第63話 ラン・トゥ・ヴィクトリー
始めに動いたのはRui子からだった。
「【ドライブ】!」
「むっ……!」
一気に加速させ、リーズへと迫っていく。
「【レイアップ】!」
繰り出されるアッパー。半歩下がって避けるものの、Rui子の攻撃は止まらない。
左ジャブ、左ジャブ。からの右フック。左足でローキックをし、怯んだ隙をついて右ストレート。
「ぐっ……!」
得意の接近戦とはいえこうも近付かれるとやりにくく、リーズは苦しげに呻く。
――なら!
「【シャドウダイブ】!」
リーズは影の中へと潜り込む。
――来た!
影に逃げ込むと同時に、Rui子は龍矢の方へ駆け出す。
「スクリーン!」
「……スイッチ!」
Rui子の掛け声を聴き、見向きもせず返答する龍矢。
この一瞬の出来事で――二人は相手を切り替えた。
「【ファーストブレイク】!」
「【
「なっ……!?」
背後から龍矢を襲おうとしたが、既にスキル発動モーションに移っている。
『36』『37』『35』
これにはリーズも予想外であり、龍矢の攻撃をまともに受けてしまった。
スクリーン。バスケにおけるオフェンスの技。
ボールを持ってないオフェンスの一人が別のオフェンスをついているディフェンスの側に立つこと。これにより2対1の状況を作り、もう一人のオフェンスは側についた味方の方へ進行方向を進める。当然、ディフェンスもそれについていこうとするが……その進行方向は別のオフェンスによって防がれている為、相手を追うことができなくなってしまうコンビネーション技である。
ディフェンス側がこれに対抗する手段は一つ。掛け声だ。
「スクリーン!」
「スイッチ!」
このように、一方がスクリーンに来ていることを知らせ、もう一方が対応を返事する。
スイッチとはお互いのマークマンをチェンジすること。Rui子は再びリーズに向かって拳を構えた。
「【ダンク】!」
「ぐっ……またっ……!」
出てきたと思いきや、その時には既に攻撃を切り替えられていて、思うように不意打ちができない。
「……【リープ】」
真後ろを振り向いたRui子の隙をつくように、クロサが鎌を薙ごうとする……が。
「【
「っ!」
龍矢から貫通矢が放たれ、防御へ回る。
「はははっ! 何処を見ている!? お前の相手は俺だ!」
「ちっ……児玉」
例のスキルによりテンションが上がってくる龍矢。クロサは軽く舌打ちをすると、影トカゲへ合図を送った。
影トカゲが向かう先は龍矢……ではなく、Rui子。
「スクリーン!」
――そう、あなたは仲間に知らせる。でも、それは私じゃなくて児玉に対して。切り替えたとしても……あなたの相手は私よ。
「【ガン】」
影の弾を龍矢に撃ち放つ。
「【ガン】――【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】【ガン】」
撃つ。撃つ。撃って撃って撃って、撃ちまくる。
本来、
その為、クールタイムは驚異の約0秒。MPを使いきるまで、撃ち続けることが可能なのだ。
クロサの連擊に龍矢の足も止まる。これでRui子はスイッチすることができない。
――さあ、連携は崩したわ。
Rui子は迫り来る影トカゲを一瞬だけ見ると……口を開く。
「――スライド!」
「っ!?」
Rui子はそう叫ぶと、少し後ろへ下がって、影トカゲの突進を躱した。
スクリーンの対処法でマークマンを切り替えるのは最終手段に過ぎない。前後に動いてスクリーンを避け、マークマンを変更しないのが基本なのだ。
予想だにしなかった彼女の行動に、クロサの目が見開く。
「【
「っぐぅ!?」
『32』『34』『33』
その隙を突かれ攻撃を食らってしまう。
「おいおい、余所見はするなって言ったはずだぜ?」
「……ふぅうー……」
龍矢の挑発的な態度に、クロサは長い息を吐く。
あくまで自身を落ち着かせるため。冷静に物事を対処しなければ、勝てるチャンスも逃してしまう。
「………………やってくれるじゃない」
ただし、一度点いた対抗心は消えなかった。
「【サーベル】」
剣形態へ変化させ、龍矢を睨みつける。
「今からギッタンギッタンにしてあげるわ」
「俺は――最初からそのつもりだったぜ!」
龍矢とクロサが争う一方、Rui子とリーズも激戦を繰り広げていた。
「【シャドウクロー】!」
「【スピンムーブ】!」
リーズの刃をRui子は体を捻らせて回避。後ろに回り込み、拳を叩きこむ。
『22』
しかし、相手はリーズだけじゃない。足下からRui子に向かって突進してくる影が一つ。
「っとぉ!」
飛びかかってくる影トカゲに腕を前にしてガードの体勢へ。
「――【シャドウワープ】!」
リーズの姿が見えなくなったその一瞬を逃さなかった。
即座に影の中へと溶け込み、Rui子の背後をとる。
『10』
『32』
「っつぅ! 【フェイドアウェイ】!」
影トカゲの攻撃は抑えられたものの、リーズの不意打ちからは逃れられず。
大きく後ろへ下がり、挟み撃ちから逃れる。
――おかしい。
見事Rui子にダメージを与えたリーズだが、表記された数字に満足してなかった。
Lv.80台からの不意打ち。もっとダメージが出ていいはずなのだ。
なのに、思った以上のダメージは出てない。その理由は……。
――あいつ、俺が攻撃する前に身を躱していた……?
