第1話 『転生:06』

身支度を終え、スマホを見る。

……うむ、時間は大丈夫だな。


昨日の一件から、4月中は毎朝瀬奈と登校する事になっているので俺は瀬奈の自宅の前で待っていた。


スマホをもう一度確認する、15分前。

俺は基本、待ち合わせには余裕を持って行くタイプだ。

まぁ、それは瀬奈も同じなので……。


「あ!舞桜おはよう!やっぱり早いね〜、待たせた?」


「いんや、今来た所さ。よし、行こう」


そう言って俺達は歩き始める。

4月の静岡、朝は少し肌寒さが残っていて、でもどこか温かい気持ちで。

スッキリとしている良い朝だ。


隣を歩く瀬奈は、やはり誰がどう見たって美人だ。

ナカちゃん先生と張り合えそうなスタイル。あまりにも整った顔立ち。明るく、場の雰囲気が瀬奈がいるかどうかで変わると言っても過言では無い。

おまけに、運動神経抜群で女子バスケットボール部のエースと来た。


非の打ち所が無いとはまさにこの事だろう。


「………ん、まだその髪飾り付けていたのか。新しいの買ってやるって言ってるのに」


ふと、瀬奈の髪に付いているモノに目を向ける。

あの髪飾りは、1年前に高校の入学式へ行く途中に目の前を歩いていた瀬奈から外れた髪飾りを俺が自転車で轢いた事でお詫びとして俺が瀬奈に贈った物だ。


もう1年も経つので新しいのを買うと言っているが、瀬奈はその髪飾りが良いらしい。


「これは、私と舞桜の出会いの証……。代わる物なんて無い。きっと、この髪飾りが無くなったら私は私じゃ無くなるんじゃないかなって…」


「大袈裟だなぁ。……でも、嬉しいよ。そんなに大事にしてくれてるだなんて」


瀬奈は誰にも傷つけさせない。

そう、心で誓ったのだった。




学校に着いた俺と瀬奈は教室に向かう。


俺達の教室は、下駄箱から目の前の階段を少し上った3階にある。


1年が2階、2年が3階、3年が4階と、簡易な配置となっている。


教室の前に着いた俺達は、何やら中の様子が少し騒がしい事に気づく。


窓越しに覗くと、どうやら俺達のグループが別のグループにちょっかいを出されているらしい。


まぁ正直、聖汰や吏優もいる様なので心配は無いがアイツらの標的は魅來らしい。


魅來は口論でどうとか言うタイプでは無いし、魅來自身無駄な争いは嫌だろう。

きっと、この時間が物凄く心苦しい筈だ。


などと考えていると、誰かに背中を叩かれた。


「ん?何やってんだ?舞桜」


「大翔か……朝練お疲れさん」


「大翔お疲れー」


どうやら朝練を終えた大翔が帰ってきたらしい。


「うす。で、何してんだ?」


「うーむ、よし、大翔。お前はこっから動くな」


「は?」


俺は扉を開け、教室に入った。

瞬時に注目の的が切り替わる。


「うーっす、何やってんだ?お前ら。俺も混ぜてくれよ」


「おぉ、委員長様のご登場か。でもなぁ俺達は今、彩瀬に話をしてんだ。部外者はどっか行っててくれねーか?」


彩瀬とは魅來の名字だ。彩瀬 魅來。

……にしてもコイツ、進学校に有るまじき態度の悪さだな。俺もあまり人の事は言えないが。


「魅來に話があるなら、俺は部外者じゃないな。で、何の話をしていたんだ?聖汰」


相手にペースを掴まれてはいけない。

主導権は握ってなんぼだ。


「あぁ、オレや吏優が教室に来た時には魅來が絡まれててさ。どうやら、"お前は地味だから紫雨達みたいなカースト上位リア充のグループには合わない。俺達のグループに入れてやる"だってさ」


「ふむ、馬鹿馬鹿しいな」


俺は即答した。


「お前……委員長だからって舐めてんじゃねーぞ」


「あのなぁ……。俺達は別に好きでカースト上位にいる訳でも無いし、リア充やってる訳でも無い。ただ、このメンバーが1番居心地良いから一緒にいるってだけだ。それと……、魅來が地味って言うのには賛成する、アイツは飛んでもなく地味だ」


魅來がムスッとしてこちらを見る。


「でもな、俺はそんな魅來が好きだ。大翔や吏優みたいな元気な奴らが居て、そこで魅來はちゃんと動いてる。周りを見れているんだよ」


「結局……何が言いたいんだ紫雨」


俺は一息つき、


「俺達は同じクラスになったんだ。だから、くだらない事で揉めるより、くだらない事で笑い合おうぜって訳」


「…………分かった。今回は降りる」


何やら簡単に引き下がってくれたらしい。

まぁ仮にも進学校に来たヤツらだからな。理解度はあると思ってる。


一段落終えると、魅來がこちらに向けて頭を下げてきた。


「舞桜君……ありがとう。私、怖かった。自分でも薄々分かってたけど、こんな私が舞桜君達と一緒に居て良いのかなって…」


俺達は顔を見合わせる。

そして、笑いが零れた。


「何言ってんの魅來!私達友達でしょ?それに、魅來と一緒にいると楽しいから!」


「うん、オレも魅來と居るの楽しいよ」


「もー、魅來そんな事気にしてたの?魅來は美人さんだし優しいし一緒に居て最高!」


「吏優、聖汰、瀬奈……」


「俺達には魅來は不可欠だ。これからも一緒に居てくれよな」


「舞桜君……みんな、ありがとう…」


うん、これで一件落着………。


うん?何か忘れている様な………。


「舞桜〜!俺まだ動いちゃダメなのかー!?」


あぁ……大翔……忘れてたよ。


………だってお前来ると、言う事言っちまって問題が大きくなりそうだったんだよ……すまんな。






























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