第66話 vsユウジン
「――ほらほらぁっ! しっかり狙わないと、当たらねえぜ!?」
最終フェーズ開始まで残り1分。
【ノイン
HP 18/998
MP 156/156】
ノインの体力は徐々に減っていく一方だった。
「まさかこんな手を使ってくると思わなかったか!? 残念だったなあ、これが仕様ってやつだ! 対策してないお前が悪いんだよっ!」
ユウジンが手を叩いてペラペラと語り出す。
「……【アクセル】」
挑発に乗ることなく、あくまでも冷静にノインはスキルを発動する。
「おおっと! 【オーバーソニック】!」
凄まじい速度でユウジンに迫るが……目で追えない速度じゃない。
対するユウジンも加速スキルを発動し、短剣を振るう軌道から避けていく。
今までの戦闘ならば、ノインの圧倒的なスピードにユウジンはついてこれなかった。だが、どうだろう。今や彼のスピードを上回っているのだ。
その理由は、ただ一つ。
「そりゃ、全力を出せねえよなぁ……毒状態じゃ、すぐ死んじまうもんなぁ!?」
――異常状態。
PS関係なくプレイヤーの動きに制限を与える状態。
そして、ユウジンがノインに付与させた状態は――毒。
一定時間で決まったダメージを与えていく状態である。
いわば――ジャスガを極めたノインにとっての弱点!
さらに――彼に勝つための戦略は、これだけじゃない。
「おらぁっ!」
ユウジン以外のプレイヤーがノインに向かって剣を振りかざす。
ノインは剣撃を防ぎきると、相手にカウンターを食らわせた。
「【アイシクルショット】!」
と、その直後襲いかかる氷の弾。
ユウジンに再度攻撃する暇だなんて与えぬかのように、他のプレイヤーから次々と攻撃が迫り来る。
もう一つの策――それは王者というヘイト。
この2日間で猛威を振るったノルズ。特にノインの場合、どんな相手だろうが全てジャスガしきってきたのだ。まさに最強と言わざるを得ないだろう。
だが……その最強が仇となっている。
これが最後のスタンピード。最後の戦い。最終フェーズまで残り1分を切っている状態。
この状況下で――あのノインを倒したら、誰でもヒーローになれるのだ。
もう得点差など関係ない。1対1じゃなくても構わない。一致団結してみんなと手を組み、最強プレイヤーを打破する……その時が来るとすれば、達成感は凄まじいものだろう。
だからこそ、狙っているのだ。
ユウジンが煙筒を使ってわざとプレイヤーを呼び寄せたのも、それを読みきってのこと。障害物が増えれば――ノインに勝てる可能性も増してくる!
「【チャージ】!」
ようやく対等な勝負に持ち込めたユウジンは彼本来の戦い方に戻ってきていた。
――これで4つ、だな。
そもそもユウジンは攻撃と速度で攻めこむ速攻型じゃない。
むしろ、その逆……パワーを溜め込み、一気に相手を吹き飛ばす、超パワー型!
「【リリース】! 【ラッシュ】!」
ユウジンはスキルを解放させた。
【チャージ】によって溜め込んだパワーを解き放ち、一気にノインへ肉薄していく。
重い衝撃がノインの盾に走った。
「は、はははっ! どうした、この前までの余裕は!? カウンターしてこないのか!? えぇっ!?」
ひたすらジャスガするのみ。もはや打つ手がなくなっているノインの姿に、ユウジンはたまらなく愉快である。
「そりゃそうだよなぁ、もう防ぐだけで精一杯だよなぁ! だって――勝手にダメージが蓄積されていくんだからよぉ!」
「――っ!」
ドンッ! と。
不意にノインが自身の胸を叩いた。
【ノイン
HP 14/998
MP 156/156】
「無駄無駄! どう抗おうが、お前はその状態を抑えられない! もう、負けは決定なんだよ!」
一通り攻撃を終わらせると、後ろへ下がる。下手に追撃するより、逃げる方が生存率をあげるからである。
無理に攻撃しなくても――彼のダメージは蓄積されているのだから。
「はぁっ――!」
「うらぁっ!」
そして、ノインへの攻撃は止まない。
およそ数十人のプレイヤーが、彼の首に狙いを定めている。
ノインもユウジンを深追いすることなく、迫り来る連続の攻撃を冷静に対処していく。
だが――その冷静さは、いつまで保つだろうか。
【ノイン
HP 10/998
MP 156/156】
「――!」
死のカウントダウンがまた一つ。
とうとうノインのHPは二桁を切りそうだった。
――勝てる!
