スイサイパレット
結城十維
スイサイパレット
どうしてこうなったのか、わからない。
彼女とはわかり合えていた。けど、そう思っていたのは『私』だけだったみたいだ。誕生日前に呼び出され、何かを期待していた私は「あなたとの未来は考えられない」と無残に振られた。
「私の何が悪かったんだよー」
飲み屋のカウンターでうなだれる私を、会社の同僚の植野が「まあまあ」と宥める。
「嫌なことはぱーっと飲んで忘れちまうのが一番だぞ?」
植野の言葉に「その通りかも」と同意し、別のお店に連れていかれ、飲み直す。気づいたら終電の時間に迫っていた。
「今日はありがとう。植野のおかげで気が楽になったよ」
二軒とも泣き言を聞いて貰ったので、財布は私持ちだった。
しかし、同僚は私の言葉に首を振る。
「楽しいのは、これからだろ?」
「……まだ飲み直すの?」
明日の仕事のことも考えると、正直帰りたかった。けど、植野が私を励ますためにしてくれているのだから断るのは申し訳ない。
「わかったよ」
受け入れ、連れて来られたのは「NIGHT CLUB」という文字が光るお店。ついて来いよと先導する植野の後ろに続き、怪しげな地下への入口に向かう。
入ると思わず目を瞑る。やたらと眩しい照明。地上とは別空間だ。
爆音のミュージックに合わせ、若者たちが楽し気に踊っている。私たちのように仕事帰りの姿もちらほら見かけたが、それでも場違いだと感じた。
「私、初めて来た」
「え、まじかよ。ありえないー」
ありえないのはこの空気だった。目が痛いし、耳が痛い。植野との会話も声を張らないと届かない。
でもその心配はすぐに解決した。
お酒をおかわりに行くと言い、そのまま植野は帰って来なかった。
「……」
机に肘をつき、立ちながら、ちびちびとお酒を飲み待っている。手持ち無沙汰だ。この場で一人寂しくお酒を飲んでいるのはつまらない。
「一緒に飲まない?」、「おごるよ?」と何度か声をかけられたが、別にそういう気持ちで来たのではない。
「植野を探しに行こうか?」とそう思った時、目線の先に知らない女と踊る植野が見えた。髪色の明るい、派手目の女相手に、でれでれな顔の植野。
その瞬間、理解した。ああ、植野は私を励ましたいわけでなく、ただ自分が楽しみたくてこの場を選んだのだ、と。
最初はきちんと私の泣き言を聞いていたかもしれないが、繰り返される話に途中で飽きたのだろう。だから植野はああやって、女の腰に手をあてて、身体を密着させて、笑顔で踊っているのだ。
あんな風に切り替えられたらどんなに楽だろう。あいにく私はロボットみたいにスイッチがない。
塗られた色はなかなか落ちず、身に染み込んでいる。洗っても落ちない、塗っても色が混じる。
「……さっさと出よう」
そう決意し、持っていたグラスを飲み干し、人混みを掻き分け、入口へ向かう。
その時だった。
グラスを持ちながら、ゲラゲラと笑っていた背の高めな若者がよろけ、グラスを投げ出す。そして、
「……」
見事、ビールシャワーを頭から浴びることになったのだ。野球チームが優勝したわけでもないのに。
「ごめん、ごめん」
気楽な感じで謝る若者を無視し、その場を去る。
「最悪だ」
すっかり酔いも醒めた。
洗面所で髪の毛を洗うも、なかなか酒の匂いは落ちない。ワイシャツも濡れて、気持ち悪い。あとでどこかでシャツを買おうと思いながら、ふと鏡に映る自分の顔が目に入る。
冴えない顔。死んだ魚のような目。崩れた化粧。
「何のために生きているんだろう……」
彼女に振られ、仕事も楽しくなくて、逃避もできない。
切り替えられなくて、塗り替えられない。
「はは」
乾いた笑いが似合う、くすんだ人生だ。
クラブを後にし、ひとまず駅に向かうが、やはり終電はなくなっていた。
となれば、タクシーで帰るしかない、と思うも、タクシー乗り場は長蛇の列ができていた。今朝、雨だった影響だろうか。駅前でタクシーを拾うことを諦め、街中で捕まえようと試みる。
