4食目『安藤 』

23 弟

『ジンギスカンがしゃべってるなあ……ははっ! だと罵れよ!』



 あるところに、ひとつばかり歳の離れた姉と弟が居ました。

 ふたりはとても仲の良い姉弟きょうだいでした。

 が、ある時を境に軋轢あつれきしょうじてしまいました。


「お姉ちゃん。どうして僕の足は片方しかないの?」

 弟は目を開けると、悲しそうに問いかけました。


「事故で失ってしまったんだよ」

 姉は目を逸らすと、同じように悲しい目で答えました。


「そんな。僕はもう、かけっこもかくれんぼもできないの?」

 弟は涙を流しながら、姉にすがりました。


「いや、私がお前を助ける。そしてお前と一緒に、生きてゆくよ」

 姉も涙を流して、弟を受け入れる覚悟をしました。


「ずっとずっと、お前と一緒だよ」

 弟が移動したところは、生暖かくて、狭苦しくて、暗いところでした。

 食べ物もない。便所もない。酸素もろくにない。

 けれど心地良くて、全身が気持ち良くて。

 弟は、姉の精一杯の優しさに包まれましたとさ。

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