ブルーノと小鳥くん

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ブルーノと小鳥くん

 茶色い子犬の名前はブルーノ。お庭で遊ぶのが大好き。オレンジ、黄色、ピンク、むらさき、色とりどりの花がさき、ふかい緑色やうすい緑色、風にゆれる葉っぱたちがキラキラとおひさまの光にかがやいています。お花や葉っぱの香りがふわふわとブルーノの鼻をくすぐります。


 モグラくんが土から顔を出しました。ブルーノはうれしそうにモグラくんにジャンプで飛びつきます。もちろんモグラくんはつかまったりしません。ヒュッとあなの中にもぐって消えてしまいます。あーあ、今日もモグラくんのすばしっこさにはかないません。モグラくんはどこに行ったかな?ブルーノは耳をそば立てます。後ろだっ!ふり返ったブルーノの視線しせんの先にモグラくんがひょっこり顔を出します。今度こそ!ブルーノは素早すばやくジャンプしましたがブルーノが着地したときにはモグラくんはあなの中。そっとのぞくとモグラくんが楽しそうにケラケラと笑いかけます。

「ブルーノ、おはよう!」

「モグラくん、おはよう!」

ブルーノはクンクンとうれしそうな鳴き声でモグラくんにこたえます。


 モグラくんと遊んでいると、空から聞きれた声が聞こえてきました。

「ブルーノこんにちは!ごきげんいかが?」

「あっ!小鳥くん、こんにちは!」

ブルーノは小鳥くんがたずねてきてくれるとワクワクします。小鳥くんは、お庭では見られないめずらしいお花や木の実を運んできてくれたりします。ブルーノはいつもとはちがう香りをかぐと、とても清々しい晴れ晴れした気分になります。かいだことのない初めての香りなんて、うれしくてしっぽがフリフリ止まらなくなります。


 小鳥くんが白いお花をブルーノの鼻先に落としました。あま~い香りがブルーノを包みます。

「この香り、どうかな?」

小鳥くんはふたたびお花をくちばしで拾うと、ブルーノをさそうようにお庭をヒューン、ヒューンと飛びます。

「気に入ったよ!とても幸せな香りがする!」

小鳥くんがふわりとお花を落とすとブルーノはかけってあまい香りをうれしそうにクンクンかぎます。

「それはよかった!」

小鳥くんがくちばしで拾っては落とし、ブルーノは花にかけっては香りをかぐ。この追いかけっこをするのがブルーノはいつも楽しくて仕方ありません。ブルーノと小鳥くんは今日もお庭をいっぱい、かけ回り、飛び回りました。今度はブルーノが白いお花を口にくわえて走り出します。小鳥くんがブルーノの後を追いかけていくと、たどり着いた裏庭うらにわの木には緑色のまぁるい実がたくさん成っていました。

「あ、もうこんなに実がついていたんだね!」

小鳥くんはうれしそうに木の実をついばみました。

「ブルーノ、楽しかった!ありがとう。また来るね!」

小鳥くんはひらりと楽しそうに体をひるがえし、青い空へと飛んで行きました。

「また来てね!」

ワンワン!とブルーノは飛び去っていく小鳥くんを目で追いながら、元気いっぱい空に向かってほえました。


     ◆             ◆


 ある日はどんよりくもったお天気。しめった空気がしっとりと、ブルーノの鼻に草花の香りを運んできます。ブルーノはペタリと草の上に丸まり、クンクンと鼻を動かします。しっ気を帯びた土や草の香りがブルーノの鼻をしっとりうるわせながら流れこんできます。


 アリくんたちがいそがしそうにブルーノの目の前に行列を作り始めました。何か美味しそうなものを見つけたのかな。クンクンとかすかに香るあまいにおいをたどって、行列のつながる先に目を向けると、そこにはカラフルなキャンディの欠片かけらがあります。しっとりした空気にただようあまい香りと、くもり空の下で落ち着いた光を放つカラフルなキャンディが、ブルーノをゆめの世界へとさそいます。うとうとと心地よくなってまぶたが重たくなってきます。


 気持ち良さそうにまどろむブルーノ。空からやってきた小鳥くんは、その鼻先に小さな欠片かけらをポトッと落としました。ブルーノの、雨とにじのあま~いゆめが、青い海と潮風しおかぜの香りに変わりました。カモメの羽ばたきは聞きれた羽の音に変わっていきます。あ、小鳥くんの音!


