第三話
誰もいない昇降口で外靴に履き替え、鞄を肩にかけて校門を出ると、
「あ、お兄さん」
校門前で待っていた、近くにある私立中学校の制服を着た女の子が俺の隣にやって来た。
「こんな時間まで待ってなくていいのに・・・」
「私が好きでやっていることなので、気にしなくて大丈夫です」
そう言って、こちらを見ながら微笑む彼女の名前は
透き通るような白い髪と淡い青色のつぶらな瞳を持っており、顔立ちもかなりいいため中学では男女共に人気があるようだ。
ちなみに乃愛がよくいる学校の図書室では、彼女を一目見ようと訪れる生徒がかなりいると聞いたことがある。そんな彼女に付けられた別名が『図書室に顕現した天使』らしい。
この別名を本人から聞いた時はすぐに納得できたぐらいしっくりくる。
「そうか。早く帰らないと、時雨がお腹を空かせて待っているだろう」
「そうですね。この時間ですと、
「それに早く帰らないと跳び蹴りが飛んでくるし」
それを聞いて苦笑いする乃愛の鞄を持ってあげるために手を差し出す。
それを察した彼女は「ありがとうございます」と言って、肩にかけていた鞄を俺の手にかける。
(うお!相変わらず鞄が重たい・・・)
以前乃愛の鞄の中を訊ねたときがあり、その時に『毎日、その日授業で使った教科書類や自分で買った小説が入っているんですよ』と言っていた。
あまり運動していないとはいえ、男子である俺でも重く感じてしまう。
こんなものを毎日のように持っている乃愛は俺より力持ちだ。言ったら半殺しにされてしまうが。
片腕が2つの鞄の重みで静かなる悲鳴を上げながらも一緒に帰路につくと、そんなことを知らない乃愛がこちらを見てくる。
「お兄さんは今日も教室で寝ていたんですか?」
「クーラーがついてたからつい・・・」
空いた手で後頭部を掻きながら質問に答えると、手で口を隠すように可愛く笑う。
そういった仕草が人気を集めている理由なんじゃないかと思う。
「季節的に梅雨が明けて夏に入っていますからね。私もその気持ちは分かります」
「流石、俺と類似した思考を持ってるだけはあるな」
「一年の大半をお兄さんの家で過ごしていたら誰だってそうなりますよ」
乃愛と俺は兄妹じゃないが、家が隣で両親がかなり仲良しなので昔からよく一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、あとは寝たりして過ごしている。
今でも両方の親がよく家を空けているためそんな感じで、本当の妹かと思ってしまう時が多々あるのだ。
「俺と過ごしたことがなくても、今と同じなんじゃないか?」
「そうかもしれませんね。私はお姉ちゃんの悪い遺伝子をしっかり受け継いでいるので」
そう言って赤く染まった空を眺めている乃愛には4つ年の離れた姉がいる。
男子顔負けの運動神経を持っているのだが、根っからのインドアで今は一日中自室に籠って株をやっているほど。
その悪い方の遺伝子はしっかりと妹にも受け継いでいるようで、休みの日は友達とほとんど遊ばず家の中に籠っているのだ。
「他は全くもって違うけどな。身長とか運動神経とか何かとは言わないがあれとか」
「私が気にしてることを言わないでくださいよ!」
「事実だから仕方ないだろ。それにあの人に勝つなんて、遺伝子操作しない限り絶対無理だから」
声を荒げて顔を赤くする乃愛に、溜め息をつきながら肩を竦めて答える。
(あの人、俺と同じぐらいの身長があって、胸にはスイカがくっついてるからな・・・。それに比べて乃愛は俺の肩より少し低いぐらいで運動はからっきし。胸に至っては少々の膨らみがあるぐらい。あの人とは先進国と発展途上国の差ぐらいあるから、気にしないという方が難しいですわ)
「まあ、乃愛にはあの人よりいいところが多いから、気にしなくていいと思うぞ」
「シスコンのお兄さんに言われると少し身震いがしました・・・」
「グハッ・・・!」
慰めるつもりで言ったはずなのだが、それに肩を抱えて身震いをされると、流石の俺でも堪えてしまう。
その後も他愛もない話をしながら歩いていると、自分の家の前に辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます