第1話 『転生:07』

魅來の件が終わり、程なくして担任ことナカちゃん先生が入ってくる。


手早くHRを済ませ、教室を去っていった。

なんか怒ってる?ナカちゃん先生もしかして生理近い?

いや、そんな事はどうでもいいか……。



今日は4時間で終わり。明日から本格的な授業が始まるとの事だった。


大翔、瀬奈、吏優、聖汰は部活に向かい、魅來は図書館で勉強するらしい。


部活も入っていない俺は、この状況では家に帰って勉強か筋トレくらいしかする事は無いのだ。

家に帰ってからの行動順を頭で考えていると、後ろから俺を呼ぶ声がした。


「紫雨。紫雨舞桜」


「………ナカちゃん先生じゃないですか。どうしたんですか?忘れ物でもしました?俺」


忘れ物くらいで普通の教師は生徒を追っては来ないが。


「少し話がある。そこのカフェへどうだ?」


「職務放ったらかして教え子とデートとは、先生も中々やりますね」


「なに、問題は無い。行こう」


……何が問題無いのか俺にはサッパリ分からなかったが、女の子に誘われたからには断らない。例え教師でも、だ。


先生に着いて行ってカフェに入る。

内装は少し古びた感じがしていたが、案外落ち着く色合いで統一されておりウチの生徒も何人かいた。


席に座ると先生が店員を呼び、アイス珈琲を2つ頼む。


「ウチの生徒いますけど、本当に大丈夫ですか先生」


「ほぅ。優しいんだな紫雨は」


「いえいえ、俺が新任美人教師とお茶なんて噂が広まると面倒ですからね。まぁ噂には慣れっこですが」


「……どうやら紫雨はかなり陰口を言われているらしいな」


「えぇ。別に良いんですけどね。ただ、俺以外の誰かに影響するのが嫌なだけですよ」


運ばれてきた珈琲を手に取り、早速お互いひと口すする。

微妙に苦かった為俺はミルクと砂糖を足した。


「さて、本題といきましょうか先生。俺を呼び止めたのは何故ですか」


「紫雨の後ろ姿に惚れた……と言うのは理由にならないかな?」


「嬉しくて飛び跳ねそうですが、別にありますよね用件は」


先生がこちらを真っ直ぐに見つめる。

俺達の周りだけ空気が冷えるのを感じた。


「……シグヴァ様」


「…………?」


「魔王シグヴァ様」


………流石の俺でも瞬時に理解が追いつかなかった。またふざけているのかと思ったが、先生の眼差しが違う。真剣そのものだ。


「……先生、何を言っているんですか」


「やはり、忘れている様だな。まぁ無理も無い」


「先生、だから何を言って……」


先生が珈琲を一気に飲み干す。


「シグヴァ様、いや紫雨。気をつけろ、勇者の生まれ変わりがクラスに紛れ込んでいる。ただ、そいつが前世の記憶を持っているかは私も知らんがな」


勇者?魔王?前世?


俺の頭は流れ込んでくる情報の波に飲まれそうだった。

何を言っているか分からない。

そんな単語、ファンタジーの中でしか聞いた事は無い。


先生は小銭を置き、立ち去ってしまう。


俺はその後、数十分程椅子に座ったままだった。

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