第1話 『転生:05』
その日の夜。
俺は自室のベランダで空を眺めていた。
静岡の町では、春だと言うのにやけに夜風がひんやりとしている。
闇色の空には幾つもの星が点々と光っていて。
この世界と星空はどこか似ている気がした。
空に無数に輝く星の様に、俺達もこの世界で大きくは無いけれど確かに輝いている。
それぞれの個性が光って、社会を成している。
どれか欠けたら、輝きが一段と薄くなる。
そんな事を考えていたら、スマホが鳴った。
「………魅來か」
魅來とは、中学からの付き合いだ。昔から落ち着いた雰囲気を出しており、誰に対しても丁寧に接する。
こんな事を言っては瀬奈に怒られそうだが、副委員長が魅來で良かったとも内心思っているのだ。
「もしもし……どうした魅來?」
「あ、夜にごめんね舞桜君。お取り込み中だったかな?」
「あぁ……。瀬奈や吏優、魅來のあれやこれを想像していてだな……」
「舞桜君、明日学校で覚悟しといてね♪」
「ごめんなさいすみません、もう想像しませんから!?………で、話があるんだろ?なんだ?」
俺は切り替えの早さには自信がある。うん。
勿論想像なんてしていなかったよ…?
「うん……その……全然大した話じゃないんだけどね……」
「良いよ、どんなに小さい話でも聞くさ」
「ありがと……それでね、その、舞桜君って今付き合っている人はいないんだよね?」
「あぁ、前にも言ったがいないな」
「どうしてなの……?瀬奈ちゃんや吏優ちゃんとは付き合う気は無いの……?」
「そうだな、勿論瀬奈と吏優が可愛くない訳じゃない。超絶美少女過ぎて怖いくらいだし、瀬奈からは思いっきし好意を向けられている。俺自身もみんなの事が"友達"という面で好きだ」
「友達………」
通話越しに、魅來が少し考え込むのが分かる。
俺はそのまま続ける。
「俺は、まだみんなと"友達"の関係で在りたいんだ。俺があのメンバーの中の誰かと付き合うなんて事になれば少なからず関係性は微細だろうが変わる」
そんな事で変わる関係性ならば、最初からそんなモノだった……などと言われては良い返しが思いつかないが、俺はその少しの変化が怖いんだ。
「私は……私としては、だけど……舞桜君に幸せになって欲しい!舞桜君は昔からみんなの為に動いて、誰にでも優しくて……自分の事は1番どうでも良いって考えてる……」
「いいや、魅來。俺は今のままで良いよ。十分過ぎる位に幸せだよ、あのメンバーと過ごせる事が」
「なら……。なら、もし、私が舞桜君と付き合いたいって言ったら舞桜君はどうする?」
暫しの間、静寂に包まれる。
俺は、頭の中でゆっくりとセリフを構築して言う。
「付き合う」
「――――――ぇ―?」
「なーんて、冗談だよ。残念ながら付き合わない。言ったろ?俺はこの関係性を崩すのが怖いんだ」
笑い混じりに俺が言うと、魅來が怒鳴ってきた。
………やり過ぎかな。
「もーーっ!ビックリさせないでよ!……ホントに……ホントにビックリしたから…」
「ごめん、謝る」
「もー……許すけどさ…。じゃあ、急に電話掛けてごめんね。本当は星でも眺めてたんでしょ?」
え、怖い。
なに、魅來さんエスパーか何かですか?
「それじゃ……おやすみ舞桜君」
「あぁ、おやすみ魅來」
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