今日も彼女は教室にいる(仮題)

ラエティア

第一話

 授業が終わった放課後。

 夕暮れの日差しに照られるグラウンドでは汗水を流しながら、練習を終えた野球部たちが整地のためにトンボがけをしていたり、サッカー部がストレッチをしている。

 そんな時間帯に教室には数々の机と椅子、そして3つの影が残っていた。


「今日、私を呼んだのはあなたで会っているのかしら?」


 教室の真ん中にいる女性から、この部屋に漂う甘い雰囲気を壊すかのように放たれた冷たい声。それを聞いた彼女の前にいる男性は、一呼吸を置いてそれに答える。


「ああ」


 二人は美男美女。

 特に女性の方は、学校でも高嶺の花と呼ばれている。

 彼女の名前は桐谷きりやしずく

 成績優秀で容姿端麗。少し目が鋭いが、すっと通った鼻筋と彼女の持つ黒くて長い髪、シャープなフェイスラインは多くの男性を魅了してきた。


「それで何か用かしら?」


「君に、話しをしたかったからかな」


 この二人は接点があるわけじゃない。

 あるとしたら、廊下でたまたますれ違ったというぐらいだろう。その程度のものなのに、彼は彼女にラブレターを渡したのだ。


「話?」


 彼女はそれを聞いて、内心呆れていた。

 今までに何十回も告白され、その時に先ほどの言葉を何度も聞かされていたからだ。

 彼はそれに対して頷く。


「僕がこの気持ちに気づいたのは去年の秋、いつもみたいに僕は君と廊下ですれ違った。そのとき、僕は君に見惚れてしまった。「ああ、なんて可愛いんだ・・・」って。それで今日、僕は心に決めたんだ。この言葉を君に捧げるってね」


 最後にポエマーみたいな言葉を放った彼は高鳴る鼓動を落ち着かせるために、息を吸い込んで吐き出す。そして、意を決して告白する。


「僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」


 そう言って彼は頭を下げるのであった――――




―――――




『ハッ!?』


 目が覚めるとそこは見慣れた天井だった。


『何だ、夢か・・・』




 ―――と、夢オチにしたい今日この頃。


 どうも、全く二人と関係ないのに告白現場に居合わせてしまって気まずい感じな俺こと、月代玲つきしろれいです。

 ごく普通の高校一年生で優れた才はなく、勉強と運動は平均的な高校生と大差なし。

 容姿も普通で数少ない仲のいい奴からは、『お前って何もかもが普通だよな。そのシスコンっぷりを除いて』とか言われるぐらい普通。

 普通って何なのか分からくなってしまうぐらい普通。

 もし他の奴らよりも誇れるものがあるとしたら、それは妹たちぐらい。

 

 そんな俺がなんでこんな現場にいるかと言うと、六限目を寝て過ごしたらいつの間にか、イケメン君が教室に一人でいたんですよ。

 多分他クラスの人でここにいる理由が分からないけど、とりあえず出ようと体を起こそうとしたんですよ。

 そしたらあいつ、『桐谷さん、付き合ってください!』なんて言ったもんで、反射的に元の姿勢に戻ったら実はそれは練習だったようで。

 その後も、『俺の女になれよ。キリッ』とか『好きすぎて死にそうです、付き合ってください!』など、告白予行練習がここで始まってしまい、気まずくなって抜け出すタイミングが掴めず、今に至ると。


 個人的にはイケメンに見つけて欲しかったのだが、現実は非常で桐谷さんしか見つけてくれなかった・・・。

 こんなところでステルス迷彩顔負けの影の薄さを発揮してしまったのだろうか。

 それなら桐谷さんは誇っていいと思いますぞ。


 冗談はさておき、そろそろこれも終わりを迎えてしまう。

 そうなれば気まずさ倍増で迎え撃たねばならない。


 見つからずに去ってやるぞ!

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