第84話 禁断の九尾

 ロングブレードタイガーは第80階層のボスである。

 ホワイトタイガーのような真っ白い見た目にとてつもなく長い犬歯、巨大な身体。どんな相手でも噛み千切ってしまいそうな見た目だ。


 別名『白き狩人』が第39階深層のボス部屋で静かに眠っていた。


 そこにたった一人の少女が忍び寄る。

 部屋に入ると、壁沿いにゆっくりとタイガーの真後ろへ回ろうと駆けていく。


「――ッ」


 しかし、どんなに足音を立てずに行動しようが相手の動物モデルは虎。ピクリと耳が動いたかと思いきや、即座に侵入者へ顔を向けた。


 ――奇襲は無理か。


「ガォォォオオオッ!!」


 ロングブレードタイガーはユキを視認すると、部屋全体に響き渡るような咆哮を放つ。


「【バーサーク・妖狐】」


 ユキも赤いオーラを纏い、戦闘態勢に入った。


「ガァァァアアッ!」

「【天狗】!」


 飛びかかってくるタイガーの腹に目掛けて空中波を放つ。


『2,422』


 ――硬い!


 【天狗】はそこまで攻撃力が高い技ではない。だが、今のユキはバーサーク状態。並みの相手ならば3,000台のダメージが出せるはず。


 ということは――それだけロングブレードタイガーの防御力が高いということ。


「ガゥウッ!」

「――!」


 吹き飛ばされたタイガーが再びユキへと接近していく。


 一撃、二撃、三撃。

 容赦ないタイガーの攻撃をひらり、またひらりと躱していく。


 ――あれ?


「【八咫烏】!」

『2,056』『2,063』『2,052』


 攻撃を避けつつ生まれた隙にスキルを叩き込む。


 タイガーの動きに違和感を抱きつつ、構わず襲ってくる猛攻に対処していく。



 ――やっぱり。


 戦闘開始から10分経過。完全にロングブレードタイガーの動きに慣れ、バーサーク状態じゃなくても次々と攻撃を捌けるようになっていた。



 ……というのも。


 ――ノインさんの動きに似てるんだよね、本当に。


 相手は四足歩行の猛獣。だが、その正確な攻撃と動きはどこかノインと被るものがある。


 どういうことなのか、イマイチよくわからないが……普段からノインの動きを見ていたユキだ。このまま勝てる自信がある。



「すごい……」


 相手は完全初見の敵。それをソロで戦い抜くユキに、思わずRui子は感心してしまう。


「……けっ。大したものだが、あたしだってあれくらい……」


 なんて憎まれ口を叩きながらも、ミナトも彼女の実力は認めているかのようにも聞こえる。


 だが……対してβは厳しい目で見ていた。


「……いや。ここからだ」

「え?」


 そう、勝負はここから。


 ロングブレードタイガーのHPが半分になった時――難易度はぐんと上がる。



「もうそろそろ――奴は加速する」

「――ガォォォオオオオオッ!!」


 咆哮が響き渡った。


 長い咆哮は硬直モーションとなり……絶好の攻撃チャンスとなる。

 即座に肉薄しようとするユキ。



 ……だが。


「――!」


 一陣の風が吹いた。


【ユキ

HP 1122/1383

MP 415/415】


「ぐっ……!?」


 なんとか直撃は避けられたものの……一気に200以上のダメージを負ってしまう。


 ――速い!


 先程とは比べ物にならないスピード。これがロングブレードタイガーの真の実力なのだろう。


 また、攻撃も変化しつつあった。


「【絡新――!?」


 速度を出す相手専用のスキルを発動させようとする……が。


 突撃と見せかけたタイガーはいきなり右へ跳び、横から奇襲をかける。

 いち早く反応したユキはスキル発動を中断し、慌てて地面に転がって避けた。


 速度上昇からの変則的な攻撃。HPが半分を切った時からが本番と言われる理由がこれだ。


「ガォォオオオオ!」

「……っ!」


 止まらない猛攻。ユキも必死に食らいつくが……スピードに差がありすぎて、対処できてない。ワンテンポ遅れている。


 ――いや、違う。


 タイガーの攻撃を躱すユキにRui子は気がつく。


 ――遅れてるんじゃなくて、足りないんだ。


 要するにユキの動きはマルチプレイとしての動きなのだ。


 もし、ここに誰かがいたら。

 Rui子がいたら。

 ミナトがいたら。


 今の状況も変わっていただろう。


 ――なら……なら、尚更。どうして一人で挑んでるの?


