むねがすく

 どうもどうも。

 アタシは脇野わきの若葉わかば。性格は名前のとおり、脇のほうで発芽はつがした、どこにでもある若い葉っぱ――要は脇役なので、目立った行動なんてしたくありません。授業中、先生に指名されただけで、あたふたしてしまう極度のあがり症です。

 クラスではまず、出席番号が最後。いやまあ、『鰐淵わにぶちさん』とか『わらびさん』とかが居れば、たまにお尻から二、三番目になりますが。


 ――十二月二十三日。

 バドミントン部の自主練習を午前で終え、アタシはさっさとカバンとラケットを背負いました。だってあすは、雨が夜更けすぎに雪に変わるかもしれない、ビッグイベントなのに、スマホの予定表は雪よりも真っ白け。

 華のJKが鼻で笑われているようで気が滅入るのも当然です。一緒に過ごしてくれる人が居れば――ふと頭に浮かんだのは、ひとりのクラスメイトでした。

「もしかして……」

 そのも、学校に来ているかもしれない。アタシは夢見がちの脇役思考で、彼らの活動場所でもある第二調理室に足を運んでみました。すると、普段はいかにもな南京錠がかかっている入口のそれが外されており、わずかに引戸が開いていたのです。

「あ、あ……あの、失礼……します」

 を求めていたのに、実際にイベントが発生すると胸が張り裂けそうになります。

 誰も居なかったらすぐ帰ります。というかなんか怖い。いや、もはや帰りたい。

 もし、同好会の会長さんの念が残っていたらどうしましょう。

 逆に、マジでが居たら、むしろなにを話しましょう。

 おずおずと隙間から荒んだ教室を覗きこんでみると、まず目前の窓が不自然に開いていました。食器棚付近には菜箸が散乱しています。人の気配がないのを確認後、ラケットを袈裟に構えてゆっくりと入室すると、

「げっ……」

 教壇の横には、誰かのゲ――ではなくて、げえげえ――いや、戻してしまったモノが、放射状を模すように撒き散らされているではありませんか。

 色を確認しただけでもしまいそうな、出したてフレッシュ、鮮度抜群、具の鮮やかなそれは、ちょっと前までここには人が居た裏づけになりました。

 調理室には女子の残り香が漂っています。誰と言われると、複数が交じり合っているのでなんとも言えませんが、嗅ぎ覚えのある匂いです。ということは、やはりもここに居たのでしょう。

 散らばっている菜箸のうち、一本の先端が黒く塗りつぶされています。どうにも料理に使ったとは思いにくい惨状。

 ではアタシのサイコメトリーを使って、調理室の思念を読み取り――!

 なんて、少しばかり『主人公』に憧れてみましたが、もし特殊能力があったとしても、絶対にこの現場は見たくはありません。

 だって、ここでは誰かがゲロを吐い――あ、言っちゃった。


「……なんかヤバいかも」

 調理室の奥から、おぞましい気配を感じたアタシは、高校生探偵気取りもほどほどに、一年生の下駄箱へ逃げ帰りました。

 ローファーに履き替えようとしている最中、ふと声をかけてきたのは、クラスメイトで友人の生駒いこまくんでした。話を聞く限り、生駒くんも部活動で学校に訪れていたそうです。また、を誘って男だらけのクリスマスパーティを開催しようとしたのですが、あっさりフラれてしまったとのこと。無惨。

 こうして、同じ男子を得られなかった同士、自棄やけっぱちになって、ふたり寂しくパーティを開催することを決めました。クリぼっちを回避できて、胸がすく思いになったので結果オーライですが。


 来年はと――

 鮎川あゆかわさん、麩谷ふたにくん、光田みつださんと、もっと仲良くなれるでしょうか。

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