食材の檻(加筆版)

常陸乃ひかる

献立

むねやけ

 それはクリスマスイヴに差しかかろうとする、休日の出来事だった。

『ほら、平等に解決したいだろ? なあに、簡単なゲームさ。くじで当たりを引いた者が主役になるんだよ』


 腕を組み、肩をすくめ、寒さに耐える者が居る。

 ――将来を見越すように震えている。


 ベージュのカーディガンの袖ごと、両手をポケットに突っこむ者が居る。

 ――歯を食いしばって腕の痛みに耐えている。


 桜色パーカーのフードを被り、顔の冷えるのを防ぐ者が居る。

 ――鉄の味がする口内で楽しげに舌を転がしている。


 片足に体重を乗せ、スクールタイツ越しに足をこすり合わせる者が居る。

 ――とりあえず目が死んでいる。


 どうやら、人は偶然で人生を左右されるようだ。

 けれど、偶然では人をあやめる機会はあまりない。

 一方、『偶然の偶然の偶然の――偶然』は人がことがある。


 冷えきった一室には数名の生徒が居る。

 各々は、今からおっぱじまろうとしている単純明快なゲームの結果次第で、人生が大きく変化してしまうと、寒さとは別の胴震どうぶるいを覚えていた。

 もちろん法的な力や、格差による強制力はない。怖ければすぐに、EXITへ足を向ければ良い。だのに胸焼けがする連帯感が生まれ、三人が三人に対して曲解きょっかいしてしまっているのだ。

 誰かが一言、


『バカなことはやめよう』


 と意見していれば、すぐにでも風変わりな日常に戻れるのである。

 命をすゲームなんて、語り尽くされた陳腐ちんぷ御伽噺おとぎばなしだ。

 人間は一日に、約七十回の選択を迫られる。ゆえに、に至るまでの日常で、ひとつでも選択を間違わなければ良い。

 であれば高確率で、真っ当な人生を歩めるのだから。

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