そう。リーズが大剣を振りかざした時、既にRui子はリーズからの攻撃を予測していたかのように動いていたのだ。
――まさか。
「……次は上手くやる!」
Rui子は意を決し、再びリーズへと肉薄する。
「【シャドウスラッシュ】!」
懐へ飛び込まれる前に剣を振るう。
「【スティール】!」
Rui子は迫り来る剣に対し、拳を叩きつけて応戦する。
『26』
反動でダメージをもらうが……道は開けた。
「【ドライブ】!」
姿勢を低くし、一気に加速。超接近戦に持ち込む。
そこからはひと息なんて出来ない攻防の連続。
Rui子は拳を、リーズは剣を振るわせ、お互いの隙をつき合うような戦いを繰り広げていく。
五分五分のように見えるが……焦っているのはリーズの方だった。
「ぐっ……!」
思ったような動きが出来ず、リーズは悔しげに呻く。
Rui子には心眼がある為、【ナイトモード】は通じない。
ならば【シャドウワープ】を駆使して、不意打ちを食らわせれば良いのだが……。
「【シャドウクロー】!」
「【スピンムーブ】!」
縦薙ぎを回転して避け、リーズの後ろに回り込む。
「【ドライブ】!」
かと思いきや、続けて加速。更に半周し、再び同じ位置に戻ってくる。
「く、くそっ――!」
なんとかRui子の動きを止める方法はないのか――なんて思考を巡らせていた矢先、ふとRui子の背後へ回り込んでいた影トカゲに目がいく。
――これは、いける!
「【シャドウ――」
すぐさまスキルを使おうとした……その時。
「っでぇぇぇぃやぁぁぁああっ!!」
「――っ!」
影トカゲの存在に気がついたRui子が、思いっきり腹を蹴りあげた。
足技を得意としてない彼女だが……今の一撃は綺麗に決まり、影トカゲを宙に浮き上がらせる。
【シャドウワープ】を発動しようとしたリーズの動きが止まった。
「【レイアップ】!」
「がっ!?」
『45』
その隙をRui子は逃がさない。
渾身のアッパーでリーズにダメージを与えていく。
「ぐっ、うっ……!」
攻撃をモロに受けたリーズはRui子から距離をとった。
【Rui子
HP 351/862
MP 0/0】
【リーズ・サルト
HP 2152/3451
MP 521/692】
レベルもHPも差は歴然のはず。なのに、状況はリーズの不利。
それもこれも――
「【シャドウワープ】には、弱点がある」
「――っ!」
Rui子の言葉に、リーズが体を震わせる。
「相手の影へと回り込む――逆に言えば、常に自分の影を見るポジションに立っていれば不意打ちは不可能ってわけなんだ」
Rui子は月を背にして戦っていた。
月の光に照らされた彼女の影は常にリーズ側へあった為、背後をとることが不可能だったのだ。
「じゃあ、相性のいいシャドウスケルトンにワープすればいいんじゃないか? ……それにも弱点があるんだね」
そう、既にRui子は完全に見切っていたのだ。
リーズの弱点を。
「地面に接してる影限定……つまり空中にいれば、トカゲへワープできない!」
クロサの元へワープする時もそうだつた。
影の鎌から飛び出してくるのは、決まって縦振りして鎌が地面に突き刺さっている時のみ。横振りの時はクロサか相手の影からしか現れない。
ましてや、クロサの影の弾には絶対ワープしなかった。ほぼ確実に相手の背後をとれる方法なのに。
それは――しなかったのではなく、できなかったから。
「もう、ボクに不意打ちは通用しないよ!」
――ヤバい!