「いた」
交差点で、止まっているタクシーを発見し、慌てて駆け寄る。
「はいはいー」
しかし、その前に別の客が捕まえ、タクシーが走り去る。
今度こそと思い、三回チャレンジするもタクシーに無視されたり、先に乗られたりで結局捕まえることはできなかった。
「……最悪だ」
素直に駅前の列に並んでいた方が正解だったかもしれない。けど、今更戻るのも癪だ。もうどうにでもなれ。投げやりな気持ちで街を目的もなく徘徊した。
……歩き疲れた。このまま始発までずっと歩くのはさすがに馬鹿だろう。
足を止め、ビルを見上げる。ちょうど映画館があった。
何かレイトショーでもやっているだろうか。時間つぶしにはちょうど良いかもしれない。そう思い、ビルの中へ入っていった。
『ぐああああ』
スクリーンにゾンビが映る。
だが、迫力はイマイチだ。安っぽいセットに、チープな音楽と効果音。どうみてもB級映画だった。寝ようとも思ったが、クラブや歩いたせいで目は冴えている。
内容にも飽きたので、館内を見渡す。
観客は私以外いなく、貸し切りだ。
「うぅ」
と、思ったら声が聞こえた。
鼻を啜る音に、小さく泣く声。
少し背伸びし、声の方向を見る。その声は左前に座っている女性からだった。
さすがにこのB級ゾンビ映画に感動して泣いているわけではないだろう。私と同じく何かがあって、何処にも居場所が無くて、映画館に迷い込んだのだ、きっと。
けど触らぬ神に祟りなしだ。余計なことはしない。変に関わって、これ以上今日の最悪な状況を更新してはならない。
ゆっくりと顔をスクリーンへと戻す。画面ではゾンビがショッピングセンターを襲撃していた。
「うっ、うう」
でも、一度気が付いてしまうと、ついつい気になってしまう。
ちらりと女の方をまた見る。
女は俯き、口を手で必死に押さえている。
「って、ちょっとちょっと」
慌てて駆け寄り、気づいた女が私を見上げる。「あ、意外と綺麗な人」って、今はそんな感想を抱いている暇はない。
「大丈夫ですか? 吐きそうなんですか?」
女が首を縦に振り、肯定する。
「ビニール、ビニール。あれ、バッグにあるはずなんだけど」
大惨事を回避するために、必死にバッグを漁るも、なかなかお目当ての物を見つけることができない。
女は首を横に振り、もう無理と主張する。
「え、ちょっと、ちょっと」
「おええええええ」
最悪はさらに更新されたのであった。
コンビニで買ったTシャツに着替え、シャツをトイレの水道で洗う。
鏡に映るのは、さっきよりひどくゲッソリとした顔をした女性だった。
そして聞こえるBGMはさっきあった女が生み出す音。ゲロゲロ。
「はあ……」
ため息をつくも、声をかける私はお人好しか。
「大丈夫ですかー」
返答はない。
このまま置いていってもいいが、さらなる被害を増やしては世間さまに迷惑だ。せめてお水と、ビニール袋を渡し、さっさとおさらばしたい。
女性に近づき、声をかける。まだ便器に顔を向けていた。
「大丈夫ですか。これ水と、Tシャツ」
女が私の声に振り返る。
しゃがむ私と目線が合う。うん? そして何も言わず、両手で私の頭を挟んだ。
「はい?」
咄嗟の出来事に何もできぬまま、女の唇が近づく。
「うぐっ」
悶える。引きはがそうとするも、頭をがっちり掴まれ、口を離すことができない。酔っ払いのくせに力が強い。
三十秒ほど経ち、ようやく解放された。
「ぐは、おえ」
女が舌なめずりをする。
「お礼」
「ゲロ臭くて最悪なんだけど、拷問か!」
「うら若き乙女になんてこと言うの!」
「うるさい、下水女」
すかさず女のビンタが飛んでくる。
「り、理不尽!」
「あはは、林檎みたいな頬」
「笑うなって……」
「あはは、面白い」
まだ酔っているのだろうか。意味が分からない。情けをかけた私が馬鹿だった。さっさと退散しよう。
「いくわよ」
女が手を差し出した。私のエネルギーを吸い取ったのか急に元気だ。
