34 セルフでケーキ入刀(復活)

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 三日前――十二月二十日。

 あんが自らの手で脇腹に入刀し、保健室に運ばれたあと、富士彦ふじひこは生徒指導室に軟禁されていた。学校側が、一件を大事おおごとにしようとしていないのは明白だった。であれば、そちらに乗っかてしまったほうが富士彦にも都合が良い。


「どうして刃物なんて持ってたんだ」

 名前どころか、顔さえも覚えていない生徒指導の教諭が、面と向かって威圧してくる。これが、圧迫面談――! 関係ないが、この指導教諭の性別がわからない。声が野太く、ハイパーベリーショートなので男だと思うのだが、たまに町で見かけるオジサンみたいなオバサンの可能性も捨てきれず、延々と脳内モンタージュを繰り返しているうちに失笑しかけ、それをぐっと堪えた。

「黙ってないで答えろ」

 ほどなく業を煮やした指導教諭が声を張り上げ、わずかに垣間見えたなまめかしい余韻。衝撃の事実である、たぶん性別は♀だ。

 誰の指示かは知らないが、指導教諭(女)は、はなから富士彦を『悪』だと決めつけていた。ていよく一年生に非を押しつけ、安藤家に関わらずに一件を片づけようとしているのだろう。

「お前のためを思って言ってるんだよ。正直に話せ」

「じゃあ、安藤杏あんどうあんに直接聞いたらどうです? どうせ、安藤家を敵に回したくないから、是が非でも外様とざまの俺を悪者わるものにしたいんでしょ? ちなみにあの出来事はカメラですべて録画してあります」

「なにを言ってる、安藤は……。あぁ、それならカメラを預かる。あとは先生たちに任せておけば良い」

 あまつさえ、この指導教諭は明らかな隠蔽を窺わせた。こんな大人が教育者だなんて、憤りを通り越して、情けなさを覚えてしまう。

「いや、もうデータはクラウドへ保存されてる。だから先生の出番はありませんよ」

「だったら、そこにつながるIDみたいなのがあるだろ。それを――」

「強制的に他人のログイン情報を取得、および不正にアクセスすれば犯罪だろ」

 口にはしないが、クラウドにログインできるのは、富士彦のほかに居る。

 誰から、どのような圧力を受けているかは知らないが、こんなネットリテラシーが低い下っ端教諭を信用したら最後、本当に未来がなくなってしまう。

「俺が今、協力者の少女に指示を送れば、安藤杏が自らの体をナイフで抉る愉快な映像を全世界に配信できる。さながら、セルフでケーキ入刀ってやつですかね。まあ、垢BANアカバンは必至だろうけど」

 富士彦がとどめの一撃を放つと、指導教諭の口が堅く閉ざされ、

「なあ麩谷? もう、変に安藤家と関わるな……わかるだろ?」

 長針が何週かしたのち、意気揚々と怒声を放っていたとは思えない低いトーンの戒めが生まれた。やはり男声にしか聞こえない。

「俺ははなっから安藤家と戦う気はない。それでも、安藤杏とはナシをつけないと、こっちの将来にも関わるんだ。サツを呼びたきゃ勝手にどうぞ。そん時は、クラウド上のデータを提示するだけだです」

 代わりに返したのは、すらすらと淀みなく放たれた、富士彦の罵声だった。

「なにがお前を……お前らをそうさせる。見えない敵とでも戦ってるのか?」

「すみません。これで失礼します」

 しかし、こんな指導教諭を丸めこんだところで、なんの経験値にもならない。

 おそらく本当の敵は――

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