第83話 リーダーとして

 今でも鮮明に覚えてる。


「瑠依子はチビなんだからさ、バスケで何かできるわけじゃねぇだろ」


 それはRROを始める2年前。

 Rui子がバスケに出会った出来事。


「全部あたしに任せればいいんだよ。いいか? 全部、あたしにボールを回せ」


 バスケは身長が高い人の為のスポーツ。

 だからこそ、同じクラスの子がやけに高圧的だった。


 正直、バスケなんかしたくなった。

 低身長で運動神経が悪いRui子が活躍できるわけないなんて、彼女自身がわかりきっていたから。


 こんなことをさせる学校行事を何度も恨んだ。



 ……それでも。


「走りなさい瑠依子」


 だけはRui子を見捨てなかった。


「なんで……? もうボクが走ったところで、なんにも変わらないよ……」

「……はぁ。何か勘違いしてないかしら?」

「勘違い……?」

「あのね――」



***



「……夢、か」


 懐かしい思い出だ。

 あの頃は辛かったことも多かったが、今となってはいい思い出でもある。


 しかし……なぜ今更こんな夢を見たのか――その答えは、彼女自身がよくわかってるだろう。


 身を起こし、大きく伸びをする。時刻は午前5時半。いつも通りの起床時間なのだが……いつもと違い、空が明るくない。いや、空さえも見えない。


「はぁ……」


 人間は朝日を浴びることによって元気になると言われているが、まさにその通りだろう。

 現に今のRui子を見て、元気があるとは思えない。


「……よし。走ろう」


 それでも日課は崩さず。軽く準備運動をし、駆け出していく。




 どうやら第38階深層のボスはノインチームが倒してくれたようで、夜になった頃に第39階深層への階段が現れた。


「ここで休むぞ」


 早速降りようとするRui子だったが、その前に一声あげたのはβだった。


「多分向こう側もボスを倒して休んでるだろ。なら、先急いでも仕方ないしな」

「わ、私も賛成です! ここで寝ましょう!」

「えと、その……ぼ、僕も……」

「……まあ、いいけど」


 多数派には勝てず。反論しても仕方ないと判断したRui子は渋々と三人に従うことにしたのだ。


 それから誰も言葉を発せず、無言の就寝となって……今現在。


 ――ユキちゃん、悲しそうだったな。


 ふとランニング中に思い出すのは、戦友の暗い表情。

 今のRui子やソウタはともかく、ユキですら昨晩は何も言ってこなかったのだ。きっと……いや、絶対Rui子とミナトの喧嘩が原因だろう。


 昨日冷たくあしらったことも含めて悪いことをしたと思いつつ……それでも、ミナトを許すことができなかった。


 ――やっぱりあいつ、あの子に似てるな。


 ふと夢に出てきた高圧的な同級生とミナトを重ねる。

 あのクラス対抗バスケ大会のこと。

 Rui子としては良い思い出だが……あの時の同級生はどうだろうか。


 があって――はたして、良い思い出となっているのだろうか。


 ――ユキちゃんとしては仲直りして欲しいみたいだけど……まだ、そういうわけにはいかない。同じ目に遭わせちゃ、いけないんだ。


 仲間を一切頼らないし助けないプレイをするミナト。ソロでやる分には別にいいのだろうが……チームとしては、絶対に止めさせなくちゃいけない。


 きっといつか、ミナトがわかってくれるその時まで……。



***



 夜が明けた今日も、ユキチームは各自個人でレベル上げすることになった。


