第78話 Lv.1から/Lv.2で充分

「――次! 右サイドから来るよ!」


 Rui子の指示に、龍矢とソウタが構える。


【コボルト Lv.8】


「【フルブレイク】!」


 ソウタがデバフをかけると同時に、他の二人が両サイドからコボルトに肉薄していく。


「ウォォォオオッ!」


 コボルトは雄叫びをあげると、ソウタに向かって突進してきた。


「ひ、ひぃっ!」


 慌てて右サイドへ逃げていく。コボルトも当然追うようにして進路変更をする……が。


「させないよ! 【スティール】!」


 その間にRui子が割り込んできた。

 爪を立て振りかざしてきた腕に向かって拳を叩きつける。


『12』


 ダメージは微量だが、コボルトの攻撃を防いだ。


「よっ、ほっ、と!」


『10』『11』


 続く攻撃をひらりひらりと躱し、隙を見て拳を叩き込む。


「ウオオオッ!」


 もう一度大きく咆哮したコボルトが腕を大きく広げ、ホールド攻撃を仕掛けてきた。


 ――ここ!


「【スピンムーヴ】!」


 Rui子は身体を捻らせ、コボルトの真後ろへ逃げた。


 隙が大きい攻撃、相手から離れたRui子、その間にバフをかけていたソウタ。


「――【ブラスト】」


 そして――現メンバーでの最高火力。


「お前を導いてやる、蒼茫の世界へ――

その一矢は地を穿つドラゴンテイル】!!」


 放たれる蒼の光線。


『76』『75』『75』『74』『75』…

「ウォォオッ……!」


 バーサークモードではないとはいえ、龍矢の一撃をモロに受けてしまう。


 コボルトは苦しそうにもがきながら、そのまま光の粒子へと散っていった。


【レベルアップ!】

【名前:♰濃藍の天を駆ける『龍矢』は世界の蒼茫さを知る♰

メイン:アーチャー Lv.10→11

 サブ:バーサーカー Lv.7→8

 HP:149/149→166/166

 MP:40/40→44/44

 攻撃:225→252

 防御:132→148

 魔功:30→33

 魔防:108→120

素早さ:100→113

スキル

【バーサーク Lv.5】【ブラスト Lv.5】【蒼き逆鱗に触れる勇気はあるかドラグーンレイジ Lv.7】【その一矢は地を穿つドラゴンテイル Lv.3】【その連撃は天を割くドラゴンクロー Lv.6】【濃藍の涙が降ってくるレインアロー Lv.6】【全ては蒼茫に返るだろうピアシングアロー Lv.4】


「やったね! これでノーダメ三連覇! やっぱりポジションがきっちりしてると、連携が取りやすいね! ボクたちトリオ最強!」


 コボルトを討伐し終え、Rui子が嬉しそうに駆け寄る。


「……ふむ。やはり地上よりレベルが上がりやすくなっているな」

「まあ、Lv.1からのスタートだからねー。ちゃんとクリアできるよう、そこら辺は配慮されてるんだと思うよ」

「その代償として、トドメを刺した者のみに経験値付与……か」


 そう。

 この深層でのレベル上げは簡単だ。RROはレベル上げするのにかなりの時間を要するのだが、恐らく通常の手間の10倍くらいは考慮されているのではないかというくらいに上がりやすい。


