19 毒入りプチシュー
採食同好会には、
が、元を正せば
「それは、かいちょ――安藤さんに誘われたから」
「いやいや、そうじゃあなくてさ。余所の子が珍しいなあって」
富士彦が入学した
「……第一志望に落ちちゃって」
「不満そうだねえ」
「逆に不満がないんです。言うなれば、それが唯一の不満でしょうね」
そう、なにも不満がない。
刺激を求めていない、と言えば嘘になる。
けれど、不満はありゃあしない。
「あの! そういや、同好会に誘われた理由って明確に聞いてなかったような」
富士彦は居た堪れなくなり、わざとらしく話題を変えた。
「ん? その謎はそのうち解けるさ。君は頭が良いだろ、ふふっ」
一方、杏も人をからかうように質問を逃れてしまった。富士彦は座卓のコップを左手で取り、麦茶で体を潤していると「それでさあ」と杏が語尾を含ませた。
「君はどっち狙ってんの?」
どっち?
「
「ふふっ、ひどい言い
「それは認めますが、【
「ぐるまんでぃーず……大食いってことかい? 君って
「お……思ってないです!」
――常々、思っている。
富士彦のトゲのある言い回しに対して苦笑した杏は、
「でも
「と言うと?」
「実際に、あそこで人が亡くなっているのさ」
杏はトレードマークのえくぼを一切浮かべず、瞬きもせず、富士彦を両眼で捉えてきた。さながら金縛りである。シャーマンかこいつは?
「退会届書いてきます」
富士彦は憶測した。うんざりする恐怖話をテロのごとく聞かせてくる杏は、女子にありがちな情報のシェアリングをしたいだけなのだと。たぶん。
「簡単にリジェクトしないで! 人が死ぬのは当然のことだろう? 例えば、
「いや、調理室で人が死ぬのはただの『事故』なんですけど」
いわくがあるからこそ、第二調理室は使用されていない。
そこを隠れ蓑として使用している採食同好会。
想像以上の権力を握っている
まるっきり
「よし、それなら一勝負といこうか」
杏がパンと手を叩くと、座卓に手をついて立ち上がり、家の奥へと消えてしまった。すぐ側で感じていた体温がなくなり数分、
「じゃーん。見て見て、プチシュー持ってきたよ。でもね、このどちらかが毒入りプチシューなんだよ。うふふっ!」
「げほっ……! さ、殺人事件の予感!」
突拍子もない言動に、富士彦が思わずむせこむと、座卓を隔てた向かいへ移動した杏が、膝立ちで見下ろしてきた。
「本当は下剤だよ。怖がらないで? 私が勝ったら君は同好会に在籍する。君が勝ったら退会を認めようじゃあないか。要は運試しだよ」
「下剤もかなり嫌なんですけど?」
「痛みを
「こないだのトランプでわかったと思いますけど、運は割と良いですよ?」
魔のゲームを承諾した覚えはないのだが、杏は目を輝かせて選択を迫ってきた。ギャンブルとは不必要な選択――すなわち『リスク』ではなく、ただの『無謀』だ。
下剤は飲んでも死なないが、飲んだ場所によっては社会的に死亡する。これは違う意味でのデスゲームだ。観念した富士彦は左手を出し、自分から見て右側のプチシューを手に取った。
「あっ……
「え? そうですけど」
「くっ……ままよ! 食べるよ、せーのっ!」
杏の掛け声で同時にプチシューを口に運び、咀嚼のふりをして、噛まずに飲みこんだ。どこにでもある薄皮のシューの食感、ほのかな甘みが口内に残る。
「食ってすぐだと、どっちが大当たりかわからないですね」
「だったら、もっとおしゃべりしようじゃあないか。徐々に効いてくるさ」
杏は呑気に、菓子器から煎餅を取ると、半分に割って、片割れを口に運んだ。
「なんで結果が時限式なんですか……」
この先輩、たぶん馬鹿である。
いや、先輩に馬鹿なんて言ってはいけない。
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