言わば食材の檻

 あん夢現ゆめうつつで、うなされていた。


「どうして誰も私と遊んでくれないんだ? そうか、私があんな事件を起こしてしまったから、みんな気味悪がっているんだ。そんな時、私を見兼ねて家を訪ねてきたのがだったな。眠そうな顔をして、声に抑揚がなくて……ふふっ」


『いっしょに、あそぶ?』


「客間に通すと、あの子はポケットから取り出した四つ折りのチラシを、裏向きに開いて、自分で描いたであろうすごろくを見せてきた。ダイスを忘れたって言うから、うちにあった透明のを使ってふたりですごろくをした。楽しかったなあ」


『とまったマスには、めいれーがかかれてる。このマスは、虫をたべる』


「気持ち悪っ……。えっと、ほかには『ガラスをわってしかられる』、『ころんでちがいっぱいでた』、『犬にかまれる』、『ライオンにかまれる』などなど。なんで、全体的に痛いモノばかりなんだ。というかライオンは居ないだろ」


『どうぶつえんにいるし』


「良いか、檻の中には入っちゃあいけないんだよ? まあ……この町が檻みたいなものか。言わば食材の檻……ふふっ。おっ、こっちは『ひゃくえんひろう』って書いてあるね。つまり、そこに止まったら百円もらえるのか」


『あげない。コンビニでキャラメルラテかうからダメだし』


「残念ながら百円じゃあ買えないなあ、わかるかい? それじゃあ、私と一緒にコーヒーショップにでも行く?」


『行く! あ、あたしはミライ。かんじだと未来って字。未っていう字は、ヒツジっていみなの。えと……わかる?』


「君の名前は、未来って言うのか。私はアン――漢字で書くとあんずだね。海外ではアプリコットとも言うかな。しかし面白いな、人によっては食べ物の名前が使われいる。君に言われるまで気づかなかったよ」


『そういうひとは、すき?』


「私は彼女と、色々なゲームを通じて親睦しんぼくを深めていった。ただゲームをするのではつまらないから、負けたら罰を与えるようにした。今思うと、そんなものは必要なかった。罰ゲームは、私個人の嗜虐しぎゃく的な欲望を満たしたいだけだった。

 同時に私は、名前のどこかに食材が入っている者に惹かれるようになっていった。そういう人たちなら、きっと友達になれると思っていた。実際に食べたらどんな味がするのかな?」


 それはそれは、とても見られたものではない吐き気を催す夢現だった。

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