 その代わり――経験値を得られるのはトドメを刺したプレイヤーのみ。

 つまり特定の一人がレベルを上げまくると、他の面子のレベルはまったく上がらないのだ。


 現在の三人のレベルは次の通り。


【♰濃藍の天を駆ける『龍矢』は世界の蒼茫さを知る♰ Lv.9.5】

【Rui子 Lv.8】

【ソウタ Lv.6.5】


 当たり前だが、サポートに回るソウタのレベルは二人に比べて少し低い。

 とはいえ、かなりバランスよく経験値を分配できている状態だ。


「ただ、どこまでレベル上げすればいいかだな。奥に進めば進むほど相手も強くなるし、中ボスのレベルが予想つかん」

「あー、それはね――」


 と。


「――ハ、【ハイシールド】!」

「「……へ?」」


 Rui子と龍矢の周囲に青いエフェクトがかかる。


 突然のことに二人の動きが固まるが……。


「――! 【フェイドアウェイ】!」


 嫌な予感がしたRui子は龍矢に向かってスキルを発動させる。


『9』


 多少のダメージを受けながら吹き飛ぶ龍矢、そして反動で大きく後ろへ下がるRui子。


「――!」


 そして――二人がいたところに振り下ろされる斧。


「――ヴォオオッ!!」


【ミノタウロス Lv.11】


「――ボス級の敵!」

「道中に出るだなんて、ね!」

「あっ、二人とも、大丈夫っ!?」

「大丈夫大丈夫! いつものように型を組んでいくよ!」

「「了解!」」


 Rui子の指示に二人はミノタウロスを囲うようにして、一定の距離を保つ。


「でも、あのミノタウロスがLv.11かぁ……」

「これが元来の姿なのだろうが……」

「なんていうか……うん」

「「「弱そう……」」」


 現在のRROにて見慣れているミノタウロスはLv.45。レベル上げ用としても扱われやすいモンスターであるため、Lv.11となると、何処となくいつもの強キャラ感が失っているように見えてしまう。


