冬はつとめたくない
例えば、
『こんにちは』
と挨拶しても、
『こんにちは』
と返してこない人間と、無理に付き合う必要はないと思っているのだ。採食同好会がなければ、未来は『関わらない人種』に分類されていただろう。
そういう意味では、
四月、掲示板の前で愛佳に声をかけた理由は純粋な興味だった。
ヘアゴムで縛った黒髪を背中に垂らし、校則に従うだけの垢抜けない女子中学生とはまるで異なる横顔に、惹きつけられていたのだ。
中学時代こそ、廊下ですれ違ったり全校集会で目撃したりと、名前と容姿が一致しただけの生徒だったが、今ではよく側で笑っている。
約束しているわけでもないのに通学の電車でよく顔を合わせる。教室ではノートを見せてくれとせがまれる。第二調理室では慣れない料理に四苦八苦しながらも、真剣に調理器具を握っている。
クラスメイトたちには、
『
なんて、からかわれる。
昨今、彼女は過食嘔吐を繰り返していると打ち明けてきた。
その途端、『痩せの大食いクイーン』なんて
彼女の手の甲には、嘔吐を促す際に喉の奥に手を突っこんでできる、吐きダコがなかったので、気づくにいたらなかった――なんて自己弁護は、彼女をからかって良い理由にはならないし、釈明にもならない。
『悪気はなかったんだよね? だったら謝んないで』
が、それを読んでいたかのように彼女は、真面目な口調で庇ってくれた。
富士彦は昨今、三人の少女の周囲で渦巻く不穏な空気を察知しつつあった。てんでタイプの違う少女たちには、少なからず影が見え隠れし始めたのだ。
一見すると
もし、平穏へ戻るための非常口があるのならば、ドアノブに手を伸ばしても良い頃合いなのかもしれない。
残暑は続くが二、三ヶ月もすれば、運ばれてくる風は
冬はつとめて――なんて
そうして、
高校生活初めての冬が訪れる前に。
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