「ブルーノ、こんにちは!」

ああ、やっぱり小鳥くんだ。

「小鳥くんひさしぶり!これ、すてな貝がらだね!」

すっと、ブルーノの鼻先をかすめて貝がらを拾った小鳥くんの羽からも、ワクワクするような潮風しおかぜの香りがただよってきます。

「もっとその香りかがせてよ!」

うれしさでしっぽをいっぱいふりながら、ブルーノは小鳥くんを追いかけます。今日も楽しい追いかけっこの始まりです。小鳥くんもヒューン、ヒューンとお庭の中を気持ちよさそうに飛び回ります。

「今日も気に入ってくれたみたいでよかったよ!会えて楽しかった!ありがとう!」

小鳥くんは貝がらをブルーノの視線しせんの先にすっと落とすと、うれしそうにくるりと体をひるがえして空へと飛んで行きました。グレーの空にたちまちとけていく小鳥くんの姿すがたを追いながら、ブルーノはワンワン!と今日もうれしさいっぱいにほえました。


     ◆             ◆


 ある日はまた、おひさまの光がキラキラかがやくいいお天気です。お花や葉っぱのいろどりは次第にこく深くなってきて、かがやきをしてくるおひさまの日差しをいっぱいにいこみ、まぶしい光をお庭に放っています。


 美しい羽をゆうがに羽ばたかせて、ちょうちょさんがブルーノの鼻先をゆらりと通りすぎました。

「おはよう、ブルーノ」

ちょうちょさんのやさしい声に乗ってみずみずしいすてきな香りがただよってきます。

「あっ、ちょうちょさん。いい香り。その香りはどこから?」

「原っぱにさいてた野ばらの花粉かふんかしら」

ちょうちょさんはくるりとブルーノの鼻にもどってきて羽をひらひらと羽ばたかせてくれました。

「あ~いい香り」

ブルーノがちょうちょさんを追いかけると、ちょうちょさんは楽しそうに笑いながらゆらゆらとお庭を飛び回ります。ブルーノは香りを追いかけて走ったりジャンプしたりお庭をはしゃぎ回ります。ひらひらふわふわとゆうがに飛ぶちょうちょさんとの追いかけっこは、ジャンプやかけ足も軽~くやさしく、ほんわか幸せな気分になります。ちょうちょさんの羽からこぼれる花の香りはいつもほのかでやさしい。

「アン!アン!」

とブルーノはかわいらしい鳴き声でちょうちょさんによろこびを伝えました。


 にぎやかなしゃべり声がおうちの中からお庭の方に出てきました。今日は家族のみんなはお庭でランチを食べるようです。テーブルにお料理が運ばれて来るたびに、美味しそうな香りがブルーノの鼻をくすぐります。楽しそうな話し声とごちそうのいい香りがあふれるお庭に、空から大好きな声が聞こえてきました。


「ブルーノ、こんにちは!」

「あっ、小鳥くん!やっと来てくれたね!会いたかったよ!」

ブルーノはうれしくてしっぽをふりふりジャンプします。

「美味しそうなごちそうがいっぱいだね!」

小鳥くんはランチが始まったにぎやかなお庭の上をヒューン、ヒューンと飛びます。

「マカロニがとっても美味しそうなんだ」

ブルーノは大好物の香りによだれがたらり。そのよだれを見た小鳥くんは、

「ね、いいこと思いついたよ!」

小鳥くんはマカロニの入ったお皿を持って歩き出した男の子の目の前を、すばやいスピードでヒューっとかすめて飛びました。おどろいた男の子は

「わぁっ!」

としりもちをつき、落としたお皿からはマカロニがこぼれてしまいました。

「ロベルがマカロニをこぼしちゃったわ」

お姉さんのアンナがため息まじりに言いました。ママンは

「仕方ないわ。これはブルーノのごちそうにしましょう」

と拾い集めたマカロニをブルーノの前に置いてくれました。

「うわぁ。小鳥くん、うまいこと考えてくれたね!ありがとう!」

ママンのマカロニは特別美味しいんです。ブルーノはひさしぶりに味わって大満足。小鳥くんはいつだってぼくをよろこばせてくれるんだ。


「美味しかったかい?ブルーノ。ぼくはそろそろ行かなくちゃ!」

小鳥くんがひらりとまい上がります。

「え?もう行っちゃうの?」

ブルーノはひさしぶりに会えた小鳥くんと、もっといっしょに遊びたかったけれど。

「ねえ小鳥くん、今度はいつ会えるの?」

「また来るよ!」

「すぐに?」

「すぐに!」

「必ず?」

「必ず!」

小鳥くんはごちそうの香り包まれたお庭からヒューンと高い空へと飛んでいきます。

「ブルーノ、またね!」

ブルーノは飛び去っていく小鳥くんに向かって、いつもよりももっと力強くワンワン!とほえました。


     ◆             ◆


 ブルーノは、いつしか小鳥くんのことばかり考えるようになっていました。来る日も来る日も、じっと空を見上げてばかりになりました。モグラくんが顔を出してもブルーノは空を見上げていてモグラくんには気が付きません。モグラくんはブルーノの視線しせんの先をねらって顔を出してみますが、ブルーノの視線しせんは上を向いたまま、モグラくんには向きません。モグラくんはブルーノの視線しせんの先に広がる青い空をそっとながめ、静かにねぐらにもどっていきました。