「ヴォォォオオオッ!!」


 とはいえ相手はミノタウロス。大きく咆哮すると、斧を振り回してきた。


「っと!」


 Rui子はバックステップをして距離を離す。


「【フルブレイク】!」

「よし、【濃藍の涙が降ってくるレインアロー】!」


 ソウタがミノタウロスの防御力を下げたのを確認すると、即座にスキルを発動させる。


『12』『11』『10』『11』『9』


「ぐっ……流石に硬いな……!」


 が、さすがボス級モンスター。そう簡単にダメージを出すことができず、龍矢は苦々しげに唇を噛んだ。


「でも、ボクたちの攻め方はワンパターンじゃない――そうでしょ!」


 とRui子が取り出したのは――ウイングバスター。


「ほら二人も! 装備装備!」

「えっ、あっ。う、うんっ」


 深層に入る前にノインからロストバスターを受け取っていたソウタも、慌てて装備する。


「それじゃ、いくよ――【ドライブ】!」


 意を決し、ミノタウロスへ肉薄する。


「ヴォォォオオッ!」

「――遅い!」


 迫ってきたRui子に斧を振り上げるが……彼女は既にミノタウロスの懐へ忍び込んでいた。


「【レイアップ】!」

「――!」

『176』


 重い一撃。攻撃力+375%の威力は伊達じゃない。



「――ォォオオオッ!」

「おおっと! 【スピンムーヴ】!」


 攻撃を受けて尚、斧を振るってくるミノタウロスに回避スキルを発動する。


「龍矢くんパス!」

「あぁ、任せておけ」


 Rui子からパスを受け取った龍矢はミノタウロスにロックオン。


「白銀と濃藍が交わった時、新たな世界の水平線が現れる――【その一矢は地を穿つドラゴンテイル】!」


 青いオーラを放ちながら刃がミノタウロスへ真っ直ぐ飛んでいき――



「――あっ!? 今、ノインいなかったんだった!」

「……!」


 予期せぬミスプレイ。


 龍矢は遠距離スキル。故にウイングバスターとの相性は抜群なのだが……放った刃を拾うポジションが必要不可欠であるのだ。

 いつもはノインがその役目なのだが……今は彼は不在。


 つまり刃を放ってしまった今、誰かが刃を拾いに行かなければならないのだ。


『352』

「ヴォオッ――!?」


 ミノタウロスに強烈な一撃。だが……刃は宙に舞ったまま、拾う相手がいない状態。



「リバウンド――」


 ストライドステップをし、慌てて拾いに行こうとするRui子だが……どうやらその必要はないようであった。


 何故なら。



「――う、うあああっ!」



 既に予期していたかのように……ソウタが走り込んでいたからである。


「えっと……トリガーを、引く!」


 糸を射出し刃をキャッチすると、慌ててRui子の方へ身体を捻らせる。


「Rui子さん!」

「えっ、あっ、うん!」


 呼び掛けにRui子は我に返り、ソウタの方へ寄っていく。


「え、えーいっ!」


 ――この子……。


 ソウタからのパスを受け取ったRui子は、今一度ミノタウロスへと突っ込んでいった。


「――ヴォオオッ!」

「はっ!」


 振りかざされる斧を受け止め、間合いを詰める。

 ミノタウロスは左拳をRui子に振るう。


「【その連撃は天を割くドラゴンクロー】!」


『12』『11』『10』


 ……が、龍矢の振るった突風によって拳の軌道がずらされる。


「――ナイス龍矢くん!」


 Rui子はミノタウロスの拳を難なく躱すと、一気に後ろへ回り込んだ。


「【レイアップ】!」

『178』


 背後からのアッパー攻撃。Rui子の攻撃は続く。


「っらぁぁあ!」


『107』『108』『105』


 斬、斬、斬。

 素早くないが、重い斬撃がミノタウロスに襲いかかる。


「――ヴォォォォォオオオッ!!」


 ――来た!


「【フェイドアウェイ】!」


 斧を投げ捨てたモーションにRui子は距離を置く。


「全員、ゾーン組むよ!」


 ミノタウロスの突進の予備動作に、龍矢とソウタが近くに駆けてくる。


 ミノタウロスの突進はランダムのプレイヤーに攻撃を仕掛けてくる。

 ソロプレイでは何も関係ないが……マルチプレイでは全員が固まらないと、不意打ちを受けてしまうことがあるのだ。


「ヴォオオッ――!」


 一撃目。真っ直ぐ飛んできたミノタウロスを難なく躱す。


 二撃目、三撃目も躱していく……が。


「うわ、わっ……!」

「――!」


 バランスを崩したソウタが尻餅をついてしまう。


 慌てて立ち上がろうとするも――ミノタウロスは四撃目をソウタに向け、既に突進してきていた。


 ――間に合わない!


「龍矢くん、バスターお願い!」


 Rui子は刃を龍矢にパスすると、即座にソウタの前へ躍り出る。


「――ォォオオオッ!」

「【スティール】!」


 迫り来る角目掛けて、風魔法を放ちながら叩きつける。


【Rui子

HP 108/121

MP 0/0】


「っつぅ……!」


 多少のダメージを受けながらも、見事ミノタウロスの軌道をずらすことに成功。


 だが、まだ最後の五撃目がある。


「龍矢くん!」

「わかってるさ」


 Rui子の指示の前に、龍矢は既に動いていた。


「ソウタ、我が魂を預かれ」

「う、うんっ!」


 刃を射出しロストバスターに切り替えると……迫り来るミノタウロスへ構えを取る。


「見えぬ蒼茫の道を開け――【その一矢は地を穿つドラゴンテイル】!」


 放たれる風の噴射。


『42』『43』『40』…


 微量ながらダメージを与えていくが、……真の目的はそこじゃない。


「ヴォォォオオッ!」


 雄叫びをあげながら突進するミノタウロスだが……風の壁により、真っ直ぐの突進はいつの間にか斜めへよれていった。


 これぞ龍矢の狙っていた、突進ずらしである。


 ミノタウロスの五撃目は誰もいない空間を引き裂いていく……反撃の時間だ。


「【ファーストブレイク】!」


 いち早く動いたのはRui子だった。攻守交代のスキルを繰り出し、目にも止まらぬ速さでミノタウロスへ肉薄する。


「Rui子、さん!」

「――っ!」


 と。

 龍矢が放出し続ける【その一矢は地を穿つドラゴンテイル】に沿わせるかのように、ソウタが刃を放つ。

 風の軌道に乗ったパスは即座にRui子の元へと辿り着いた。


「【ブラスト】!」


 刃をキャッチすると、Rui子は勢いよく飛び上がった。


「――【ダンク】!」


 隙だらけのミノタウロスの頭上目掛けて、Rui子渾身の一撃が振り下ろされる――!


『1,021』

「――ヴォオオオッ!!」


 四桁を越えるダメージに、堪らずミノタウロスは吼えた。



「――ォォオオオッ!!」


 ……しかし、まだ終わりじゃない。


 ミノタウロスは力尽きることなく、Rui子に向けて拳を振り上げる。


 強敵の攻撃。全力の攻撃もトドメには至らなかった。


 そんな絶望感に。



 Rui子はただ一人――笑っていた。


 迫り来る一撃を恐れのあまり? ただのやけくそ?