圧されている。
まだHPには余裕があるものの、このまま行けばやられるだろう。
――あ、あっちは……!
Rui子の猛攻を避けながら、向かい側に目を向ける。
「はははっ! 踊れ踊れ、もっと踊れ!」
「うっさい! さっさとくたばって!」
そこには狂ったように笑う龍矢と目尻を吊り上げるクロサが激しい攻防を繰り広げていた。
――くそっ。クロサのやつ、何故かわからんがヤケになってやがる。これじゃ、ワープできない!
自由に戦ってもいいが、基本的に鎌を使うこと――これがリーズとクロサで事前に決めていた連携条件である。
だが……龍矢の挑発に乗ってしまっているクロサは銃かや剣、さらに鎌、また剣に戻して――と、条件を忘れて攻撃を仕掛けているのだ。
――が、それはあいつも一緒のようだな。
「【
狂ったように猛攻を繰り出す龍矢。その動きはまさにバーサーカー状態となっており、目に見えるもの全てに攻撃しているようなものだ。
――なら! そこを突く!
もう勝機はこれしかない。
リーズは意を決し――ワープを使わず、そのまま二人の元へと駆け出した。
「っ! スクリーン!」
リーズの動きに、Rui子が素早く呼び掛ける。
――無駄だ!
龍矢は完全な暴走状態。あんな状況で、連携ができるはずない。
――はずだった。
「【
龍矢は迫ってきたリーズ目掛けて、スキルを放つ。
「オーケー! 【ファーストブレイク】!」
その瞬間、Rui子はクロサへと突っ込んでいく。
「なっ……!?」
――奴は合図してない、ただ攻撃していただけ。だというのに……!
だというのに……スイッチしているではないか。
龍矢の暴走状態。その解決策として、合図の代わりにスキルを放つと、Rui子たちは最初から作戦を練っていたのだ。
『2』『3』『3』『3』『2』『4』『2』『2』『2』『3』『4』『2』
「ぐっ……! こんな、小賢しい!」
「どうしたぁ? 随分と焦ってるなぁ、おい!」
龍矢は次なる相手のリーズへ弓を構える。
――待て。これは……チャンスだ!
「【ナイトモード】!」
瞬時に黒い煙をその場へ出現させた。
――Rui子の時は使えなかったが……こいつには有効な手段! ロックオンできまい!
一度態勢を整え、リーズは大剣を構え直す。
――さて。奴に奇襲をかける!
……だが。
「それが――どうしたぁっ!!」
「なっ!?」
リーズは目を見開く。
本来、
そのはずなのに……龍矢はリーズの目の前まで迫ってきているではないか。
「ここまで近付けば、煙幕なんて関係ねぇよなぁ!? 【
「ぐぁっ!?」
『45』『48』『44』
至近距離で放たれるスキル。
「く、狂ってるのか貴様!」
「ははははははっ! そりゃあ、バーサーカーだからな!」
まだまだ龍矢の攻撃は終わらない。狂戦士と化した攻めが続く。
「【ドライブ】!」
そして、それはRui子も同じだった。
『5』
「無駄無駄。あなたの攻撃なんて、痛くない」
「【レイアップ】!」
『19』
「そんな攻撃じゃ、私には敵わない――」
「だぁあっ!」
『6』『4』
「――あぁもう! しつこい!」
ダメージは全く通らないというのに、絶えず攻撃を繰り出してくるRui子。クロサはイラついたように剣を振るう。
「――剣の腕は、流石にあっちの方が上だね!」
「っ!」
振りかざされる影の剣を躱し、再び拳を叩き込む。
――このまま圧しきられるってことはないだろうけど……負けっぱなしは性に合わない!
