『ざまぁ』スキルの結末
弟が死んでから数日が経った。あの時、弟と同じく倒れた使用人は死ぬことは無かったが、現在も仕事に復帰できない程度には後遺症が残っているようだ。
そして、今は夜だというのに俺は兄からの呼び出しを受けて執務室へ来ている。
「何か問題でも起きたのか?」
「そうだな、一応問題…とは言えるかもしれない」
「どう言うことだ?」
「すまないがちょっとこれを見てくれ」
そう言われて兄から差し出された書類を受け取る。その書類には空白が目立つが、どうやらあいつが手に入れた『ざまぁ』スキルについての考察が兄の文字で書かれている。
「これがどうしたんだ?」
「それは俺があのスキルについて書いた考察書の一部だ。それは本来、空白部分は無く前面に文字を書き連ねていた」
「は? どう言うことだ? 誰かが消したと言うことか?」
まさか俺をここに呼んだということは疑われているのか。
そんなことを思っているのが表情に出たのか、兄が直ぐに訂正してきた。
「ああ、すまん。疑っている訳ではない。少し確認したいことがあっただけだ」
「なら良かった。それで確認したいことってなんだ?」
「お前は、このスキルに関する事をどこまで思い出せる?」
「え? いや、最近のことだから当然思い出せ…る。んん?」
あれ? 何で思い出せない? あいつがあのスキルを手に入れて、メイドや親に使って…どうなったんだっけ? 確か何かがあって両親は怪我をした。だが、どうしてだ? 詳しい内容が思い出せない。
「その様子だと思い出せないようだな」
「ああ、あいつがスキルを手に入れて何かをしたまでは思い出せる。でも、どんなことが起きたかまでは思い出せそうにない」
「そのようだ。なら、あいつがどうやって死んだかは思い出せるか?」
「は? そんなの一番最近のことだからさすがに…え? 何で死んだんだ? あいつは」
ヤバイ。何も思い出せない。どうやってあいつは死んだんだ? スキルを使ってざまぁして、どうなった? いや、あいつのことだ。スキルを使って誰かの恨みを買って殺されたのだろう。たぶんそうだ。……いや、本当にそうだったか?
「それも思い出せないだろう? 俺も同じように思い出すことが出来ない。この書類に書き込んでいた消えた部分のこともさっぱり思い出せない状況だ」
「どう言うことだよ」
「これについては私にも良くはわからない。しかし、これがあのスキルの情報が極端に少なかったことに繋がるのだろう。おそらく過去に居たスキル所有者の周りに居た者も、徐々にスキルについての記憶が無くなっていったのだろう。そしてこの書類に残っている分を見るに、最終的にここまでの記憶しか残らなくなると言うことだ」
「な、なるほど」
確かに、あいつがスキルを得た後に調べた時も情報が少ないと感じた。そして、この書類に残っている情報は、その時調べた物の内容とそう変わりはない。
「あいつがあのスキルを手に入れた経緯は不明だ。しかし、こうも記憶から情報が消えていることを考えれば神が関わっていると言われてもおかしくはないな」
「いや、さすがにそれは」
「いや、無いとも言い切れないだろう。そもそも有名なスキルの中には神託により授かったという物もある。それにこうも複数人の記憶を一斉に消せるとなれば人の力では不可能だ。そうなれば神が関わっている以外に説明のしようがない」
「まあ、肯定も出来なければ否定も出来ないんだよな」
神が関わっているいないに関わらず、どうとも言うことは出来ない。それが本当に神に関わる物だったとしても、俺には、と言うか人にはそうだ、と断言できるような根拠を用意できる者は居ないだろうから。
まあ、要するに『ざまぁ』スキルには、人の力を越えた何かがあり、それを知ることは出来ないものだ。ああ、こう言ってみると、確かに神の力のような気もするな。
まあ、そうだとしたら、『ざまぁ』スキルは神の気まぐれによってもたらされる、神の力の一端と言うことか。だから、詳しい情報は記載できないし、記憶しておくことも出来ない、と。
あれ、そういえば『ざまぁ』スキルを手に入れたやつは誰だったっけ? …思い出せない。さっきまで覚えていた気がするのに一切思い出せなくなった。
ああ、これはもう本当に神の力なのかもしれない。まさか、こうも思い出せなくなるとはな。
これはまさに神の力と言わなくて何だと言うのか。
ああ、こうしてスキルを使った者は人知れず、気付かれること無く消えて行ったのだろう。
何ともむなしい結末だな。
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