 ある時は、ちょうちょさんが鼻先にすてきな香りを運んできたのに、ブルーノの視線しせんはちょうちょさんを通りこし、遠く空を見つめていました。ひらひらと香りをふりまきながらブルーノの前をゆらりゆらりと飛んでみますが、ブルーノは空をながめるばかりです。ちょうちょさんには気がつきません。


 ブルーノの頭の中は小鳥くんのことばかり。小鳥くんに会いたいなぁ。小鳥くんは今ごろどんな空を飛んでいるんだろう。小鳥くん今日はどんなお友だちと遊んでいるんだろう。小鳥くんは今日どんなたからものを見つけただろう。。。


     ◆             ◆


 何日も空を見上げていると、やっとやっと、小鳥くんがやってきてくれました。

「ブルーノ、こんにちは!」

「小鳥くん、こんにちは!ひさしぶりだね!会いたかったよ!」

「ぼくもだよ!」


「ねえブルーノ、今年も裏庭うらにわでグミの木が実をつけ始めたね!」

「あ、グミの木。。。そうかもしれない」

「そうかもしれない?ブルーノ、まだ見ていないの?いつもブルーノがうれしそうに教えてくれるのに」

「うん、小鳥くんがとってもよろこんでくれるから!だけど、最近あまり裏庭うらにわに行ってなかったな」


 小鳥くんは、最近ブルーノのお庭の近くを通ると、ブルーノがいつも空を見上げてじっとしていることを気にかけていました。

「ブルーノのお庭には、木やお花や虫くんたち、楽しそうなお友だちがいっぱいいるよね。ぼくが空から飛んでくると、ブルーノはいつも、お友だちと夢中で遊んでいてとても楽しそうだった。だけど。。。最近はいつも、さみしげにじっと空を見上げているよね?何かあったのかい?」


「何もないよ。ただ。。。小鳥くんに会うのが待ち遠しくて仕方がないんだ。小鳥くんと会うととても楽しくて、早くきてくれないかな、今にも来てくれないかなって、そう思って毎日空から目がはなせないんだよ。」


「そんなこと?お庭にたくさん楽しいお友だちがいるのに?ぼくがいない間、だれとも遊ばずにただずっと空を見ているの?」


「お庭のお友だちと遊ぼうと思っても、小鳥くんと遊んで楽しかったことばかり考えて、ついまた空を見上げちゃうんだ。それにね。。。小鳥くんがもう来てくれないんじゃないか、ぼくのことわすれちゃったんじゃないかって、心配にもなるんだよ」


「ブルーノ、ぼくが君のことをわすれるわけがないじゃないか。いっしょに遊んだ友だちのことをわすれたりするわけないよ、ぜったいに。どこにいても、次々に友だちのことが頭にうかぶんだ。あぁ、あの時の羊くん面白かったな、とか、あ、これはブルーノにプレゼントしたいな、とかね。ブルーノだって、そうじゃない?お庭で遊びながら、ぼくやちょうちょさんや、たずねてくるいろんなお友だちのこと、思い出したりしてない?そしてブルーノだって、友だちのことをわすれたりなんか、しないだろう?おんなじだよ」


「小鳥くん、そうだね。。。どうしてだろう、なんだかとても不安な気持ちになっていたんだ。。。小鳥くんと遊ぶのが、あまりに楽しすぎたんだ。。。」


「そんなに楽しいって思ってくれてるなんて、ブルーノ、君は最高だね!大好きだ!ぼくだってブルーノと遊ぶのがすごく楽しいんだ!だから今日も、グミの木の下でたくさん追いかけっこしようよ!ね!」

小鳥くんはそう言うなり、すばやく元気いっぱいに体をひるがえし裏庭うらにわへ向かって飛び立ちました。

「うわっ!早いよ!小鳥くん待って!」

ブルーノはあわてて小鳥くんについて裏庭うらにわへとかけ出します。いつもよりすばしこく飛び回る小鳥くんを追いかけて、ブルーノは右へ左へ木の間をぬいながら、こんなに楽しく元気いっぱい走り回るのはひさしぶりです。地面をけるたびに土や草のいい香りがします。小鳥くんがついばんだ赤い実からはあまい香りがただよってきます。花の香り、木の香り、モグラくんの足音、ちょうちょさんの羽の音、お庭は幸せでいっぱいにあふれています。


「ブルーノ、今日も楽しかった!この木の実、もう一ついただいていくよ!」

小鳥くんは陽気な声でそう言うと、赤い実をひとつくちばしでもぎ取り、ブルーノのわきをかすめて空へとまい上がりました。

「小鳥くん、ありがとう!ぼくもとっても楽しかった!また来てくれるよね?」

「もちろんさ、ブルーノ!じゃあ、またね!」

ブルーノは青い空に消えていく小鳥くんに向かって、ワンワン!と感謝かんしゃの気持ちをいっぱいにこめてほえました。お庭は初夏の日差しにまぶしくかがやき、こぼれるほどの色や音や香りがブルーノをキラキラと包みこんでいます。


おしまい

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