「……児玉、成田。いくよ――【ビルド】」
クロサの杖が紫色に輝き出す。
その光に導かれるように、影トカゲと影コウモリは合体した。
「っ!」
影トカゲに翼が生え、体が何十倍にも大きくなっていく。
「――ヴォォォオオオオオッ!」
そして現れたのは……ノルズの前に現れた、あの巨大なドラゴン。
「圧される前に――圧し潰してあげる」
クロサは影ドラゴンに飛び乗ると、空高く飛び上がった。
「……なるほど、パワーに任せたセンタープレイってことか。嫌いじゃないよ、そういうの」
空中戦に変更。それはつまり、連携プレイを捨て、完全な個人プレイに走ることを意味する。
それは自分勝手なプレイとも見えるが……裏を返すと、自分一人でも勝つ自信があるということでもあるのだ。
Rui子はニヤリと笑うと、武器をロストバスターに変更。
「【バーサーク・後半戦】!」
そして更にギアをあげた。
「――【ガン】!」
「ヴォォォオオオッ!」
影ドラゴンは天高く咆哮すると……大きく口を開く。
瞬間、巨大な影の炎球がRui子を襲う。
「【ドライブ】!」
風魔法を噴射し、地面を蹴りあげる。空中に浮き、影ドラゴンの腹へ糸を射出すると、影の炎をギリギリのラインで避けていく。
「【リープ】!」
「うわ、わっ!?」
巻き起こる暴風。
いくら糸で固定しているとはいえ、空中に浮いていたRui子はバランスを崩してしまう。
――今!
「【サーベル】!」
「――ヴォォォォォオオオオオッ!!」
続けてスキルを発動させるクロサ。影ドラゴンは咆哮し、そのままRui子へと突っ込んでいく。
「くっ……!」
Rui子が呻き声をあげるも――次の瞬間には。
「――!!」
Rui子を巻き込みながら、影ドラゴンは地面へと突撃していった。
――仕留めた……確実に仕留めた。
クロサはしっかりと見ていた。Rui子の小さな体が影ドラゴンの頭に衝突した、その瞬間を。
あの状況から回避することは不可能。完全にクロサの勝利である。
……しかし、気掛かりなことが一つ。
――なら……なんでダメージが表記されなかった?
そう、彼女が攻撃を食らっている瞬間を確かに見たはず。バーサークモードで防御力が下がっているあの状況で、生き残ることなど不可能のはずなのだ。
しかし……ダメージ表記も出ず、光の粒子も見えない。
――どうして?
「……【フェイク】」
「っ!!」
背後から声が聞こえた。
「【レイアップ】!!」
「ぐっ……!?」
いつの間にか背後に回り込んでいたRui子がアッパーを放つ。
慌てて後ろを振り向くも……既に彼女の右手はクロサの胴体へ突き上げられていた。
手に持っているのはロストバスター。
もし――風魔法を放ちながらアッパーをしたら?
「――あぅっ!?」
風魔法によってクロサの身体だけが空中へ浮き上がる。
「龍矢くん! スリーポイント!」
「――!」
空中へ飛ばされながらもRui子の掛け声が聞こえ、クロサは目を見開く。
「さあ、世界の蒼茫さに震えろ。【バーサーク】――
龍矢が身体に赤い稲妻を纏う。
狙いは――宙へ舞っているクロサ。
「【ブラスト】!」
「くっ……成田、児玉!」
「ヴォォオオオッ!」
指示を出された影ドラゴンは飛び上がるが……もう遅い。
「――【
放たれる光線。
「……あーあ」
身を屈ませ防御の姿勢を取りながらも……無駄だということはクロサ本人がわかっていた。
「負けちゃった――」
『526』
【クロサ
HP 0/1452
MP 623/1825】
『You Are Dead』
「まだだ――【シャドウクロー】!」
味方が光の粒子となって消えていく姿を見ながらも……リーズは諦めていない。
完全に隙だらけとなった龍矢の背中に向かって、影の爪を振りかざす。
「う――ぉぉぉおおおおおっ!!」
「ぐ、ぅっ!?」
……が、龍矢もやられっぱなしではない。
光線を放出しながら、リーズの方へ振り返る。
『369』『352』『350』『342』…
攻撃態勢になっていたリーズは反撃を防ぐことはできず、モロにダメージを受けてしまう。
「まだ――だぁぁぁ!!」
「――!!」
しかし、それは龍矢も同じ。
光線に真正面から立ち向かいながら――影の爪を華奢な身体へ突き立てた。
「がっ……!」
『82』
【♰濃藍の天を駆ける『龍矢』は世界の蒼茫さを知る♰
HP 0/973
MP 165/252】
『You Are Dead』
――勝った!