 ――否。


「――バスケは一人でするもんじゃないんだよ」


 そう――確かな勝ち筋が見えたからだ。



 彼女の瞳には希望の光が宿っている。


 ――よく走ってきてくれたね。


 彼女の手元には……刃は、もうない。


「ブ、【ブラスト】!」


 パスは既に出されているのだ。





「――だぁぁぁあああっ!」



 Rui子から刃を受け取ったソウタが、大きく飛び上がり突き攻撃を放つ。


 もう一人の刺客が後ろから来ていることに、ミノタウロスは気がつかず……。



『312』

「ヴ――ォォォォォオオオッ!!」



 ソウタの一撃に、ミノタウロスは苦しそうに吼えた。


「――オオオォォォッ……!」


 が、ミノタウロスの力はだんだんと弱まっていき……。


 ついには膝を地面について……光の粒子となって消えていった。


「……っ。……や、やった……!」


【レベルアップ!】

【名前:ソウタ

メイン:ヒーラー Lv.7→10

 サブ:バーサーカー Lv.6→8

 HP:126/126→174/174

 MP:95/95→135/135

 攻撃:74→100

 防御:104→143

 魔功:44→63

 魔防:150→210

素早さ:81→110

スキル

【バーサーク Lv.4】【ヒール Lv.8】【リフレッシュ Lv.7】【フルバーストLv.8】【スプレスLv.6】【ハイシールドLv.5】【フルブレイクLv.8】【ヒールポイントLv.3】【エンチャント(属性)Lv.6】


「やったんだ……ぼ、僕が……!」


 自分がトドメを刺したことに、思わず拳を握りしめるソウタ。


 そんな彼をRui子はじっと見つめる。


「……最初さ」

「えっ、あっ、はい!」

「最初……ミノタウロスを見つけた時。防御バフ使ったよね」

「あっ……! す、すみません! 僕、勝手に……!」

「あっ、いや、別に怒ってないよ? ただ、あの時気づいてたのかなって」

「は、はい。気づいてたんですけど……声をかけるより、そうした方がいいかなって」

「……そうした方が?」

「はい……」


 ふと思い返されるのは、龍矢がユキに合図をした時。


「多分、今後一緒にプレイするなら……僕が相手の動きを読んで、バフデバフでみんなに知らせた方がわかりやすいかなって」

「…………」

「……Rui子さん?」

「………………ス」

「す?」

「――スーパープレイだよ、ソウタくん!」


 と。

 Rui子は輝くような笑顔を見せ、ソウタに思いっきり抱きついてきた。


「ひゃわっ!?」


 まるで女の子のような反応をするソウタ。


「そう、そうだよ! ボクが求めていたのは、君のような司令塔だよ! いやぁ、今までボクが指示出してたんだけどさ! ほら、ボクってどちらかというとフォワード向きじゃん? けど、ガードタイプがいなかったから、ボクが兼任してたようなもんなんだけどね!」

「あわ、あわわっ……」


 ――お、女の子の身体ってこんなに柔らかいの!? なんかいい匂いもするし……ヤバい! おかしくなる!


