第二話



「はぁ・・・」


 彼女はそれを聞いて、大きめのため息をつく。

 言葉は違えど今まで何十回と告白を受けていれば、この教室に満ちている空気、いや貰った手紙だけで察しがつく。

 告白される側の経験が無くても、大体は分かりそうなのだが・・・。


「そ、それでどうなのかな・・・?」


 ため息を聞いて少し弱腰になっているが、それでも答えを求めようとするのは男の本能というものだろうか。

 私はもう何度繰り返したか分からない言葉を告げる。


「私はあなたに興味が無いの。こんなことのために呼び出したのなら、早く帰ってくれないかしら?」


「・・・う、うそだろ。か、可愛いくもないのに調子に乗ってんじゃねえぞ、このアマ!」


 振られてしまい半ばやけくそになったのか、彼は幼稚な悪口を言って教室を駆け去っていった。



 ――――――――――



(こ、これはチャンス!今のうちに!)


 そう思った俺は長年培ってきたステルス能力(思い込み)を駆使し、男が出ていった方とは逆のドアに向かう。


「もしかして帰ろうとしてないでしょうね、月代つきしろくん」


「・・・」


 音を立てていないはずだが、彼女は俺がこの部屋から出ようとしたことが分かったようだ。

 恐る恐る声のしたの方に顔を向けてみると、彼女はこちらを見ていた。ガン見していた。


(も、もの凄くこちらを見てるんですけど・・・。そ、そんなに見られたら、勘違いしちゃうっ!)


「凄く驚いているようだけど。私とあなた、何年一緒のクラスだったと思う?」


 そう言われ、何年同じクラスだったか考えてみることにした。


(えーっと、桐谷さんとは小学校から同じ学校。俺が覚えている限りでは、彼女とは小学3年の時から今の高校1年までずっと同じクラス。

 ということは8年間も一緒のクラスだったのか・・・。これはもう偶然を通り越して運命だな、うん!)


 ラブコメ系の小説で運命の相手とか絶対いないだろとか思っていたが、案外いるもんだなと今思う。

 そんな様子を見た彼女は心底落胆していた。


「このやり取りは1ヶ月前にもやったはずよ。なのに憶えていないなんて・・・」


「あ、すみません・・・」


 反射的に謝ってしまうと、桐谷さんは額に手を当ててため息を漏らす。

 どうやら先ほどの話は1ヶ月前にも言っていたようだ。だが、俺は1ヶ月前のやり取りなんて憶えていない。

 唯一憶えていることは俺の妹であるラブリーマイエンジェルこと、時雨しぐれに「お兄さま」と呼ばれたことぐらい。それ以外は全くだ。


(あの時の我が自慢の妹は可愛いかった・・・。俺の部屋のドアから少し顔を覗かせて、「お兄さま・・・?」って言われた時は余りの尊さに死ぬかと思った)


「まあいいわ。それよりも、あなたは何故いつも私が告白される時にいるの?いい加減教えてほしいのだけど」


 こっちが脳内フォルダーで癒されそうになろうとしたら、向こうから一方的な問いかけが来た。

 桐谷さんが疑問に思っていることは俺も知りたいことである。

 毎回昼寝をして放課後に起きた時に限って、目の前で告白されている。偶然なんて言葉で片付けられないほどに。

 そのせいで気まずくて帰るのが遅くなっているのだ。こちらは待たせている人がいるっていうのに・・・。


「それでどうなの?」


 彼女はかなり知りたいようで、急かすようにこちらへ詰め寄ってくる。

 その問いに対しての答えを持っていないので、逃げるように全力で教室を出ることにした。


「ちょ、ちょっと!」


(後ろから声が聞こえたが無視だ。俺は早く家に帰るんだよー!)


 結果的に彼女が後ろから追いかけて来ることはなく、昇降口まで安全に行くことが出来た。


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