「はい?」
「さあ飲み直しましょう」
「行くわけないでしょ」
「えっ、じゃあホテル行く?」
「い、行くかボケ!」
揶揄うのもいい加減にしろ。
ピンが倒れる音が響く。
文句を言いながらも、女に無理やり引っ張られ、何故かボーリング場に連れて来られていた。
断れない弱い私がここにはいた。
「あははは」
女が投げた球は、すぐにガータに落ちた。何故かそれが面白いらしく、ずっと爆笑している。笑いのツボがわからない。よく笑う酔っ払いだ。
女は『由佳』と名乗った。アラサーだよ、と言っていたので、私よりはきっと年上だ。世話のかかるお姉さんだ。
「あははは」
「何が楽しいんだよ」
悪態をつくと、女は顔をむっとさせた。ボーリングの球を持って、椅子に座っている私に笑顔で近づく。
「ちょ、ちょっと」
こちらに向かって投げてくるのかと思い、怯える。女は、どんっ!と私の足の側にボールを勢いよく置いた。思わずひゅんっとなった。
「ほら、もりっちの番」
ちなみに私の名前は守島といった。長いと言われ、もりっちに変わっていた。文字数は変わらない。
苦笑いを浮かべ、置かれた球を掴む。
ボーリングなんて久しぶりだ。大学生の時以来か。息を整え、投げる方向を見すえ、構える。
「おお、っぽい! プロっぽいよ、もりっち」
集中力が乱れる。ガヤがうるさい。
ステップを踏み、ボールを放つ。
「おー」
球にはカーブがかかり、左曲がりにピンにあたる。
「お」
投げた自分も驚く。ピンが全部倒れた。ストライクだ。
「やるじゃん!」
由佳が立ち上がり、両手を上げて待っている。
少しだけ気恥ずかしい。けど、この人は実行しないと怒るだろう。
女に近づき、ハイタッチをする。
パシン、と良い音が響いた。
ボーリングの後何するか迷っていたが、ダーツやバッティングセンターは命の危険を感じたため、主に私の命だが、コンビニでチューハイを買い、公園で飲み直すことにした。
お店に入ることも考えたが、また吐かれたらお店に悪いという、私の優しい配慮からこうやって公園に来たわけだ。けど飲む必要はないよな……。
女の口から出るのは小さい頃のこと、仕事のこと、学生の時のこと。深い話をしているようで、全く深くない笑えるような話ばかりだった。
やがて馬鹿話にも飽きたのか、ブランコへ移動し、女は立ち漕ぎし始める。
慌てて追いかける。
「あぶないよ」
私は隣のブランコに動かさずに座った状態で、注意する。
「だいじょーぶ。私、幼稚園の頃ブランコで勢いつけて飛ぶの、一番遠くまで飛べたんだから」
「いつの話だよ!」
飛んで怪我しないか、ハラハラしながら女を見守る。頭から地面にダイブしそうで怖い。
「はは、たのしー」
馬鹿みたいな人だ。年上だが、子供みたい。けど、こんな馬鹿みたいな人と、バカ騒ぎすることで、いつしか私の最悪な気分も薄れていたのも事実なわけで。
「ねえ」
「なーーーにーーーー」
「うるさい、近所迷惑!」
「いいじゃん、皆寝ているでしょ」
そういって女のブランコは勢いを強める。危なっかしいけど私は止めず、話を続ける。
「何で」
「うん?」
「何で、映画館で泣いていたの?」
「それ聞いちゃう? 初めて会った女の子に聞いちゃう? あなたって、デリカシーなさすぎじゃない?」
「人の服にゲロぶちまけた奴が何を言っているの。別に女同士の会話でしょ」
「それもそうか、あはは」
ブランコの勢いを弱め、神妙な顔つきで、彼女は答える。
「映画に感動したの」
「あんなB級ゾンビ映画で泣く奴がいたら病院に行くことをお勧めする」
「あはは、それもそうだ」と彼女が頷く。よかった、私の感性が可笑しいわけではなかった。あの映画は紛れもなくB級映画だった。……レイトショーで安く入ったので、これ以上貶めるのはやめようか。私だって、B級映画のくだらない奴だ。
「まあ、お姉さんにもいろいろあるのさ。もりっちこそ何でレイトショーに一人寂しく映画見ていたのさ」