「早くパートナーに会いたいんでしょ? お兄さんはサクサク進めちゃうからさ、ボクたちも個人個人でレベル上げた方が効率的だと思うんだ」

「……好きにしろ。俺は第38階深層のボスを探す」

「うん、好きにさせてもらうよ。ユキちゃんも、それでいいよね?」

「……う、うん」


 やけに威圧感のあるRui子の問いに、ユキは首を縦に振る以外ない。


「じゃ、そういうことだから。またボス戦で」


 そういうや否や、片手を上げてさっさと進んでいってしまうRui子。

 βもなにも言わず、単独で動き出す。


「…………」

「…………」


 残ったのはユキとソウタのみ。


「……じゃ、じゃあ、また」


 ソウタもぎこちなく挨拶をし、去る。


「――あの、ソウタさん!」


 ――寸前、ユキが声をかけた。


「私と……ミナトさんで、一緒に戦ってもいいですか?」



***



「うぉ――らぁっ!」


 勇ましい掛け声と共に、ウォンドがグレートオークの頭部に叩き込まれる。


「――グォォォオオオッ!」

「おおっと」


 棍棒が振り払われ、ソウタ――いや、ミナトがバックステップをして躱した。


「ふっ――!」


 まるで攻守交代のように、ミナトがハイオークから離れたタイミングを狙ってきたのはユキ。一気に距離を詰め刀を構える。


「【鎌鼬】!」

『1,822』

「あっ!? てめ、それはあたしの獲物――」

「ミナトさん、パス! 【天狗】!」

『1,608』

「――ォオオッ!?」

「――お、おぉっ!?」


 敵を盗られた――かと思いきや、いきなりハイオークがミナトの方へ吹っ飛んできて、動揺しつつも構えをとった。


「――おらぁっ!」

『3,699』


 ――低い。


 相手にデバフ、自分にバフをかけつつ、このダメージ。特段低すぎるわけではないが……やはりHeヒーラーだと攻撃力はかなり落ちてしまうようだ。


「【バーサーク・妖狐】!」


 このままでは埒が明かない――そう判断したユキは、自身もバーサークモードへとなる。


「【天狗】!」

『2,310』『2,321』『2,316』


 繰り出す三連撃。が、バフがかかってないバーサークではダメージも大きく伸びない。


「ミナトさん! 私にフルバーストいけますか!?」

「あぁ!? なんでてめぇなんかに攻撃バフをかけなくちゃならねぇんだよ! 自分の実力でやりやがれ!」


 ――ですよね。


 ミナトがバフをかけてくれないのは、事前にソウタから聞いていた通り。


 ――なら……お言葉通り、自分の実力でなんとかするしかないか。


「キリがねぇな……これならどうだ!」


 しびれを切らしたミナトが取り出したのはウイングバスター。


「ぅお――らぁっ!」


 ハイオークに向かって大振りの大剣を振り降ろす。


 ……が。


『3,900』

「んっ!?」


 攻撃力+375%にもなる爆発的な攻撃力を持った大剣。こんなに低いわけがない。


「もう――いっちょぉ!」

『3,923』

「これ、なら――どうだぁ!」

『3,956』

「だぁぁぁ! どうなってんだ!? まだデバフは解除されてねぇはず――」

「ミナトさん横!」

「っ!」


 油断大敵。ハイオークの横振りがミナトの身体に命中する。


「がはっ……!?」


 防御が間に合わず、モロに食らってしまう。


【ソウタ

HP/HP 623/1382

MP/MP 986/986】


 ――や、やべぇ、ヒールを……!