「【セーフティー】、【チャージ】!」
ユウジンが一つ、パワーを溜める。
毒は10秒毎に一度4ダメージを与えていく。
つまり――ノイン陥落まで、あと30秒を切ったことを意味するのだ。
――あと30秒!
それだけ逃げ切れば……ノインに勝てる!
見えてきた勝利に心を震わせながらも、あくまで冷静に力を溜め態勢を整える。
「――【バーサーク2ndモード】」
「っ!」
と。
もう後がないとわかったのか……ノインも仕掛けてきた。
『48』『39』
「なっ!?」
「うぐっ……!?」
格段にスピードが上がり、ノインの近くにいたプレイヤーたちがダメージを与えられていく。
剣を振り払い、拳を防ぎ。加速したノインは短剣を確実に相手へ振るう。
一通りダメージを与えると……今度は遠距離攻撃を仕掛けてきていたプレイヤーたちへ肉薄していった。
『52』『50』『49』
「う、うげぇっ!?」
――外野を潰しにかかってきたか。
そう……彼は攻撃対象をユウジン以外へとシフトチェンジしたのだ。
確かにさっきまで邪魔していたプレイヤーたちさえいなくなれば、ユウジンに集中して攻撃できる。正しい判断といえよう。
『53』『56』
「ぐがっ!」
「きゃぁっ!?」
赤い軌道を描きながら次々とプレイヤーを落としていく。
「い、一斉攻撃だ!」
「【ツインカット】!」
「【ボルトクラッシュ】!」
「【連弾】!」
それぞれがノインにスキルを放つが――彼にとって、対処できないことではない。
迫り来る攻撃を全て防ぎきると、着実に一人ずつ沈めていく。
「だ、誰か! 誰か助け――ぐぁあっ!」
「やめっ! いやぁぁぁああっ!」
「こ、のっ……うがぁぁぁああっ!」
例え子供だろうが女だろうが……容赦なし。
彼にとって同じ戦場にいるということは同じ戦士であることを意味し、どんな相手だろうが手を抜かない。
それが相手に対する礼儀だと――彼は教えてもらってきたからだ。
次々と消えていくプレイヤーたち。先程までリンチに近い形だった戦場が、ノインとユウジンの二人っきりになるまで、そう時間はかからなかった。
「……ふぅー」
魔法使いを倒し、ノインがゆっくり息を吐く。
【ノイン
HP 6/998
MP 156/156】
残り20秒。
「……やるなぁ。他のプレイヤー全員を倒すなんてよぉ」
対してユウジンは拍手を送るなどという余裕を見せつける。
「でもよぉ、マケル。なんか忘れてねぇか? お前が負ける時間内に――もう一つ、イベントがあることをよっ!」
そう……まだユウジンには手がある。
二人になったわけじゃないのだ。
そして――
『最終フェーズを開始します』
「――っ!」
ユウジンの最後の奥の手が発動した。
視界に表示されるアナウンス、現れる光の粒子。
そして――生まれてくるゴブリンとハイゴブリンの群れ。
「はっ! はははっ! 次のお前の相手は――そいつらだよぉっ!」
「「「ギギィーッ!!」」」
ユウジンの叫びに呼応するかのように、ゴブリンたちは叫び声をあげ――ノインに襲いかかった。
「ふっ――!」
襲いかかる攻撃にノインも動く。
「【チャージ】!」
そしてその間にユウジンもまた一つ溜める。
まさに混沌と化した戦場。大量のエネミーが二人の勝負なんて知ったこっちゃないとばかりに暴れ出す。
更に。
「おいおいおい……マジかよ」
ゴブリンの群れの中に出現した巨影に……思わずユウジンはニヤリと笑みを浮かべた。
ゴブリンより一回りも二回りも大きな存在――キングゴブリン。
ゴブリンの中の王が、彼らの前に顕現したのだ。
つまり――この勝負の勝者こそが、キングゴブリンを討てる!
