第5話
「今年のミスコン辞退したらしいですよ、三屋さん」
「誰だっけ」
「この間の盗撮騒ぎの人ですよ」
「ああ」
本当に頭脳明晰かと疑いたくなる時が時々この先輩にはあるのだ。
風の噂で手に入れた情報を、この返しが来ると分かった上で僕は伝える。報告義務があるかなと思うのが一割、残り九割が三屋さんが先輩のお気に入りになっていないことを確認するために。
「喜ぶ要素がどこにあるんだい?」
「え? あ、いや、良いじゃないですか、別に」
先輩の視線は僕の頭上。
今日もからんからんと回る裏切り者だ。
「盗撮騒ぎを起こしてまで勝ちたかったミスコンなのに、出ないとはおかしなものだ」
「罪悪感とかあったんじゃないでしょうか」
「感じるほどのものか?」
本当は恐怖心かもしれない。
僕や先輩が本当のことをいつバラすかと怯えて辞退したのかもしれない。
暴露する気もないけど。先輩にこれ以上絡む気が起きなくなってくれたのなら僕からすれば良いことだ。
「それはそうと、ミスコン委員長と三屋さんが僕を珍しいと思わなかったのはどうしてだったんですか」
先輩は確かこれも大事な要素と言っていたはずだ。
「委員長には私から君のことを話していたからね。それにあれで礼儀も知る男だ、じろじろ見たりは表立ってはしないのだろう」
「三屋さんは?」
「去年私に票数で負けたことは悔しかったようで、私のことを幾分調べていたようだね。その過程で君のことも知ったんだろう」
ああ、だから大事な要素か。
盗撮に至った行動の理由に繋がるから。……、分かりませんよそこからじゃ。
「ていうか、そこまで知っててどうしてさっき三屋さんのこと忘れてたんですか」
「終わったことだし?」
きょとんとする先輩に、
「だから、喜ぶ要素がどこにあるんだい?」
僕たちは今日も時間を潰す。
先輩が言い出すまで僕は二人の時間を失いたくないし、
先輩は顔が隠れる時じゃないと僕の手を握ってくれないから。
「別に良いじゃないですか」
からんからんとよく回る。
頭上で回るは観覧車 @chauchau
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