39 レーズンパンの酸味(選択)
18
「悪いけど、くじを作ってくれないかい?」
それを受け取った杏は先端を隠した四本を背中に持ってゆき、後ろ手で混ぜ始め、
「せーので引こうじゃあないか。さあ、好きなのをつまんでくれ」
しばらくして四本を握った片手を突き出しながら、終局への宣告をした。
運命を決める選択だというのに、
どちらも未来が取ろうとしていた菜箸ではなかった。黒いインクで塗りつぶされた悪魔の菜箸を引くのは、自分か杏か――と確信した。
人生最大の選択なのだから、何分迷ってもおかしくはない。が、すくんだ様子が露呈してしまうのも
「ははっ……」
「引かないのかい?」
一分前の記憶すら曖昧で、杏となにを言い争っていたかさえ思い出せず、未来は失笑した。胃から上がってこようとするレーズンパンの酸味が、喉から消えた時、夢遊病のようにふわっと口が動いた。
「当たりを引くのは杏、あんただよ? どうぞ先に選びな」
「ふうん。じゃあ遠慮なく」
未来のある記憶では、三番目にくじを引いた者が大当たりなのだ。また、言い出しっぺが大当たりを引くという記憶も、頭の片隅に漂っていた。
単なる願掛けである。
未来に煽られた杏は、自身に最も近い菜箸を親指と人差し指で軽くつまむと、静止した。最後に未来が、残った菜箸に指を伸ばした。
怖気づいている気風は、愛佳にも富士彦にも、もちろん杏にもなかった。
「さあ引くよ。せーの――!」
19
杏の音頭に合わせ、未来は自問した。
この世界で、高校生が経験するのは論ずるに足りない行為ばかりではないか?
友達と喧嘩する。
流行りの動画で盛り上がる。
仮病で学校を休む。
文化祭ではじける。
食いすぎてゲロを吐く。
勉強以外に、遊びも後学のひとつだとしても、四月からの数ヶ月間は本業をだいぶ逸脱していた。その結果、とんちんかん極まりないくじ引きをしている。
入学した当時、ふたりから同好会に誘われて心が躍った。高校でも孤立を選ぼうとしていた矢先の出来事だったからだ。けれど、根本を質せば杏の勧誘のお陰でふたりに出会えた。
それなのに、皮肉にも選択を間違え続け、四人が反目してしまった。
あくまで夢物語だが、時間の神が現れて『過去へ戻る覚悟があるか?』と誘惑してきたら――
「ひたすら首肯を繰り返すだろうか……」
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