「若者にも色々あるのさ」
「生意気」
「強引な女に言われる筋合いはない」
くだらない、だからこそ私なのかもしれない。
くだらなくたっていい。そうかもしれない。
悪くない。きっとそうだから。
ブランコの上に立つ。意外と高い。子供の時は違う景色だ。
「お、勝負?」
「うん、勝負。悪口合戦」
「なにそれ」
「悪口を遠くまで飛ばした方が勝ち」
「あはは、何それ」
「面白いでしょ?」
「うん、負けないから」
大の大人二人が必死にブランコを漕ぐ。
息を大きく吸い、言葉を吐き出す。
「植野のばかやろー。お前一人で勝手に楽しんでいるんじゃねー」
「あはは、いいね、いいね」
彼女が歯を見せて笑う。
「給料あげろー」
「ボーナス削減すんなー」
「上司のばかやろー」
「部長のばかやろー」
「同期のばかやろー」
「若者のばかやろー」
「それは広範囲過ぎない?」
「いちいち突っ込むんじゃない。あんたの番だよ」
そうだね、と素直に頷き、彼女が大きく息を吸う。
「結婚してくれるっていったじゃん。ばかやろー」
きっとそれが涙の原因なんだろう。なら、私だって、
「清美のばかやろうー」
「はは、誰だよ」
「教えないー」
「ははは、いいね」
「ほら、あんたの番だ。このままだと私の勝ちだぞ?」
勝ち負けなんてない。この行為なんて何の意味もないかもしれない。
けど、私たちは叫ぶ。
「私のばかやろうー」
「神様のばかやろうー」
そろそろレパートリー切れだろうか? 私は彼女を見て、叫ぶ。
「ゲロ女のばかやろうー」
「あはは、うるせーこの生娘ー」
「誰が処女だ。このビッチ!」
「はぁ!? 誰がビッチだって?」
「すぐキスするってビッチでしょ?」
「わかってないなー。そんなんだから振られるんだぞー」
「うるさい。あんただって振られたくせに」
「なんだとー」
馬鹿みたいな言い合いは続くが、顔は笑っていた。心にかかった靄が薄れていくのを感じる。
「あはは」
「はは」
ただ、楽しさ以外に、別のものも呼びよせてしまったみたいで、
「こんな夜中に何騒いでいる!」
公園の入り口から怒った顔の警官が駆け寄ってきた。
「やべっ」
「まずっ」
急いでブランコを慌てて降りて、由佳と走り出す。
「とまれー」
警官が必死な顔して追ってくる。「あんたこそ大声で近所迷惑だ」というツッコミはしない。
走りながら彼女は笑っていた。
「あはは、楽しい」
「何が楽しいんだよ」
「あはは」
「笑ってないで走る!」
彼女の手を握り、夜を駆け抜けた。
どれだけ走っただろうか。
「はぁはぁ」
「疲れた……」
ベンチに座り、息を切らす、満身創痍の女子二人。
空は徐々に明るくなってきている。気づけば、駅前の広場まで戻って来ていた。
「やっと撒けた」
警察官が小太りで足が遅いのが幸いした。そうでなければ、酔っ払い二人が逃げ切ることなんてできなかっただろう。
汗だくの女がこっちを見て、笑う。
「青春っぽくない?」
つられて、私も笑う。
「かもね」
「でしょ」
そんなに悪いことをしたわけではないが、私たちは共犯者だ。
「あんなに必死な顔で追ってくるなんてね」
「いや、まあ悪いことしたよ。近所にいたら、絶対文句言っている」
「そういう真面目なこといわない!」
「これだからあんたは」
「それこそ、もりっちだって」
悪くない、そう思える夜だった。
でも夜は必ず明け、朝がやってくる。
空の色は変わり、また始まりを迎える。
由佳が立ち上がった。
「さあ夢から目覚めないと」
……覚めないままでも良かった。
「あのさ、うぐ」
言葉を続けようとした私の口を彼女が塞ぐ。もうゲロの匂いはしなかった。
「今夜はありがとう。久しぶりに楽しかったわ」
彼女が唇を指で抑える。その姿は艶めかしくて、綺麗で、見蕩れて、でも踏み込めなくて、
「それじゃ、さよなら」
彼女の別れの挨拶に何も返せなかった。
彼女の背中が遠くなっていく。
いいのか? これでいいのか?
