33 抹茶色とキャラメル色(回想)
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五日前――十二月十八日。
みぃ[ちょっと助けてほしいかも]
みぃ[あの、突然ゴメンね]
Fuji[どした? 会って話したほうが良い?]
みぃ[うん、会ってくれるならそっち行く。こっちでは話したくない]
みぃ[なんか色々と吞まれそうで・・・]
Fuji[OK じゃあ駅で待ってるわ 遅い時間だから気をつけて]
みぃ[ありがと]
到着時刻を聞いた富士彦が、最寄駅の改札前で待っていると、カジュアルなチェックワンピースの上に、ファーコートを着衣した未来が軽く手を振り、ブーティのヒールを鳴らしながら改札を抜けてきた。
首、手、足、私服でも防寒はバッチリの未来は、
「急に呼び出してゴメン」
しおらしく頭を下げた。
クラスで顔を合わせている友人とは思えないほど緊張感が漂う中、
「あぁ、大丈夫。とりあえず、そこ入ろう」
挨拶も早々に、富士彦は駅前のコーヒーショップを指しながら入店を促した。先に未来を席で待たせ、いつもの抹茶ラテとキャラメルマキアートを購入すると席に落ち着き、互いに糖分を補給して心も落ち着かせた。
「ありがと。あ、お金――」
未来は、気が利く男子に一礼。財布を出そうとすると、
「良いよ、わざわざ来てくれたんだから。それより話って? やっぱ会長絡み?」
富士彦はそれを丁重に断り、本題を促した。
「そりゃ気づくか」
「未来さんが会長とどんな因縁があって、どちらが悪いかなんてわかんない。でも、話せる範囲で良いから事情を教えてくれないか?」
「……うん。実は今日ね、安藤邸に行って色々あって」
未来はその流れで、富士彦がどこまで信じてくれるかを度外視し、すべてをぶちまけた。これ以上、ひとりで抱えるのは限界だったのだ。
未来は、今まで一度も口外したことのない過去の出来事を含め、ここまでの帳尻を合わせようと、ひとつひとつ丁寧に事情を語っていった。
9
「――信じがたいけど整理しよう。まず
富士彦にとっては、ひとつ目でもうお腹一杯の史実だった。むしろ、フィクションとして受け入れたいくらいの
「会長は、人間を
けれど富士彦は、すべて受け入れた。自分を犠牲にしてまでふたりを守ろうとしてくれた未来が、露骨な弱味を見せてきた以上、それを放っておけるほど
「未来さんと会長との出会いは、弟さんが死んだあと。なにも知らなかったチビ未来さんは、いつもひとりで居る会長にシンパシーを覚えて、友達になろうとした。けれど、それが親にバレて怒られて以来、会いに行かなくなったと」
「うん、要約するとそんな感じ」
反面、どうせ信じてもらえず、軽くあしらわれると思っていた未来は、少年の態度にただ感謝の念を浮かべた。
「会長は近いうちに、俺や愛佳にも魔の手を伸ばしてくるだろう。であれば、準備をしておかないと。どうあれ、出たとこ勝負になるけど」
「じゃあ
「それは読まれてる気がするんだよ。やらないより、やったほうが良いけど」
「ボディチェックされそう? 富士彦、
未来と富士彦は同時に苦笑した。明らかに、健全な好かれ方ではないからだ。
「それに、躍起になってる会長を利用するなら、正面から行くべきではないよ」
「んじゃ、メガネ型のカメラとか使う?」
「俺メガネキャラじゃないし。いや、待てよ? 逆に利用できるかも」
席に着いて十分、二十分、三十分――
抹茶色とキャラメル色は、とっくに両者の胃の中へ消えている。
「
「俺はたぶん、彼女にとって攻撃の対象になるはずだよ」
「覚悟はできてるってこと? はぁ……富士彦もついにこっち側か」
「落胆しない。未来さんがしてくれたように、今度は俺が未来さんを守るから」
「うん……ありがと」
「ともあれ、愛佳が過食症ってことは絶対に知られてはいけないな」
「確かに。【五大の罪】にかこつけて、なにしてくるか……」
未来の懸念に相槌を打ちながら、富士彦は端末から愛佳の連絡先をタップした。けれど、十回ほどのコール音を聞いたところで、
「だめだ、出ない。とりあえず注意喚起だけ送っとく」
伝達方法をメッセージに切り替えた。
「正直あたしは、愛佳のことをなにも知らない」
「仕方ないって。他人のことなんて誰もわからんさ」
「それは……」
未来は富士彦のことを知らない。是非、もっと深く知りたいと思っている。
富士彦は未来のことを知らない。教えてくれるなら知りたいと思っている。
「あとは最悪、俺の支援がなくなった場合、未来さんひとりで持ちこたえてもらうと思う。もちろん、なるたけ早く助けには行くけど……大丈夫そう?」
「あたしを誰だと思ってんの? 光田未来様だっての、わかる?」
「うん、だからその……あんま無理しないでほしいんだ」
「はい……」
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