第1話 『転生:09』

職員室に入ると、すぐ近くに先生は立っていた。


「来たか、少し場所を変えるぞ」


「…………はい」


そう言って、先生は俺を屋上に連れてきた。

普段、生徒の立ち入りは禁止だというこの屋上へ俺を連れてきたのはやはり内密な話をするからだろうか。


「………昨日はすまなかったな」


先生が屋上のフェンスに背を預けたので、俺も同じようにする。


「いえいえ、構わないですよ。先生もそれなりの事情があるんでしょうし」


俺は弱音は吐かない。

そう決めたから。


「お前は、本当に前世の記憶無く生まれ変わったのだな。……前世は"勇者に殺され"あの世を去った魔王が……」


「……俺、負けたんですねその勇者とやらに」


正直、前世の記憶なんてある訳無いしこの人が言っている事が本当かも分からない。

でも、これだけ真剣に語っているのなら嘘では無いと思う。


「……先生。先生は、何者なんですか。ただの教師…とは流石にかけ離れていますよ」


隣にいる先生は、前だけを見据え…まるで、どこか遠くを見ている様で。


「私は未来か過去かも分からない時間軸から飛ばされて来た、魔王側の軍隊長だよ」


先生は一息つき、視線を俺に移した。


「紫雨、勇者の生まれ変わりはお前の身近に居たさ。今もお前と楽しく話しているようだから、前世の記憶があるのか無いのか、命を狙っているのかいないのかは、私にも分からないし迂闊に近づけはしない」


「………俺の身近に…?」


「………あぁ、ソイツの名はな」


先生が俺の耳元へ口を近づけて、その名を囁いた。


出てきた名前に俺は動揺を隠せ無かったが、それでも努めて冷静に振る舞う。


「………もし、ソイツが前世の記憶を持っていたとしたら俺はどうすれば?」


「……それは紫雨、お前の判断に委ねよう。これはお前の人生なのだからな」


そう言い残し、先生は屋上を去った。



その後、食堂に着いた俺は瀬奈達を探す。


「………人混んでるな」


新学年初日のランチタイムという事で、かなりの人数が集まっていた。


3年生は基本勉強しながら教室で食べる様なので大体を占めているのは2年生だ。

1年生も一部は使えているが、それは恐らく1年のカースト上位の人達だろう。


大体の1年は、初日だけ食堂を覗き次の日からは食堂で買った物を教室や空きスペースで食べるなどする事になる。


そして、瀬奈達の席は考えるまでも無かったという事に今更気づく。


去年のカースト上位の2年生が使っていた窓側の6人席、そこに瀬奈達は居た。


あそこの席は、代々2学年のカースト上位グループが座るというもはや暗黙のルールとなっている。


今年はどうやら俺達の席となるらしい。

来年は今座れている1年生のカースト上位グループの誰かが座るんだろうと思いながら、俺は瀬奈達の方へと向かう。


「悪い、遅くなった」


「おせーよ舞桜〜!お前のラーメンも俺が食っちまう所だったぜ」


大翔の前には既に食べ終わったとされる器が並べられていた。………3杯目かコイツ。


「で、このラーメン誰がお金出してくれたんだ?今返すよ」


「私が出したけど別に良いよ、舞桜への日頃の感謝!」


「なんか悪いな、瀬奈。次の日曜どこか付き合うよ」


「舞桜とデートだぁ!やったー!」


「瀬奈っち……次の日曜は練習試合だよ……」


「……吏優私の分まで動けたりしない?」


「動けるかアホッ!……私達が試合してる最中に瀬奈が舞桜とデートとか考えるとなんかアレだし…」


「もしかして吏優、ヤキモチ妬いてる〜?」


………。俺は無言で麺をすする。


「ち、違う!取り敢えず、瀬奈は日曜試合に来る事。おーけー?」


「はぁーい…。舞桜、また今度お出かけしようね」


「うむ。いつでも構わないぞ」


………ここまで聴いて、メンバーの様子を見ていてもとてもあの人が俺を狙っていたりとは思えない。



案外向こうも記憶が無くて何事も無くこの件は終わるのだろうな、と俺は思ったりどこかで願ったりした。
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る