第1話 『転生:10』

放課後、大翔に呼ばれていたので俺は適当に待ち合わせ場所で待つ。


待ち合わせ場所と言うのは、城高近くの公園。

そこまで広くは無いが遊具は充実しており、午後4時過ぎのこの時間帯では小学生が走り回っていた。


俺はベンチに腰掛けて大翔の到着を待つ。

あの大翔が、わざわざ部活を休んでまで俺に用があるという事は何かある筈だ。


「舞桜ー、待たせちまったか悪い!」


小走りでやってくる。


「いや、そんな待ってない。大丈夫だ」


「そっか、なら良かった」


俺は右にずれ、大翔が左に腰掛ける。

部活の服やバスケットボールを持っている事から、恐らく本来は部活に行く予定だったんだろう。


「それで、俺に用ってのは何だ」


「あぁ……それがな……」


何やらモジモジし始める。

や、止めろ気持ち悪ぃ………。


「俺に”恋愛”をレクチャーしてくれねぇか?舞桜」


危うく吹きそうになった。

危ない危ない。


「ちょ、ちょ、タンマ……わ、笑いが……」


「なんだよ!?笑うなよ!俺だって真面目なんだからよぉ〜」


「悪い悪い……大翔からそんな言葉が出るとはな……」


コホン、と軽く咳払いし続ける。


「友人の頼みとあらば、この紫雨舞桜は全力を持ってフォローするぜ。で、その内容は?」


大翔が途端、真面目な顔になる。



「俺さ……吏優好きなんだ」



「…………ふむ」


俺は特段反応をせず、続きを聞く。


「アイツとは、1年もクラス同じでさ。部活も男女で違うけど同じバスケ部で。初めて見た日から可愛いなって思ってたけど、この1年話す内に性格も分かってきてよ………」


「完全に惚れた………と」


「まぁ、そんな所だな…へへっ」


こっちを見て、恥ずかし混じりの笑いをする。


正直、大翔が惚れるのも無理は無い。

吏優は瀬奈と争える美少女ステータスを持ってるし、今日の昼休みに俺は実際吏優の性格の良さを改めて認識した。


「もしかしたら、舞桜は吏優の事が好きなのかもしれないし、吏優だって舞桜の事が好きなのかもしれない。……でも、それらを引っ括めた上で俺は舞桜に色々教えて貰いたい。恋愛とか、してこなかったからさ」


「……おーけー、この紫雨舞桜に任せろ。今の所、俺は吏優を恋愛対象として見ていないからアドバイスの質には安心してくれ」


「流石舞桜!助かる!」


一旦、一呼吸つき腰を上げて大翔の前に立つ。


「………でもな、俺もレクチャーはするけどそれは下準備までだ。本番、吏優に思いを伝えるもどう伝えるかも大翔自身が考えるんだ。俺は手は差し伸べるが、本番背中を押す事はしない」


大翔は、数秒悩んだ様子を見せる。

そして何か自分の中で納得したのか勢いよく立ち上がった。


「よし、分かった。よろしくな舞桜先生」


「うむ」


俺達は互いにハイタッチをし、その音は公園内に響き渡った。

日も落ちてゆく茜色の空に、俺は誓った。

自身のエゴで友人の人生を邪魔してはいけない、蔑ろにしてはいけない、と。














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