ノインのスピードがまた一つ、上がる。
まるで全てのゴブリンを葬るかのように、縦横無尽に戦場を駆け巡っていく。
「【ソニッククロー】!」
対するユウジンの狙いは……ノイン一択。
それもそうだろう。いわばゴブリンたちはユウジンの味方。数が多ければ多いほど、勝率が上がるのだ。
だからこそ……徹底的にノインの邪魔をすることに徹していた。
「――っ!」
迫り来る拳、こん棒、刃、そしてユウジンからの遠距離攻撃。
何重もの攻撃がノインに牙を剥く。
「――【プレス】!」
「「「ギィッ!?」」」
『238』『242』『246』『250』『245』
スキルを発動し、ゴブリンたちを押し潰す。
一匹、また一匹とノインの手によってゴブリンたちが葬られていく。
……だが、そんな悠長に時間を過ごしていられないのも事実。
【ノイン
HP 2/998
MP 156/156】
「っ!!」
とうとうノインのHPは、4以下を切ったのだ。
――あと10秒!
「――【バーサーク3rdモード】!」
その瞬間――ノインは勝負に出た。
【ノイン
HP 1/1
MP 0/0】
自らの体力を削り――鬼神の如く襲いかかる。
「う――おぉっ!?」
そして、その影響は当然ユウジンにも及んだ。
『52』『54』『53』『50』『55』『56』『60』『51』『50』『55』
【ユウジン
HP 1832/2982
MP 528/568】
凄まじい速度で攻撃され、ゴリゴリとHPが削られていく。
「――【アクセル】!」
更にノインは加速する。
全身全霊、目にも止まらぬスピードでユウジンに襲いかかる。
――だが、もう遅い!
「【チャージ】! 【リリース】!」
ユウジンにとって、こうしてくることは想定済み。
ユウジンは3つのパワーを解き放ち。
「――【オーバーソニック】!!」
「――っ!」
全身全霊で――逃げ出したのだ!
「ははははははっ! 残念だったなぁノイン! まともに戦うとでも思ったのか!?」
あと5秒。
「こうして逃げてるだけで俺の勝ちなんだよぉ! お前はもう負けなんだ!」
4秒。
凄まじい勢いで肉薄するノインから、ひたすら逃げる、逃げる、逃げる。
「ほらっ、どうだ負ける気分は!? ……あぁいや、お前はずっと負けてきたもんな!?」
3秒。
「もうどんな手を打とうが、意味ねえんだ! 俺には、勝てない!」
2秒。
ノインは赤い軌道を描きながらユウジンに迫るが――それでも届かない!
「なんか遺言でもあるか!? 俺がお前の仲間に伝えてやるよっ!」
もう勝利は目前。
そして――1秒!
「――っ!」
ノインのアクセルの効果時間が切れた。
「くはははははははっ! 詰んだな!」
――勝った!
勝った、勝った、もう勝った!
ユウジンは更に距離を突き放す。
ノインがそれでも駆けてくるが……もう逃げない。
何故なら――もう、勝利はユウジンの手にあるのだから。
「骨の髄まで身に染みろ! お前は――一生、マケルのままなんだよっ!!」
ノインの刃が迫る。
だが――その前に。
――0秒。
毒のダメージが発動した。
絶対不可避の4ダメージ。
そして――ノインのHPは残り1。
今ここに、勝敗が決したのだ。
【ノイン
HP 1/1
MP 0/0】
「…………………………は??」
――かのように思われた。
『59』
「――ぐぁあっ!?」
ノインの刃がユウジンを切り裂いた。
「――おいおい、油断するなよ」
「はっ? なっ、えっ、はぁあっ?」
と。
地面に転がるユウジンを見下ろしながら、ノインは不敵に笑う。
「勝負は――これからだろ?」
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