1食目『 川愛佳』

0 採食同好会

「――うん。ある同好会をずっと探してんの。でもダメ、約三十万件ヒットのうち完全一致はほぼナシだもん」

 それは遠い過去。

 鮎川あゆかわ愛佳あいか外耳道がいじどうにへばりつき、いつまでも出てこない虫のごとく、


採食さいしょく同好会どうこうかい


 という単語が、ぼんやりする情景とセットになっていた。

 何年前の出来事? 誰からの言葉? ほとんどが不明瞭ふめいりょうなのに、不定期にスマートフォンをタップするのが例になっている。

「……思い出せん! ねえ、アナンちゃんはなんか知ってる? って知るわけないよね。あなたと会ったの、そのすぐあとだし」

 愛佳は諦観ていかんの末、端末を机上に放り出し、タンブラーに残ったぬるいブラックコーヒーを飲み干すと、肩甲骨を超える茶髪を振り回しながらベッドにダイブした。

「あすになれば? そっか、あすから新生活だもん。でも、ちゃんと友達できるか心配なんだ。調子に乗って食い過ぎると、また……」

 顔面にかかった茶髪を振り払いながら、枕に顔をうずめる。嗅ぎ慣れた匂いは不安と相俟って、余計にいとおしく感じる。

「同好会に入れば、きっと友達できるよね? わたしの新しい友達、いつかアナンちゃんにも紹介できたら良いね」


 ――採食同好会。

 実体が定かではないモノへの執着が、ここ数年間、愛佳の原動力になっていた。

 理由は簡単。

「まあ良いや、なんか食べよ。アナンちゃんも一緒に食べるかな?」

 食欲バカだからだ。

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