 Rui子にはわからなかった。


 どうして誰かを頼ろうとしないのか。

 どうして誰にも助けを求めないのか。

 どうして――


「………………あっ」


 モヤモヤとした疑問が生まれ――ハッと気がつく。


 誰も頼らないし、助けも求めない。


 この状況は……先程のRui子そのものじゃないか、と。




 ――さて、どうする?


 防戦に回り、なかなか攻撃し出せないユキをβはじっと見つめていた。


 ――速度はさっきの倍以上。そう簡単に勝てる相手じゃねぇぞ。


 何せβとマイも通常階層攻略の際に強敵と認めたモンスターなのだ。苦戦したわけじゃないが、スムーズに勝てたわけでもない。


 それは、今相手をしているユキが一番わかっているはず。


「すぅ……ふぅ……」


 ユキはゆっくりと息を整えると……武器を変更した。


 鬼斬からロストバスターへ。


 そしてもう一つ、インベントリから取り出したのは――


「……ブドウダケ?」

「……なんだぁ? 自暴自棄になったのかぁ?」

「――!」


 食べると毒状態になるアイテム。普通はそのまま使わず、調合用のアイテムとして使われるのだが……?


 首を捻るβとミナトだが……Rui子だけがその意味をわかっていた。


 ロストバスター、そしてブドウダケ。


 ――ユキちゃん……アレを使う気だ!


「【バーサーク・九火】!」


 ブドウダケを食べ発動したのは……Rui子の予想通り、彼女の奥の手。

 ユキの周囲に九つの火が灯る。


「ふっ――!」


 ユキはロストバスターを逆噴射させ、勢いをつけてタイガーへ肉薄していく。


「【鎌鼬】!」


『36』


 一閃。

 ユキの居合い抜きが放たれる。


「ガァァアッ!」

「はぁっ――!」

 

 距離を取ろうとするタイガーだが……ユキはさせない。


『23』『24』『25』『22』『23』


 相手の動きについていきながら、連撃を与えていく。


 火が一つ消えた。


「……なるほど、マイと同じチャージ型か」

「あぁ? 何言ってんだ?」

「バーサークモードの型式だ。単純にステータスを攻撃と素早さに振り分ける通常型、受けたダメージや消費したMPでステータス基礎値を上げるチャージ型、ステータスを分離させる分離型、条件なくステータスを好きに変えられるカスタム型……大きく振り分けて四つの型だな」

「えっ……ユキちゃんの戦い方見ただけでわかったの!?」

「? まあ、あんな戦い方してたらな。ただ、純粋のチャージ型なのかどうかはまだわからないが」


 ほんの少しユキの戦い方を見ただけ。それだけだというのに……この男はユキの九火の特徴を把握してしまったのだ。


 ――さ、流石、元がLv.80台の実力者!


「確かにチャージ型なら総合力としては随一だし、一気に勝てるかもしれねぇ……が、弱点もある」

「弱点……?」

「チャージ型は本領を発揮できるまで時間がかかる、もしくはタイムリミットがある。タイムリミットがあった場合――」



【ユキ

HP 674/1383

MP 65/415】



「――その分だけ、無茶をしなくちゃいけないってことだ」

「っ!」


 いつの間にかユキのHPが半分以下になっていた。

 攻撃を受けてばかりだからではない。ユキの与える魔法攻撃力の自動回復量では、毒のダメージを上回ることができないのだ。

 そのおかげで火は残り4つだが……ここで倒れては、元も子もないだろう。


 しかし、当のユキは至って冷静だった。


「すぅ……」


 いくら速くても隙は必ず生まれる。

 攻撃モーションに入り、突進してくるタイガー。幾度の攻撃で読み切っていたユキは半身をずらすだけで、その攻撃を躱す。


 そして――隙だらけの背後がチャンス!


「はぁっ――!」


 一気に間合いを詰め、即座にロストバスターから鬼斬へ持ち替える。


「【八咫烏】!」

「ガァァアッ!?」


『2,832』『2,836』『2,829』


 ユキの三撃が見事命中する。


【ユキ

HP 1,099/1383

MP 78/415】



 ――上手い!