クロサの時とは違う、確実な勝利。表記された文字列に心の中でガッツポーズをあげる。
――だが。
「ふ、ふふっ……!」
負けたにも関わらず、光の粒子となっているのにも関わらず……龍矢は笑っていた。
「Rui子! 今だ!」
「……っ!?」
――そういえば、Rui子は何処へ行った!?
先程、クロサと争っていた場所に、彼女の姿は――ない!
リーズは知らない。
クロサが影ドラゴンに指示を出した時……その背中に、彼女が乗っかっていたことを!
「【ブラスト】!」
「なっ――」
声のする方へ向くも――目の前の龍矢によって、視界は塞がれている。
クロサが負けたことにより影ドラゴンは消え……空中から飛び降りてくる小さな身体!
「
「【ダンク】ゥゥゥゥゥッッ!!」
空中から舞ってきたRui子が、龍矢の身体を突き抜けて拳を振り下ろしてくる!
「――っ!」
盾で防御しようにも――もう間に合わない!
「――っらぁぁぁああ!!」
「がはぁあっ!?」
『397』
【リーズ・サルト
HP 0/3451
MP 352/692】
『You Are Dead』
――俺たちは……いや。俺が負けたのか、Rui子に。
地面に叩きつけられ、自身のステータスを見つめながら、リーズは目を閉じる。
「はぁっ……はぁっ……!」
肩で息をしながら、Rui子は振りかざした拳をゆっくり開く。
「……リーズ、さん」
光の粒子と消えていく黒鎧に声をかける。
どうしても、訊きたいことがあったのだ。
「リーズさんなら……部下を連れて、戦ってくるはず、です」
そう、リーズは確実性と安定性を持って戦う。
しかし、実際はクロサとリーズの二人のみという状況。
Rui子からしたら、不可解でしかなかったのだ。
「もしかして……あなたが、望んだんですか? ボクたちと、対等な人数で戦いたい、と?」
そうとしか考えられなかった。
いくらクロサが上だとしても、そういうことは彼は譲らないはず。
だとすれば――むしろ二人のみで戦うことを反対していたのはクロサで、リーズ自らが押し通したのではないのだろうか。
「リーズさん――キャプテン!」
なかなか答えないリーズにRui子は声を荒げる。
「――」
だが……結局、彼が答えることはなかった。
返答する前に、光の粒子と消え去ってしまったのだから。
「…………」
第25階層。
ポツンとたった一人……砂漠に取り残されたRui子はしばらく俯いた後、指定されたポイントへ向かった。
――最終フェーズまで残り3分。
***
「――【クロー】! 【コンボ】! 【ラッシュ】!」
「んっ、よっ、ほっと」
一方――第23階層でも激戦は繰り広げられていた。
「っ……ラァァァッシュ!!」
「ほいほいほいほいほいほい――っと」
ユウジンの渾身の連撃も、ものの見事にジャスガされてしまう。
「ぜぇっ……ぜぇっ……!」
「ふぅ……まだまだいけるだろ?」
息を荒くするユウジンとは対照的にノインは涼しげな表情だ。
これでは今までと同じ。ユウジンは負けてしまう。
「………………いいや? これで終わりさ」
しかし、彼は焦ってなかった。
それどころか、ノインと同じく笑みを浮かべているではないか。
「ん? もういいのか?」
「あぁ、いいんだ――だって、お前の負けが決定したんだからな」
「……?」
ユウジンも闇雲に攻撃しているわけじゃなかった。
しっかりと狙いを持って、ノインと戦っていたのだ。
【ノイン
HP 998/998
MP 156/156】
全てをジャスガするノイン。
そんな彼にも――弱点はある。
「お前は既に触れたのさ……こいつにな」
ユウジンは隠し持っていた空き瓶を見せつけた。
そして――
【ノイン
HP 994/998
MP 156/156】
「……おっ?」
何もしてない、されてないはずなのに――HPが減った。
その様子を見て、ユウジンは嘲笑うかのように言い放った。
「――やっぱり、お前はマケルだ」
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