 続けて棍棒を振り下ろそうとするハイオークに焦りの表情が出る。

 しかし、身体に衝撃が来たせいか、うまく呼吸ができず――スキルが唱えられない。


 次の攻撃を受けたらゲームオーバー。頭ではわかっているものの……身体が言うことを聞かず。


「グォォォオオオッ!」

「ぐっ――!」


 そのままハイオークの棍棒がミナトの頭部目掛けて振り下ろされる――




「――っ!」


 ――寸前、急に身体が後ろへグンと引っ張られた。


「う――ぉぉおっ!?」


 地面を擦りながらも高速でバックしていき、ハイオークから距離を取っていく。


 が、これはミナトの意思ではない。


「なんとか、間に合いましたねっ……」


 ロストバスターでミナトを巻き上げたユキがほっと安堵する。


「なっ……てめぇ、手出しすんじゃねぇ――」

「そんなことより。その大剣で真っ向勝負しても、あまり効果ないですよ」

「あ? どういうことだ?」

「ハイオークは意図的に一部の皮膚を硬化させる能力があります。有効打は硬化スピードを上回る攻撃か、身体まるごと一気に攻撃するしかないんです」

「……なるほどな」

「そこで、なんですが」


 と、ユキが試すような目でミナトを見てきた。


「協力しませんか? 私がハイオークを引き付けるので、ミナトさんは後ろから攻撃を与えてください」

「不用意に近付いても、二の舞になるだけだと思うが?」

「そこはウイングバスターの利点を生かしましょう。刃だけを投げればいいんです」

「……いいぜ、ノった」


 これはユキからの挑戦状だ。どちらかでもミスすれば失敗する作戦。一瞬で倒せるチャンスではあるが、下手すればどちらとも死ぬ危険性も伴う。


 なぜそんなリスクが高い作戦を立てたのか――これはつまり、『これくらい出来るだろ?』という彼女からのメッセージ性が隠れてるからだ。


 ――あたしを試そうってのか? 面白ぇ。


「じゃ――行きますよ!」


 ぐっと身を屈めると、ロストバスターを逆噴射させて一気にハイオークまで肉薄する。


「グォォォオオオオオッ!」


 真っ直ぐ直線上に向かってくるユキに対し、ハイオークが棍棒を振り上げる。


「ふっ――!」


 わざと動きを止めたユキは半身をずらして躱し、後ろへ回り込む。


「グォォオオオッ!」


 攻撃はまだ終わらない。振り下ろした棍棒をそのまま横振りする連結技を繰り出してくる。


「――【鎌鼬】」


 が、これも予測済み。風の居合い抜きを棍棒にぶち当て、軌道をずらして攻撃を避けた。


 ――そして、その間に。


「――【ブラスト】!」


 最大限に攻撃力を高めたミナトがハイオークに向かって構えを取る。


「これでも、食らいやがれぇぇぇっ!」


 ミナト渾身の一撃を込めた刃が横回転しながら、ハイオークへ向かっていく。


 巨躯に当たるまであと少し――




「なっ――!?」


 その瞬間。

 ハイオークはいきなりミナトの方へギロリと視線を向けてきたのだ。


 ハイオークの首もと目掛けて投げられた刃を視認すると……皮膚を硬化させる。


『20,523』

「――っ!」


 ――失敗した!


 ダメージは確かに5倍。だが……これだけでは相手は倒れない。


「グォォォオオオオオッ!」


 攻撃を仕掛けてきたミナトに向かって咆哮し、ウイングバスターの刃は明後日の方向へ飛んでいってしまう。


 ――やべっ……!


 と。


 ミナトが死を覚悟したその時、ハイオークの背後から小さな影が飛び上がった。


「――【ブラスト】」


 赤いオーラを纏った白い影は刃を見事掴み取る。


 作戦は失敗した。

 が――勝負はまだ終わってはないのだ。


「あ――ああぁっ!!」

「――ナイスパスです、ミナトさん」


 まるで予測していたかのようなユキの動きに、思わずミナトが声を上げる。


「【鵺】っ!!」


 完全に背後をとったユキは……ハイオークの頭部目掛けて、ウイングバスターを突き立てた。


『160,963』

「――ォォォオオオッ!?」


 背後からの攻撃にハイオークが苦しそうに呻く。


「ォォォ……!」


 やがて……動きが完全に止まると、ハイオークは光の粒子となっていった。


「ふぅ……」

「おい――やってくれたな?」


 倒したことを確認したユキが一息ついていると、ミナトが睨みをきかせて近づいてくる。


 ユキにはわかっていたのだ。さっきまでずっと攻撃をしていたのはミナト、つまりユキが引き付けていてもヘイトがミナトの方へ向かうということに。


「こうなるとわかった上で――あたしに刃を投げさせた。謀ったな?」

「謀るもなにも。私は『協力しませんか』って言っただけで、ミナトさんを完全支援するとは言ってないですよ」

「……!」


 澄ました顔で返答するユキに、ミナトのこめかみに青筋が浮かぶ。


 ……が、彼女はニヤリと笑った。


「……面白ぇ。面白ぇじゃん、お前。もう少し、あたしと遊ぼうぜぇ」

「えぇ、構いませんよ。一緒に協力しながら、レベル上げしましょう」

「あぁ――協力しながら、な」


 「次は負けねぇぞ」と闘志を燃やすミナト。

 ユキも余裕そうな笑みでミナトを見つめ返す。






 ――えっ、もう一回!? マジで言ってるの、この人!? あんなミラクル、もう起こせないよ!!? てか、さっきので結構バテバテなんだけど!!?


