弟の最後
そうして翌日になって、家のホールに使用人全員が集められた。人数にして30人くらいか。学園の時に居た人数が10人程だと聞いている。まあ、スキルの被害に合ったのはその内の3人らしいけど。
使用人を集めた表向きの理由は、新当主の初心演説と補佐に俺が就くことを知らせることだ。
だが、そもそも、普通はこんなことはしない。使用人は見な兄さんが当主になる事は昔から把握しているし、元より俺が補佐に就くことも決まっていた。まあ、本来ならもっと先のことになったはずなのだけど。
そして、裏向きの理由は昨日、兄さんが話していたものだ。なので、この場には使用人と同じく弟も呼ばれている。ただ、少しでも反発するようにと、立ち位置は使用人が居る位置に近い場所になっている。
そして、兄の挨拶が終わり俺の挨拶の順番が回ってきた。使用人を見渡すと少なからず見慣れない顔が在った。おそらく、俺が家を出ている間に雇った新人だろう。
「私は当主の補佐をすることになった。元より私はこの家の生まれなので知っている者が大半だと思うが、今後もよろしく頼む。ああ、そうだ。私は近々婚姻を結ぶ予定だ。なので、その相手がこの家に住むと思う。そちらの方もよろしく頼む」
俺の婚姻は本来だったらもう少し先の事だったのだが、兄が当主になり俺がその補佐に就くことになったため少しだけ予定が早まった。と言うか、これが決まったのが2日前なのだけどな。まあ、これについても一部の使用人は知っている事だから、驚いている使用人は少数か。
「はぁ!?」
これで俺の挨拶は終わりだな、と思っていた所で弟が騒ぎ出した。
「何だよそれ!? 聞いていないぞ!」
「なんのことだ? 俺が補佐に就く話しか?」
「ちげぇよ! お前が婚姻することだ! 何でお前ばかりいい想いをしているんだよ!」
いや、そもそもこの婚姻、婚約を決めたのは両親だし、それは俺が学園を卒業してから直ぐに決まったことなんだけど。4年前のことだぞ? あぁ、そういえばその頃から問題ばかり起こしていた弟には伝えていなかったような気もするな。
「いい想いって、多少俺の思いも反映させてもらったが俺の婚姻は親が決めたことだ。俺に文句を言われても困る」
「だったらその相手を俺に寄こせよ!」
「は?」
何で弟にあいつをやらなければならないんだ? それに俺の思いも反映してもらったって言ったよな? 俺があいつのことを好きだから婚約してもらったんだよ。それくらい考え付けよな。
「2人ともそれ以上はここで話す内容ではない。少しは落ち着け」
「すまない」
「何だよ! 何なんだよ!! 何で俺ばっかりこんな嫌な目に遭っているんだよ! そうだよ! そもそも当主は俺がなるべきだろう!? そうだったはずだ!」
「何を言っているんだ、お前は。それに元からそのような予定は一切ない」
「はああぁあ!?」
いや、何で長兄である兄が居るのに当主になれると思っていたんだ? と言うか、弟ってこんなに兄さんに突っかかる事があったか? 今までは気に食わないことがあっても兄さんにはあたることは無かったと記憶していたんだが。
もしかしてスキルの影響か? いや、直接ではなく強いスキルを得たことで自分は偉い、上に立つべきだ。みたいな思考になっているのかもしれない。もしかしたらスキルがあるからどうとでもなるとか、単純な考えかもしれないけど。
「あのスキルを持っている俺が当主になるべきだろう!? 強いやつが上に立つ! それが最善なんだよ!」
「強いから、凄いスキルを持っているからと言って当主になれる訳ではない」
「ああ! わかったぞ! そうやってあのスキルを手に入れた俺が羨ましくて嫌がらせをしているんだな!?」
「そんな訳ないだろう。とりあえず、お前たちは距離を取っておきなさい」
ヒートアップする弟に否定の言葉を投げかけ、兄はホールに集まっている使用人たちに弟から離れるように指示を出す。まあ、ホールから出るような指示を出していないことからも兄が使用人たちを弟がスキルの対象にするように動いているのがわかる。
「嘘をつくな! そうかよ! だったらお前ら全員俺のスキルで殺してやる!」
弟はそう言って手を俺たちが居る方へ掲げた。おそらくスキルを発動させたのだと思うが、こういったスキルは発動したかどうかの判断が難しい。
特にこの『ざまぁ』スキルは発動しても直ぐに効果が出る者ではない上に、対象に触れる必要が無いため、もしこのスキルで人を殺したとしても証拠が残らない。極めて厄介なスキルである。
さて、どうなるか。今までのことを思い出すとスキルによる自滅ダメージは直ぐに出ているみたいだが。
「ははは、これでお前らは近い内に死ぶっ!?」
スキルを発動させたことで自分の思い通りになると確信したように高笑いをした弟だったが、言葉を言い切る前に突然吐血した。
「うべっ? 何…だこれは? ごぶゅふ」
まだ、学園で負った怪我が治りきっていなかったためここまで車いすで来ていた弟は、さらに吐血しながら車いすから転げ落ちた。
「ごふっ、何べこぶっなことに?」
何で自分が吐血しているのかもわからないまま、弟の体から急速に力が抜けていくのがわかった。
「うぞだ。何べ? まだ、死にたく…な……」
最後に自分が死ぬことを理解したのか、弟はそう残して完全に体から力が抜けた。
「ぐっ!?」
「ごえっ!?」
弟の体から力が完全に抜けると同時に使用人たちの中から2つ程の呻き声が上がった。その声を上げた者は周囲の使用人たちから心配されながらも苦しみ続けている。よく見るとその声を上げている者たちは、普段から態度の悪い使用人のようだった。
これは兄の策略が上手くはまったと言うことなのかもしれない。
そして、その呻き声が聞こえなくなると、その者たちは弟同様床に力なく倒れ込んでいた。
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