ち
その夜、ノニは寝台の上で横になって考えていた。
恋人を喪って、ここに来たアウルは、今何を思っているのだろう。
昼の剣幕は凄まじかった。灼熱に焼かれてしまうほど、激しいものだった。
彼が湖の女性のことを今でも愛しているのが分かった。でもそれは幸せなことなのだろうか。
誰かを一途に想い続けることは、素晴らしいと思う。しかし、相手がすでにこの世にいないなら?
死んだ人を氷像にして残しておくことに、疑問を持ったことなどなかった。けれどアウルの場合は?
もう愛する人はこの世にいないのに、それでもすぐ近くにいるならば?
そこから進めなくなってしまう。時が止まってしまう。
今はもう氷の中で眠る老夫婦は、一方を喪う苦しみを味わいたくないと言った。
死を選ばせるほどの苦痛とは何だろう。
祖父が死んだとき、ノニは泣いた。寂しくて冷たくて憂鬱だった。しかしそれも数日のことだ。しばらくすれば、日常に戻った。
ノニには分からなかった。生きていけないほどの愛とは何か考えたこともなかった。祖父が死んだとき、祖母は死にたいと思ったのだろうか?
私は大切な人を喪ったらどうするのだろう。
祖母が死んだらどうだろう?父が死んだらどうだろう?母が死んだら?友達が死んだら?
もちろん泣くに決まっている。幾日か、悲しく辛い日々を過ごすだろう。
では、アウルが死んだら?
体が震えた。ノニは毛布の中に入れている温もり袋を抱きしめ、丸くなって自分自身も抱き締める。寝台が軋んだ。
胸が苦しい。息が出来ない。視界が滲み、頭が痛んだ。
辛い。苦しい。怖い。痛い――。
愛する者のいない世界に価値などない。
ノニははっとした。こんなに辛い気持ちで、アウルは今生きているのだろうか?
前任者に助けられた恩があると言った。一種の義務感で生きているのだ。では、本当の気持ちは――?
無性にアウルに会いたい。今、すぐに会いたい。
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