12 甘味塗れの日
ケーキが陳列された棚は彩色に
ガトーショコラのみ。まるで小食である。大食いを冠する猛者の中でも、愛佳は尻上がりタイプということか。
「愛佳は一個しか取らないの?」
「なんか色合い? まず目についたから取ったの」
席に戻り、丁寧に手を合わせながら「いただいまーす」と唱え三、四口でケーキを平らげると、愛佳は「やっぱ
「なんの話?」
未来は口内に残っていたチーズケーキを
「いや、採食のこと。ほらぁ、非公式つったじゃん? でもさ、火や調理器具、食材の取り扱いだって、誤った知識を持ちこみゃ大事故になるっしょ。教育者たちが放任するなんて、ちゃんちゃらおかしいなーって」
至福のスイーツ脳に浸っている
「
言葉に詰まった挙句、採食同好会のパイプを認知していない未来は、ティーンらしい身勝手な憶測を口にした。
「
「権力者が、採食で提供される料理に興味を持ってる、とか? 例えば、非合法の料理が出されてて、それらを別室で
「お得意のホラー? でもさ、そんな珍しいモン作ってたっけ?」
「愛佳? それよりも今は甘い物でしょ。今日は甘味
未来は、自ら
「甘味塗れって、なんかエロくない? 体中に塗りたくるってこと?」
「あぁ、それはそれで……興味あるかも」
「みぃちゃんド変態じゃん」
「黙れ。あたし次の取ってくるわ」
なにより本日の目的は、『甘味塗れ』である。狂ったように糖分で官能を刺激し、浮世の女のように頭の中をお花畑にするのだ。未来がそそくさと席を立つと、ほどなく愛佳が「待ってー!」と、あとをついてきた。
残り時間四十五分。
未来は新たな皿を取り、甘美な愉悦に手を伸ばしていった。
いちごムースにマロンロール。ミルフィーユにショコラブラウニー。
ご丁寧に、ペアを守りながら。
愛佳も同様、皿の上にはふたつのケーキ――紅茶シフォンとモンブラン。それらをすぐに平らげると、次は三種のデザートを盛って席に戻り、さあらぬ顔で食べ終えてしまった。両者とも胃に収めたデザートは六つになった。
残り時間三十分。
未来の正念場が見え始めた頃、
「あ、今更なんだけどさ、一緒に同好会入ってくれてありがとね。みぃちゃん、絶対ムリだと思ってたから余計に嬉しくって」
愛佳は、甘い物を食べている時よりも印象深い表情で、目を細めた。
数ヶ月前、第二調理室に招かれた一年生はもれなく入会した。愛佳に強制入会させられた富士彦はともかく、難色を見せていた未来も入会に至ったのだ。
なんてことはない。昨今の若者に馴染めず、クラスで
「いやいや、お礼なんて別に。むしろこっちが……」
とはいえ今は、満腹感により会話する余裕がどんどんなくなっていた。ひとまずレモンソルベで舌と胃を誤魔化したが、入店時に未来に宿っていた喜色は消えている。
一方、相方のペースは崩れなかった。
席を立ち、ケーキを持ってきたかと思うと、座るや否やもう胃へと流しこんでいるのだ。加えて、皿の上に捕獲する量が増え続けるという怪奇現象まで起きている。
「あんたの胃袋は宇宙か……」
「な、なんの話?」
先ほど目前で、四個のケーキが消え去った。ということは、次は五個のケーキを持ってくる気だろうか。
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