【五大の罪】

 満喫町まんきつちょうには、昔から【五大の罪】という言葉が語り継がれている。町では知らない物が無法者扱いされるくらいの、いわゆる史実である。


「ひとつ、食に感謝を表さない。ひとつ、食を無駄にする。ひとつ、食の過剰摂取。ひとつ、食の摂取不足。ひとつ、食を与えない」

 自宅に着いた未来みらいは、自室で制服を脱ぎながら、脳から離れることのないその内容をなぞるように、大きな溜息と混和させた。

 ――愛佳あいかが過食症とは、慮外りょがいの真実だ。あくまで私見だが、愛佳はその罪に引っかかってしまうのではないかと危険視していた。


 ここ数ヶ月、非公式の採食同好会、郷土料理、無数の怨霊など、数々の要素に触れてきて、そこに【五大の罪】を加えると、ある思惑が見えてくる。

が居る以上、採食への在籍は危険、だけど……」

 できれば、三人で仲良く同好会を去りたい。が、性格に一癖も二癖もあるあんに取り合っても、円満に退会できるとも思えない。そもそも理由を説明しないと、あのふたりも納得しないだろう。

「安藤杏、か。あぁ……めんどくさ」

 策を遷延せんえんさせたくなかったが、今は愛佳との関係にひびが入らずに済んだ現実にひたっていたかった。

「はぁ……風呂だ風呂」

 未来は持ち帰った愉悦と安息を呑みこみ、浴室でシャワーを浴びながら、これからの憂いや焦燥を、汗と一緒に排水溝へと流してしまった。

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