楽観的な両親と慎重な兄

 

 両親に弟のことを報告しに行った結果、弟の言動は全て虚言と判断したようだ。あの態度を見る限り、虚言ではないと思うが、そもそも弟が嘘をよくつくからそう判断しても変ではない。


 おそらく弟は、スキルを使って両親を蹴落とし、家督を継ぐ予定の兄に変わって当主になろうとするだろう。そうなればこの家は長くは持たないだろう。

 弟が真っ当にこの家の運営が出来るとは思えないし、確実に執務をほっぽって家の資金を食いつぶすだろうな。


 なるべく気を付けてくれとは最後に忠告できたけど、あれは確実に無視されるな。両親は基本的に俺の兄である長男の言うことしか真剣に受け付けない。それが、弟が両親をざまぁしようとするだろうと言う判断に繋がっているのだけど、どうなるのか。


 両親があの様子では上の兄にも伝えた方が良いだろう。俺はそう判断し兄が居るだろう場所に向かった。




「その話は本当か?」

「直接俺に話を持ってきたから可能性は高いと思う。さすがに絶対に持っているとは言えないけど、嘘を言っているような様子ではなかったのは確かだ」

「ふむ、なるほど」


 兄に伝えると割と真剣に受け取ってくれた様子。

 そして、今何かを考え込んでいるようだけど、もしかしたら既にスキルの影響を受けている可能性のある事案が発生しているのだろうか。


「何かあったのか?」

「ん? ああ、昨日から様子のおかしいメイドが居るんだ。よく知っているあの人なんだけど」

「あー、なるほど」


 あの人、と言うかあのメイドはここ数年のうちに我が家で雇い始めた比較的若いメイドのことだ。俺がこの家にまだ住んでいた時から働いていたのだけど、一部の家族に対して以外の態度がかなり悪い。一応雇い主である両親と目の前に居る兄には結構愛想がよく、しっかりした態度で接しているのだけど、それ以外の者に対しては不愛想な態度を取っていた。

 その対象は俺ら兄弟だけではなく、他の使用人に対しても同じような態度で接し、時には指示に従わないと言うことも在るらしい。さすがに俺は全てを把握している訳ではないので、それが本当か同課はわからない。


 しかし、少なくとも弟に対しては不愛想どころか無視すらしている所を見たことがあるので、確実に弟のざまぁの対象になっていることは確実だろう。


「対処するの?」

「いや、様子見だ。少なくとも本当にそのスキルを弟が手に入れたかどうかの判断が出来るまではそのままだな。それにどの道、あのメイドは近々解雇の予定だったから都合が良いだろう」


 ああ、スキルがあるかどうかの確認するためにメイドは助けないと言うことだな。おそらく誰も止めないだろうし、兄が指示を出せば使用人はそれに従い手を出さないだろう。


「とりあえず話はこれだけなんだけど、兄さんも気を付けてくれよ。おそらくあいつは難癖付けて来るだろうから」

「ああ、わかっているさ。あのスキルが本当だとしてもあれには当分近づかないように用心しよう」


 両親には俺の忠告を聞き入れてもらえなかったけど、兄はしっかりと対処するようだ。これで弟に実家を乗っ取られる可能性が多少は減るはずだ。


「そうしてくれると少しは安心できる。父さんと母さんは楽観視しすぎだから心配なんだけど、俺が言ったところで聞き入れないし」

「それについても確認が出来次第、俺から伝えておくさ」

「ありがとう兄さん」

「いいさ。それより何か起こる前にお前は早く帰った方が良いだろう」

「ああ、そうする」


 俺はそう言って兄の部屋を出て直ぐに自分の部屋に戻り、そのまま帰りの支度を済ませて実家を出た。




 翌日、兄から報告が来た。やはりと言うか、わかっていたことではあるのだが、弟が『ざまぁ』スキルを持っているのは嘘ではないことが証明できた。


 兄の報告によると、様子がおかしくなっていたメイドがいつの間にか弟の奴隷になっていたらしい。

 普通であればそう簡単に奴隷になるようなことは無い。高額な借金を持っている、犯罪をしたなどの理由が無い限り奴隷堕ちは起きないはずだ。少なくとも、メイド側に奴隷堕ちするような話は無かったらしい。


 そこから考えれば、弟が何かをしてそうさせたと言うことだろう。少なくとも弟が自分のスキルでこうしたと主張している上に、それを否定する要素もないのだから。


 これは本当に拙いことになったかもしれない。このままだと、何かしらの対策を建てておかなければならなくなりそうだ。

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