4 まるで炭酸水
同好会に囚われている
「ったく、宗教勧誘みたいに囲まれるとは思わなかった」
「ところで、ふたりは都心から通ってるんだっけ? せっかくだし理由聞かせて」
受動的かと思えば、自ら会話の発展に心がける。
そんな未来は不意に話の腰を折り、愛佳たちに質問を投げかけてきた。
「俺は……志望校に行けなくて、それで
愛佳よりも先に質問に答えたのは、
「そんな気ぃ遣わなくて良いよ。じゃあ、鮎川さんは?」
ほどなく質問が愛佳にも向けられた。
「わたしは某同好会の噂を聞いた。そんでこの学校に入ったの」
「ほう、それがさっきのペライチにつながるのね。つまり、ふたりは
「えと、
「そういうことか……」
未来は不思議な陰影をちらつかせ、ウェーブの毛先を触りながら、廊下の窓を隔てた青天井に顔を向けた。ほどなく、乖離していた意識が戻ってきたのをほのめかすように、口元がわずかにぴくり――
「オーケー、さっきの同好会の件、やっぱあたしも行く。でも、そこでなにがあっても自己責任だからね。わかる?」
すると、清々しく意見をひっくり返してきた。
「あ、ありがとう? でもなんで急に――」
「ふたりに興味が湧いたから。じゃ、土曜日よろしく」
未来はまるで炭酸水だ。味がないかと思えば、実質的な刺激を与えてくる。
ふと目を逸らした先では、ケヤキが南風で揺れている。騒がしくなり始めた廊下では、愛佳の心が揺れていた。
次の土曜日まで、空腹状態を持ち越すような生殺しにはなりたくなかった。背を向けようとした未来を引き止めたいがために、愛佳は肉声を漏らしながら、彼女の腕をつかんでしまった。
「ま、待って! 土曜からと言わず、あす……あのホラ、良かったら、あすから一緒にお弁当食べない?」
キツネとタヌキのような、対照的な顔つきのふたり。
前者はどもり、後者は困ったように笑っていた。
「あたしみたいな
間がなかったと言えば嘘になる。未来も戸惑いを見せていたからだろう。それでも、語尾に発生した一笑は、紛れもない彼女の本心を物語っていたはずだ。
金曜日、放課後。高校から
メンバーは愛佳、富士彦、未来の三名。各々がカフェモカ、抹茶ラテ、キャラメルマキアートをテーブルに並べ、ゆったりとした青春を堪能している。
トピックは『日常』である。
「あたしは、この町で育ったの。普段はチャリ通で、休日は専ら町を放浪してるかな。特技は霊との会話、なーんてね」
「なに? みぃちゃん霊感あんの? すげー」
「未来さんってオカルト少女かよ。俺、ホラーは勘弁してほしいわ」
「いや……あたしの言葉を鵜呑みにしすぎな」
未来の言動を愚直に信じそうになるのは、クールなキャラゆえだろう。空気が抜けているような容姿も、ばしっと否定を言い放つ気だるさも、愛佳が備えていない一面なので、憧れの対象として映ってしまうのだ。
「んじゃ家では?」
「本読んだり、パソコンいじったり。あとは祖父が陶芸好きで、工房と窯を持ってるの。だから、たまに爺さんの道楽に付き合って、焼き物もするよ」
「良いね、いつかわたしの湯飲み作ってほしいな。では、フジさんは?」
「俺か……」
一方で富士彦は、父、母、姉と四人で暮らす男子高校生で、住まいは都心。成績は割と優秀、スポーツもこなし、友達もそれなりに居る。健全な男子として、成人雑誌もこっそり読んでいるようだ。
「あらあら、フジさんって普通の子だね。名前は大きいのに」
「やかましいわ、
ほどなく愛佳にも話題が流れてきた。が、自分語りはいささかな苦手意識がある。
茶髪にしているのは単なる高校生デビューみたいなものだし、ハイポニーテールにしたのは可愛く見られそうだったから。私生活は、普通の父母との三人暮らし。電子機器に弱く、スマホは使いこなせていない。
趣味、特技は――
「え、えーっと」
やはり、語るしかないのだろうか。
己がアイデンティティでもある、『食』について。
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