 嬉しそうに早口で語るRui子だが、ソウタはそれどころじゃない。生まれて初めて感じる乙女の華奢な身体に、目をぐるぐるさせていた。


「Rui子、そこまで。ソウタがダウン寸前だ」

「へっ? あれ、ソウタくん? どうしちゃったの?」

「あわわっ……」


 顔を真っ赤にさせたソウタと何が原因かわからないと首を捻らせるRui子を見て、龍矢はふっと笑みを浮かべる。


 ――Rui子とソウタの仲が気になっていたが……これなら、大丈夫そうだ。



 と。


「……おっ」


 奥の洞窟から、もう一人のプレイヤーがこちらに向かってやってくるのが見える。


【βテスト用 Lv.21.5】


 ――マジで強いんだな、このプレイヤー。


 攻略開始時からずっとソロで動き続けていたβのレベルは、三人とは比べ物にならないくらい上がっていた。


「よぉ。俺たちの力が必要になったのか?」

「……あ? 誰がお前らの力なんか借りるかよ。俺一人で十分だ」


 龍矢の冗談にも冷たい態度。まさに一匹狼という感じだ。


「ここの階層を調べてたんだがな。どうやら中ボスはいないようだ」

「……いない?」


 いない、ということはないはず。だって、階層ごとに中ボスかボス一体は絶対の法則だ。


「どこか隠し通路とか……」

「それも調べた。だからいねぇっつってんだよ」

「いやだって……」

「うっせぇなぁ、いねぇもんはいねぇんだよ。てめえのことも今ここで斬り裂こうか? あぁ?」


 ――俺としてはこっちのプレイヤーの方が心配だよ、ユキさん……。


 一切協力する気がないβに龍矢はため息をつくしかない。


「……あー。じゃあこっちはハズレかな」


 と。

 βの報告に反応したのは……意外にもRui子だった。


「ハズレ?」

「うん、向こう側……あぁ、ノインくんたちの方が第36階深層の中ボスをクリアしないと、ボクたちも第37階深層へ進めないんだよ」

「え、じゃあ、第37階深層は……」

「うん、ボクたちが中ボスを倒す番だね。第2試合で間が空いちゃうけど……気合い入れてウォームアップしていこー!」


 「おー!」と拳を振り上げるが……誰も反応せず。


「Rui子……お前、なんか妙に詳しくないか?」


 代わりに龍矢が訝しげな目で見つめてきた。


「そ、そういえば、経験値が最後に攻撃した人にしか得られないってのも、Rui子さんは最初から知ってたような……」

「……おい。なんか隠してないか?」


 唐突に三人から狙いを定められ、Rui子は困ったように頭をかく。




「いやー、そのー………………実はちょっと前に、ノインくんたちとぉ、ほんのちょーっとだけ攻略進めたことがあってぇー……」


***



「――信じられない! 本当信じられない! 何も言わず、先に攻略することってあります!?」


 ノインから説明を受けたユキは心底の怒りをぶつけていた。


「なんですか、先に攻略進めてたって! そりゃ、深層は何が起こるかわからないのは知ってますが……リーダーである私を置き去りにして、Rui子ちゃんやリナさんたちと勝手に攻略とか! 許せないんですけど!」

「いや、第38階深層でちゃんとリタイアしたよ」

「そういう問題じゃありません! ねえ、ユミリンさん、どう思います!?」

「へっ!? いや、そのー……なんというかー……」

「ほらぁ! ユミリンさんも絶句してるじゃないですかぁ!」


 ――いや、私もカンニングしてる方なんだよな。君たちを裏切るために。


 なんてとても言えないユミリンは、曖昧に笑って誤魔化すことにした。


「まったくもう、まったくもう! どうして先にそういうことを伝えてくれなかったんですか!?」

「ほら、先輩はネタバレ嫌いじゃん」

「確かに嫌いですけど! そうじゃなくて……う、うぅーっ!」


 ユキが一番許せないのは、勝手に入ったことではなく……自分と一緒に行ってくれなかったからである。


 ノインと一番付き合いが長いのは自分。よって、一番のパートナーが自分だというプライドがある為に、黙って他のプレイヤーと先攻略したのが許せないのだ。


「すまない先輩。今度からはちゃんと報告するよ」

「……れてってください」

「ん?」

「今度からはっ! そういう事前調査の時は、私も連れてってくださいって言ったんですっ!」

「いやでも……」

「いいんですっ! ネタバレは嫌ですけど……ノインさんに置いてかれるのは、もっと嫌なんです……」

「……そっか」


 だんだんと声が小さくなるユキに、ノインは彼女の目線と対等になるよう屈み頭を撫でる。


「それはすまなかった。今度は一緒に行こうか」

「……っ! べ、別に、寂しかったわけじゃないんですけど! ノインさんは私がいないとダメなんですから! あくまでリーダーとして、ですからねっ!」

「あぁ、そうだな」


 ――それで誤魔化せてるつもりなのだろうか?