 武器チェンジからのスキル発動。これなら十分に回復しつつ、九火のチャージも溜めやすい。


 ……が、そう楽に勝てる相手というわけでもない。


「――ガゥウウッ!」

「っ!!」


 タイガーが壁に足をつけ、身体を180度回転。即座にユキへ突進を繰り出す。


「っつ、ぅう……!」

「ユ、ユキちゃん!」


【ユキ

HP 682/1383

MP 78/415】


 一気に二つの火が消えた。


 直撃は免れたものの、不意打ちに避けきれずダメージを負ってしまう。



 ――が、対処しきれなかったわけではない。


「……っ、【絡新婦じょろうぐも】!!」


『3,956』


「――ガァァアッ!?」


 ロングブレードタイガーに一閃が走り、ダメージが表記される。

 回避が不可能と判断したユキは、ダメージと引き換えにスキルを発動していたのだ。


 ――でも、このダメージじゃ長引く!


 九尾を発動させることが出来たとしても、攻撃力は3,102。スキルなしではダメージは3,000以下になるだろう。


 それではダメなのだ。ユキは短期決戦を望んでいる。

 体力が無くなるから? 集中力が尽きるから?


 ……否。答えは至ってシンプル。


 ――ロングブレードタイガーに勝てないということは……ノインさんに追いつけないことを意味する!


 彼女はタイガーと同じ動きをするノインを重ね合わせていた。


 たかがスピードが上がっただけ。

 それだけで長期戦に持ち込み……プレイヤーとしての利点を生かして奴に勝ったところで、真の勝利とは言えない!


 ユキが望むのは、完膚なきまでに叩きのめすこと! それが理由である!


 ――やるしかない! を!


「はぁっ――!」


 武器を再びロストバスターに持ち替えて、タイガーへ斬りかかる。


『25』『24』『23』『22』『23』


 残りの火は一つ。


「ガァァアッ!」


 タイガーも応戦する。

 一瞬にして姿を眩まし、ユキの背後から襲いかかった。


「ぐっ……うぅう!」


【ユキ

HP 721/1383

MP 73/415】


 多少のダメージを食らいつつも、攻撃を受け止め、柄を胴体に押し付ける。


「【ブラスト】――【鵺】!」

『262』

「ガァッ!?」


 柄から強力な風が吹き、壁へ吹き飛ぶタイガー。


 最後の火が消え、準備は整った。



 が、Rui子はある一点に引っ掛かりを覚える。


「ブラストを、ここで使った……?」


 ブラストのクールタイムは10分。九尾発動の為に使ったとはいえ、攻撃力を5倍にするスキルを今使うのは得策だとは思えない。


 そんなこと……そんなこと、ユキなら当然わかっているはずなのだが……。



 一方……ユキはソウタに会う前のことを思い出していた。



 それはノインと九尾の特訓をしてた時。


「あ……れ……?」

「気がついたか、先輩」


 ユキが目を開けると、ノインが顔を覗き込んでいた。


「私……」


 彼の顔が近いとか、膝枕されていることとか、いつもなら騒ぎ立てる彼女だが……そんなことよりも、自分が気を失った経緯を探る。


 確か……九尾を発動しようとしたが、を試みようとして……。


「……私、今のこと、よく覚えてません」

「だろうな。あれは完全に暴走してたって感じだったし」

「あはは……失敗、しちゃいましたか……」


 物事はそう簡単にいかないものだ――なんて自嘲を込めた笑みを浮かべると、ノインは首を捻った。


「ん? いやいや、あれは成功だ。確かに暴走してたとはいえ、攻撃力は爆発的に上がってたからな」

「そう……なんですか?」

「あぁ。今後使える場面では使った方がいい……だが」


 と、ノインの目が細くなる。


「俺がいない時には絶対使わないでくれ。ユキ先輩の暴走を止められるのは……現状、俺だけだ」

「です、よね……」

「約束だ」

「……はい」




 ――ごめんなさい、ノインさん。


 武器を鬼斬へ変更し、ゆっくりと構えを取る。


 ――約束……破ります。


 ここで負けるわけにはいかない。


 勝つにはこの手しかない。


「すぅっ――」



 意を決し……ユキは禁断の術を発動した。




「超変化――【九尾】!!」


 発動と同時に――真っ赤なオーラが弾け出した。




 ――九尾……全、開……?


