弟、長兄を『ざまぁ』しようとする


 実家のことが気になり、手紙を出した数日後に俺は実家に戻っていた。


「ははは、心配してくれるのは有り難いのだけどね」


 目の前に居る兄が俺の行動を聞いて呆れたように笑う。心配しすぎなのは理解しているが、今はそんなことを言っている状況ではないのではないか?


「いや、親がああなったのだから心配しない方がおかしくないか?」

「否定はしないけどな。それより父さんと母さんには会って来たのか?」

「いや、メイドに状況を聞いただけ。見舞いはこれからだな」

「そうか。なら早めに行っておけ」

「何かあるのか?」


 兄の言葉に違和感を覚える。命に別条がないのなら早く会いに行く必要は無いと思うのだが、もしかして、対外的にはネイと言うだけで実際は状態が悪いのか?


「ああ、いや。別にそこまで切羽詰まったやつではないよ。ただ、今後、あいつの動き次第ではどうなるかはわからないと言うだけだ」

「あいつが何かやったのか? まさか、兄さんに!?」

「まあ、そう言うことだ」


 両親をざまぁ下から次は近くに居る兄が標的になるだろうとは思っていたけど、こんなにも早く行動に出るとは。あいつは先のことを考えていないのか? 

 あれ? だが、兄さんは目の前で元気そうにしているんだけど?


「兄さんもやられたんだよな? 何で何ともないんだ?」

「その辺りはよくわからないが、おそらく何か条件があるのだろう。『ざまぁ』スキルは基本的に自分に対して何かをやって来た相手を貶めるスキルだったはずだ。そこから考えれば、何もしていない相手や、ただの逆恨みだけではスキルは発動しないのではないかと思う」


 確かに俺の知る限りもスキルの効果はそのような事になっていたはずだ。と言うことは、俺が直ぐに家を出たのは正しい判断だったのか? いや、そもそも弟に関わらないように過ごすことが1番と言うことだな。


「そうかもしれないな。誰にでも効果があるようなスキルは神の力そのものだ。人が扱えるようなものではない」

「まあ、その辺りはまだ検証中だな。今後のことも考えればしっかりとした情報を集めるべきだろう。ちょうどいい存在も居ることだしな」

「兄さんらしい言葉だ」


 兄さんは結構学者気質な人だ。学園でも成績優秀な上に論文まで執筆していた程だからな。前はどうだったかは知らないが現在では、弟のことは厄介な存在ではなく興味が引かれる存在として見ているのだろう。


「そう言えば、あいつは何処に行ったんだ? ここに来てから一度も見ていなかったのだけど」

「ああ、それなら、学園の方に向かった」

「え、それは拙くないか?」

「ああ、だが、こちらが変に手を出せばスキルの対象になりかねない故、止めることは出来なかった。一応先に学園の方へ通達を出している。何事もなければ通達の方が先に学園に伝わるはずだ」

「即は無いけど、それくらいしか出来ることは無いか」


 弟は学園に通っていたが、卒業はしていない。通っていればちょうど最高学年になっている都市ではあるが、ことあるごとに問題を起こし続け退学となっているのだ。

 おそらく学園に向かったのは、学園に通っている時に自分を馬鹿にしていた級友に仕返しをするつもりだからだろう。

 ただ、弟が馬鹿にされていた主原因は弟自身が問題を起こし続けたことによるものだから、果たしてスキルの効果が発揮されることはあるのだろうか?


「ただ、少し気になる事があってな」

「何か、拙い事でも起きそうなのか?」

「いや、そう言うのではなく、学園に向かう際にあいつが足を引き摺っていたのだ。この家で生活していて、怪我をした何て聞いていなかったから気になっていたのだが」

「階段を踏み外しただけじゃないか? あいつはたまにそうやって怪我をしているだろう? 大体人の所為にしていたけどさ」

「そうだとは思うが、誰の所為にもしていないのが気になってな」

「そう言う時もある、と言うことかもしれない。でも兄さんが気になっていると言うことは何かあるのかもしれない」


 弟の行動は正直読めない所が多い。故にいつもと違う行動をしてもさして不思議ではないのだけど。

 考えても仕方がない。そう兄との話を終えて、俺は両親が療養している部屋に向かった。

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