 ……が、内心は非常に焦っていた。


 ――うわぁ、うわぁ……どうしよう、本当どうしよう。ちょっとカッコつけたくなって、ノインさんっぽく振る舞ったら、こんなことに……うわぁ、見栄なんて張るもんじゃないなぁ。


 とはいえ、ここまで来たら引くに引けない。どうやらミナトはやる気満々のようで、ユキにとっては非常に好ましい状況なのだから。


「おら、行くぞ。あっちだ」

「え、えぇ」


 ――どうか、どうか体力がもちますように……!


 震える声を抑えながら、ユキは静かに願いを込めて大剣を握りしめた。



***



 ……そして数時間後。


「ぜぇっ……ぜぇっ……!」

「ご、ごごごめん! ほんっとうに、ごめんなさい、リーダー!」

「ぜぇっ……い、いえ、私から持ちかけたことなので……はぁっ……へ、平気です……」


 ボロボロになった身体をよろめかせながら歩くユキの姿がそこにあった。


「ミナトったら、なんか変にリーダーへ対抗心が出ちゃったみたいで……」

「あ、あはは……そういう気持ち、このゲームでは大事だと思うよ、うん……」


 まあ、こんなにも連れ回されるとは思ってなかったが。

 敵を見つけては戦闘開始、敵を見つけては戦闘開始……。ミナトは一気に突っ込んで引くことを知らないタイプの為、ユキがほぼ全般的にフォローに回る羽目に。

 今までこういう役目を請け負うのはノインなのだが……味方をフォローするのが、こんなにも大変なんだということを改めて思い知った。


「おっ……ちょうどいいところに来たな」


 と。

 二人が歩く先にβが現れる。


「今、お前らを呼ぼうと思ってたんだ。ボスの部屋が見つかった」

「そ、そうですか……」

「……おい、大丈夫か? そんなんでボスに勝てるのか?」

「いえ、大丈夫です……それより、早く行きましょう……」

「……まあ、お前がそう言うなら構わないが」


 βはそう言うと否や「ついてこい」と突き進んでいく。


 歩いて数分もしないうちにボス部屋の扉が見え、先に合流したらしいRui子の姿もあった。


「あっ……」

「……ソウタさん、行きますよ」

「う、うん……」


 Rui子を見た瞬間に足を止めかけたソウタだが、ユキに背中を押されて再び歩み始める。


 向こうも二人の存在に気がついたようで、チラリとユキを見た瞬間……大きく目が開かれた。


「や、やっほ、Rui子ちゃん。レベル上げはじゅんちょ――」


 ふらつきながらも片手を上げて声をかけるユキ――だったが。


 Rui子はそれを無視し、早歩きでソウタに詰め寄ってきた。


「あいつを呼んで!」

「へっ、えっ!?」

「今すぐ呼んで! ユキちゃんをこんなにもボロボロさせたあいつを!」

「えっ、ちょ、まっ! 私は――」

「ユキちゃんは黙ってて! 許せない……ボクの親友をこんなにさせたあいつが許せない……!」

「こ、これは私からしたことでっ」

「そんなわけない! ユキちゃん、庇わなくていいから!」

「お願いっ、聞いてRui子ちゃん!」

「出せ! 早く呼び出せ! さもないと――」

「さもないと……なんだ? てめぇになんか出来んのかよ、チビッ子」

「――!」


 ソウタの顔つきが変わった。

 先程までのおどおどした表情から一変、勝ち気な目になる。


「ずいぶんとご立腹のようだなぁ、おい」

「……全部あんたのせいでしょうがっ! ボクが怒ってるのも! ユキちゃんがボロボロなのも!」

「あぁ? 知るか、んなもん。こいつがあたしに合わせるっつーから、あたしは好きにした。それだけだ」

「――っ! あんたねぇ!!」

「二人ともやめて! 喧嘩しないで!」


 ――どうして? どうしてこうなっちゃうの?