 知らない技だ。

 Rui子が知っているのは蓄積したダメージを攻撃力と素早さに持っていき、バーサーク2.45並みのステータスになる九尾状態。『全開』なんてスキル、彼女が使ってるのを一度も聞いたことがない。


 そして――今のユキの状態も、見たことがない。


 バーサークのオーラが九つの尾となっているのはいつも通り。


 が……狐耳の先端が赤く染まり、両手に炎のようなオーラが纏っているのがいつもと違う。

 よくよく見れば、ユキの真っ白な髪の先端もやや赤くなっているではないか。


 ガクンと項垂れ、まるで全身から力が抜けたかのような自然体となり、構えが解かれている。


「ガゥウ……」

「っ!」


 が、そんなこと相手にはお構い無し。

 動かなくなったユキを睨み、タイガーが低く唸る。


「ユ、ユキちゃん! 逃げ――」

「ガァァアアアッ!」


 Rui子の必死な叫びも届かず。

 地面を蹴り、一気にユキへ肉薄していく。


 彼女の柔肌に爪が突き立てられる――その直前。


「――っ!!」


 ユキのが大きく見開かれた。


『4,013』『4,011』『4,015』『4,012』

「ガァアッ!?」


 思わぬ反撃を食らい、タイガーの動きが怯む。


「ぅぅう……」


 ユキの口から漏れるのは……唸るような声。



 そして彼女は顔を上げると――天に向かって咆哮した。


「ううぅぅぅ――あああああぁぁぁぁぁっ!!」


 今まで聞いたことがないユキの叫び声に、Rui子がビクリと震える。


「あああぁぁぁっ!」


 咆哮と同時に――ユキが跳んだ。


「――ぁぁぁああっ!!」


『4,011』『4,013』『4,014』『4,013』


 ――ス、スキルなしで、このダメージ!


 先程までとは違う威力。しかも一度に四連撃もののダメージを与えているのだ。


 だが……どこか様子がおかしい。


「ガァァアッ!」


 タイガーはスピードを生かし、不規則な動きでユキに攻撃を仕掛けてくる。


「――!」


 ユキの耳がピンと動いた。


「ううぅぅぅっ――」


 ぐるりとタイガーの方へ顔を動かすと――目にも止まらない突撃を跳んで躱す。


「うぁぁあああっ!!」


『4,014』『4,012』『4,013』『4,012』

『4,012』『4,011』『4,010』『4,010』


 咆哮と共に凄まじい連撃がタイガーを襲う。


「――!!」


 その時、Rui子は見た。

 


 通常ならあり得ない挙動。武器を持ってない攻撃は攻撃とみなされないはず。


 それが可能としている――Rui子がもう一つ見たもの。


 ――つ、爪だ!


 そう……ユキの手に纏う炎のようなオーラ。


 ユキが攻撃したその瞬間に、オーラは


「うぅぅああああぁぁぁっ!!」


 まるで獣になったかのような咆哮を放ち、ダメージを与えていく。


 βもまた、ユキの姿を見て驚いていた。


 ――あいつ、覚醒して……いや、違う。制御しきれてないな、ありゃ。


 所謂、暴走状態。その証拠に……。


「うぅぅ!」


 攻撃する。


「うぅぅ!」


 攻撃する。


「うぅぅああぁっ!!」


 ひたすら攻撃する。


 その動きに理性はなく……ただ、獲物を本能のままに狩っている状態となっているのだ。


 一体ユキの身に何が起こっているのか……それはステータスを見れば一目瞭然。


【名前:ユキ

メイン:ナイト Lv.83

 サブ:バーサーカー Lv.79

 HP:822/1383

 MP:0/0

 攻撃:3102

 防御:0

 魔功:0

 魔防:0

素早さ:3411

スキル

【バーサーク Lv.4】【ブラスト Lv.4】【鎌鼬 Lv.7】【八咫烏 Lv.5】【天狗 Lv.5】【河童 Lv.3】【鵺 Lv.4】【餓者髑髏 Lv.2】【小豆洗 Lv.4】【絡新婦 Lv.1】