自問自答し、立ち上がり、追いかけようと足を一歩踏み出した。
けど、それ以上足は進まなかった。
幻のような夜。
一夜の夢。
だから、きっといいんだ。
そう、自分に言い訳し、納得させる。
脱力してベンチに座る。体が急に鉛のように重く感じた。
始発に乗り、家に帰った後はすぐにシャワーを浴び、会社へ向かった。
有給休暇を取得しても良かったが、何だかそれは負けのような気がして、栄養ドリンクを飲んで、電車に揺られる。窓の外の景色を見ながら、彼女は本当にいたのか、昨日のことは本当だったのかと問いかける。やっぱり幻で、夢だったのかもしれない。けど、ガンガンと響く頭痛のひどさが現実であると思い知らせる。
「申し訳ございません」
今日も客先で頭を下げる。何があろうと変わらない。代り映えのない色で塗られた、モノクロの生活が続くだけなんだ。
そして怒られながら、別のことを考える。
何のために生きているんだろうな、と。
「申し訳ございません、ただいま満席で……」
昼時のお店は混んでおり、入店を断られる。仕方なくコンビニでお弁当を買い、公園で食べることにした。会社には戻りたくないし、居づらい。
しかし公園ですら混雑しており、ここにも私の居場所はなかった。仕方なく噴水前で我慢することにした。
今日の昼食はパンと、オニギリ。エネルギーを補給するだけの簡素な食事。
だというのに、カラスが飛んできて、貴重なパワーの源を奪おうとする。
「どっかいってよー」
そういってもカラスに言葉は通じず、カーカーと一歩的に攻められる。
「待って、ちょっと」
オニギリが掴まれ、カラスが飛翔する。
思わず立ち上がって、手を伸ばす。
手は宙を切り、体は行き場を失った。
「あ」
気づいたときは遅かった。
ぼちゃん。
そのまま噴水に落ちた。間抜けに頭からしずくが落ちる。全身びしょ濡れだった。
昨日から水に関する災いが降りかかっている。酒を被ったり、ゲロを被ったり、噴水に落ちたり。
自分で、自分が馬鹿らしくなる。
「何のために生きているんだろうか」
大きくため息をつき、空を見上げる。嫌味かと思うほど、一点の曇りもない青空だ。
「あはは」
声が聞こえた。
心臓が跳ねる。
声の方向を急いでみる。
スーツ姿の女。昨日見た時とは違って、しっかりとした格好だった。
けどその笑顔と、馬鹿みたいに笑う声は変わらない。
「あはは、もりっち最高。何で噴水に落ちているの、はは。やっぱり最高にウケるわ」
ああ、最高にウケる。
また彼女に会えた。あの夜だけの幻じゃない、彼女は確かにここにいる。
驚きは笑みに代わり、一人呟く。
「ああ、何のために生きているんだろうな」
今ならわかる。この気持ちは嘘じゃない。
噴水が勢いよく噴射した。
慌てて噴水から抜け出す私を、彼女はまた大きな声で笑うのだった。
スイサイパレット 結城十維 @yukiToy
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