第7話 太陽の女神

 ノニは今日の修行のことをアウルに聞いて貰いたくて、喜び勇んで出かけた。

 ノニがアウルの家に着いた時、彼は切り出された氷を引きずって帰って来るところだった。

 四角い氷の中の人は、奇妙な格好をしている。両腕を中途半端に顔の横に上げて、片足は曲げられている。口は開いているが、瞳はきつく閉じられていた。

 こんな像をノニは初めて見た。

「この人、とても辛そう……」

「おそらく遭難した者だ。吹雪に倒れて、雪に埋もれ、氷漬けになった」

 昨日、仕事を終えて家に帰る途中で、氷に埋もれるこの人を見つけたそうだ。

 アウルは身元不明の遭難者でも、見つけたら掘り出して、不明者たちのための洞窟に運ぶと言った。

「この人が着ている服は曾々おじいちゃんが着ているものに似ているわ!」

 ノニは驚きを隠せなかった。

「なぜ、それほど昔の人が埋まった氷を切り出すことができるの? 普通はずっと地中深くに眠っているものじゃない?」

 アウルはそんなことも知らないのかという目でノニを一瞥した。

「それが、この地形の不思議だろう。ここの氷は動くんだ。地氷が割れ、盛り上がり、削られて中で眠る人を発見できるようになる。理由は分からないが」

 南方出身のアウルに地元民のノニが教えてもらうなんて、確かにおかしなことだ。しかし、ノニは気にしなかった。

「不思議ね。地面の氷が動くなんて。信じられないわ」

 アウルは少し迷いながら、口を開いた。

「……俺の前にこの仕事をしていた人は、雪の女王の仕業だと言っていた」

 アウルが前任者の話を出すのは珍しい。彼は以前、はっきりとノニにあまり話したくないと言ったことがある。

「あぁ! 冷酷で気まぐれな女王様のことなら、お婆ちゃんから聞いたことがあるわ」

「人を雪で惑わし、遭難させて自らの腕に抱くが、同時に生きている人の元に還してくれる。お前たちはそういう風に考えるのだろう?」

 『お前たち』というアウルは南方出身で、この考えは不思議なものに思えるのかもしれない。

「ええ、そうよ。ここは雪と氷の大地だけれど、確かな温もりもある。でも、南方では雪が降らないのよね? そこには女王様はいないの?」

 アウルは手を止めて振り返ると、目の覆いをずらした。懐かしさを湛える瞳は、空の向こうのずっとずっと遠いところを見つめる。

「……太陽の女神。南方では、この世からいなくなると、魂はその女神の元に行く。暑さのせいで肉体は腐り消えてしまうが、魂は女神の元で永遠となる」

 遠い昔を思い出す声は平坦だったが、微かに苦みが混ざっているように感じられるのは気のせいだろうか。ノニはアウルと同じ方向に視線をやって囁いた。

「還ってくることはないの?」

「ない」

 答えは簡潔で、冷たさが感じられた。

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