 そっぽを向きながらも、尻尾は嬉しそうにパタパタと揺れているユキを見てユミリンは心の中でツッコミを入れる。


「さて……全員のレベル上げも済んだことだし、そろそろ中ボスに挑むか」


【ユキ Lv.24】

【マイ Lv.22】

【ユミリン Lv.21.5】


 三人の頭上に表記されているレベルを確認し、ノインはうんうんと頷く。


「やっぱり全員PSが高いな。連携もしっかり取れてるし、一人一人の動きもいい。俺たちなら、この後も問題なくクリアできそうだ」

「「「…………」」」


 満足げに語るノインだが……対する三人の反応は微妙である。


 何故ならば。




【ノイン Lv.2】


 ――彼のレベルだけ、異様に低すぎるのだ。


 では、どうして彼のレベルだけ低いのかというと。


「……おっと」


 先陣を切るノインの行く手を阻むのは、五体の影。


【リザードマン Lv.18】


 盾と剣を持つリザードマンがノインに向かって威嚇をしていた。


 だが……ノインは構わず前へと歩いていく。

 ノインとリザードマンが一定の距離まで近づいた時――リザードマンたちが一斉にノインへ襲いかかった。


 ……が。


「ほっ」


 まずは一体目。振り下ろしてきた剣を軽々受け止めると、回し蹴りを放つ。


 続いて二体目。側面から攻めてこようとしたところをしっかりジャスガし、思いっきり武器を弾いたところで隙だらけの身体に肘打ちで吹っ飛ばす。


「おっと」


 同時に襲ってきた三体目と四体目も、一寸のズレなくジャスガ。ナイフを振るい、斬撃を与えていく。


「――先輩!」

「は、はい!?」


 そして五体目の身体をひょいっと掴み上げると……そのままユキに向かって振りかぶった。


「――っ! 【バーサーク】!」


 瞬時に戦闘モードへなり……飛んでくるリザードマンに向けてスキルを放つ。


「【鎌鼬】!」

『582』


 ユキの居合により、リザードマンへダメージが斬り刻まれる。


「【タウント】!」


 ノインはヘイトスキルを発動。Lv.2でありながら、他の四体を引き受けるつもりなのだ。


 レベル差がある複数の敵に使用するなど、自分から死にに行っているかのよう。


 しかし、彼は違う。


「はっ。マイ、こっちだ」

「ヤー!」

「っとぉ。ユミリンさん、三体撃ち抜けるか?」

「了解、だったりー!」

「よいしょぉっ! 先輩!」

「はい!」


 全て受け止め、全て味方の戦いやすいように流れをもっていく。


 最初から戦いの流れはノインが掴んでおり……いつの間にか戦闘が終わってるのだ。


「……ふぅ」


 ユキが最後の一体を倒しきるのを確認し、ノインは軽く伸びをする。


「もうここでのレベル上げは時間かかるだろうな。ちゃちゃっと中ボスを倒して、第37階深層に向かおうか」


 そう――三人がここまで効率よくレベル上げできたのも、ノインのおかげである。


 タウントでヘイトを稼ぎモンスターを寄せつつ、全て戦いやすいように捌いていく。

 そして自分はトドメを刺さない。ノインが経験値を得ない代わりに、三人に回されているのだ。


「三人が強いからだよ」


 なんて彼は笑いながら言うが、絶対そんなわけない。


 中でも衝撃を受けているのはユミリンだった。


 ――こいつ、ここまで強いとは。


「ノインくんはレベル上げしないの? 今は大丈夫でも、階層ごとにヤバくなったりー?」

「ん? あぁ、大丈夫だ。俺はLv.2さえあれば十分だから」


 ――Lv.2さえあれば十分? ……そうか、もしかして縛りプレイでずっと第一階層にいたとかか。なるほど、Lv.2という縛りでずっと修行してきたのなら、この強さにも納得できる……だが!


 ユミリンは口角が上がりそうなのを我慢しながら、ノインが頑なにレベルを上げないことにむしろ歓迎していた。


 ――結局はここまでレベルを上げている。ってことは、何処かのタイミングでレベルを上げざるを得なかったんだ。これはチャンス……! こいつが油断していれば、自ずと葬れるチャンスがやってくる……!


 だが、彼女は知らない。ノインはLv.2でLv.100の敵を倒しているということを。


 ――多分、二人に本当のことを話しても信じないんだろうなぁ。


 全てを知っているユキは苦い表情を浮かべながら、ただ黙っていることしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る