 今にも掴みかかりそうなRui子とミナトの間に割って入るが、二人は止まりそうにない。


 ――私は……ただ私は、みんなで仲良くプレイしたいだけなのに。


 いつだってそうだった。

 他人と言い争うことが苦手なユキは喧嘩したがらず、友達同士の喧嘩なんて見たくない。


 みんな仲良く、争いなんて起こらない平和の状態。それがユキの望む日常である。


 なのに。

 それなのに。



「……くっだらね」


 端から見ていたβが吐き捨てるように呟き、扉へ手を掛けようとする。


「お、ボスか? いいぜ、楽しめそうじゃねぇか――」

「ちょっと、何処に行くつもり!? まだボクの話は終わってない!」

「ちっ……邪魔だチビッ子! 何しようが、てめぇにはどうでもいいことだろ!」

「どうでもよくない! あと、ボクはチビッ子じゃなくてRui子!」

「それこそどうでもいいんだよ!」

「あんた、仲間でしょ!? 名前くらい覚えてよ!」

「それとこれは関係ねぇだろうが!」


 ――どうすればいいの……?



 更にヒートアップする二人。もう止める術をユキは持ってなかった。



 ――こんな時、ノインさんなら……。

 ――ノインさんがいてくれたら……。






 ――クランのリーダーなんだろお前。


「――!!」


 悩みに悩んだ時……脳裏に蘇ったのは、βに指摘された言葉。



「この、いい加減に……!」

「あ、やんのか? いいぜ、かかってこいよ。こっちも殴りたい気分なんだよ」


 拳を固めるRui子とウォンドを構えるミナト。


 とうとう我慢の限界がきた二人は――




『18』

『12』


「「――っ!?」」


 二人に一閃が走った。


 思わぬ攻撃に固まるRui子たちの前に立つのは、一人の少女。



「……もういいです。今回は二人とも戦力外です。そこで黙って見てなさい」

「ユ、ユキ……ちゃん?」


 今まで見たことないユキの表情に、Rui子の頭が一気に冷めていく。


「βさん。第39階深層のボスは私一人に譲ってくれませんか?」

「あ? お前一人で勝てるとでも思ってんのか?」

「いえ、勝てる勝てないじゃなく――やらなくちゃいけないことなので」

「……へぇ」

「もし私が負けたら、その時はβさんに譲ります。二人も連れていくなり倒すなり、好きにしてください」

「ずいぶん好き勝手しようとするんだな。いいのか? 向こう側のノインとかいう奴に相談しなくて」

「構いません。ノインさんは関係ありませんので」


 そう、ユキは無意識にノインを頼りすぎていた。


 ノインならどうするか。

 ノインがいてくれたら。


 ……だが、そうではなかったのだ。このノルズの舵取りはノインではないのだ。


「――私がノルズのリーダーです。責任は全て私が負います」

「…………」


 クランの問題を解決すべきはリーダー――ユキの役目なのだから。


 βはジッとユキの顔を見て……小さく溜め息をつき、壁に背中をつけた。


「……そうか。なら、好きにしろ」

「ありがとうございます」

「――おいおいおいおい、勝手に決めてんじゃねぇぞ。あたしは納得がいかねぇなぁ?」


 扉の前に立つユキの背後へ歩いてくるのはミナト。先程のユキの攻撃に頭を冷やすどころか、更にヒートアップしている。


「大体――なんでてめぇに従わねぇといけねぇんだよぉ!!」


 怒りの頂点に達したミナトがウォンドを大きく振り上げ――




「――【天狗】」

『13』

「がっ――!?」


 予測していたユキの斬撃により、ミナトは大きく後ろへ吹っ飛んだ。


「従わないといけない理由? 私がクランのリーダーだからです」

「て、てめ……! あた、しは――」

「いいから、黙ってなさいっ!!」

「……っ!」


 彼女の一喝に、さすがのミナトも怯む。


「ユ、ユキちゃん……」

「……Rui子ちゃん、あなたも待機ですからね。もう一度言います。はっきり言って戦力外です。もし、ついてこようとしたり、妨害するのなら――」


 ユキは刀を抜き――Rui子に突きつけた。


「――容赦なく倒します。そのつもりで」

「ひっ……!」


 初めてユキから敵意を感じ、Rui子もその場でへたり込んでしまう。


「……そこで見てなさい。私の戦いを」


 ユキはそう吐き捨てると、一人で扉の奥へ向かっていく。


 その後ろ姿を追う者は、誰もいなかった。

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