エクストラスキル

【彷徨】


 そう……HP以外の全てのステータスを攻撃・素早さに割り振ったことにより、パワーが制御できなくなっている状態。


 それが【九尾全開】の力である。



 ――こ、怖い……。


 まるで野生化したようなユキの動きに、Rui子の足は震えていた。


 まるで血に飢えた獣。

 一歩でも近づけば――Rui子さえも食われてしまいそうな。


「んだよ、ありゃぁ……」


 あのミナトでさえ、今のユキを見て微かに声が震えている。


 怯える二人を見て、βはボソリと呟いた。


「……なんで、あいつはこの戦いを見てほしかったんだろうな」

「なんで、って……」

「あいつの今の姿を見て……どう思う?」


 βの問いに、ユキの姿を今一度見つめる。


「うぅぅああぁぁっ!!」


 怒り。


「うぅあああっ!!」


 悲しみ。


「あああぁぁぁっ!!」


 ――いや、そうじゃない。


 ユキが伝えたいのはそういうことじゃない。

 彼女が伝えたいのは――



 ――お願いっ、聞いてRui子ちゃん!



「――っ!!」


 不意に思い出したのは、ミナトとの衝突を必死に止めようとしていたユキの姿。


 あの時も。

 あの時も。

 あの時も。


 ユキはいつだって――Rui子に話をしようとしていたじゃないか。


 ――それなのに、ボクは……!


 話を聞こうとしなかった。

 ミナトと徹底的に対立していた。

 歩み寄ろうともしなかった。


「うぅあああっ!!」


 その結果……ユキはこうなってしまったのではないか。

 Rui子が話を聞かなかったせいで……ユキは今、暴走しているのではないか。


「ガァァアッ……!」


 ユキの猛攻に、ロングブレードタイガーの身体がよろめく。


「うぅぅ――ああぁぁぁっ!!」


 ユキはその隙を逃さなかった。

 大きく跳躍し、タイガーとの距離を詰め、両手の爪を顕現させる。


 大きく両手を開き……そして。


「――あああああぁぁぁっ!!」


 ――八つの軌道がタイガーを斬り裂いた。


『4,016』『4,017』『4,015』『4,014』

『4,012』『4,013』『4,011』『4,011』


「ガ、ァッ……!」


 渾身の一撃にタイガーはよろめき……光の粒子となりながら、地面に倒れる。


「ふぅう……ふぅうう……!」


 そして……荒い息を立てながら、相手が消えていく姿を見つめるユキも。


「う、ぁっ……!」


 フッとオーラが消え……力尽きたかのように、同じく地面へ倒れた。


「――っ!!」


 その瞬間……Rui子が部屋へ飛び込むように入っていった。


「ユ――ユキちゃんっ!」


 倒れた友人の元まで走っていく。


「……ユキちゃんっ!? ユキちゃん、ユキちゃんっ!」


 必死に声をかけるが、ユキの目は閉じられたまま動かない。


「……あっ、あぁあ、ああぁっ……!」


 そして――ようやく気がつく。


 自分がやってしまったことを、過ちを。


「あぁっ、ああぁっ! あああぁぁあああっ!」


 ――なにが……なにが、『許せない』だ!


 ――ユキちゃんを傷つけて、ボロボロにさせたのは……ボク自身じゃないか!


 ――ボクがユキちゃんを傷つけてたんじゃないか!


 ――それなのに……それなのに!


「ああぁぁぁっ! あぁあああぁぁぁっ!」


 大声で泣きじゃくるRui子。大粒の涙がこぼれ落ち……ユキの目がゆっくりと開かれた。


「………………Rui子、ちゃん……?」

「っ!!」


 目を覚ました彼女の姿を見て……Rui子は勢いよく抱き締める。


「ユキちゃんっ! 大丈夫!?」

「……うん」

「よかった……本当によかった……!」

「……えへへ。やっと、いつものRui子ちゃんになってくれた」

「ご――ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ! ボクは、ボクはっ……!」

「……次やったら、もっと怒っちゃうからね」

「うぁぁああっ! あああぁぁっ!」


 力強く抱き締めるRui子の背中を、ユキは優しく擦る。



 仲直りする二人の様子に……ミナトは一人、気まずそうに目を逸らしていた。

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