第60話 次で最後

 流れは再びノルズへと変わっていた。


「思ったんですけどっ」

「ん?」

「ロードの皆さんたちをっ! 裏切った理由って! あったんですかっ――とぉ!?」


 押し寄せるゴブリンの大群の攻撃を避け、刀を振るいながらユキがどうしても気になっていたことを訊く。


「あぁ、もちろんある」


 戦闘中なので息が上がってるユキに対し、ノインは一切上がらずに彼女の疑問に大きく頷いた。


「他のクランの信用の獲得だ。俺らがずっと組んでいれば彼らにチャンスはやってこない。裏切っても、絶対勝てない状況に変わりないのなら、裏切らない方がいいだろ?」

「っ! えっとぉ! すみません! 簡単に言うと!?」

「チャンスのない賭けなんかしないってことだ」

「なるほどっ! 【鎌鼬】!」


 振るわれる棍棒を躱し、居合い抜きを放つ。


「そもそもロードの住民は俺たちを完全に手伝いにきたわけじゃない」

「っ! ロードの皆さんっ、最初から裏切る気、あったんですかっ!?」

「いや、さすがに裏切るつもりはなかっただろうが……思い返してみてくれ。あいつらの参戦理由は、派閥に入るのが定石となったスタンピードを荒らすため。ぽっと出の自分達がランキング入りし、トップ入り候補のクランを蹴落として楽しむのが原動力だ」


 確かに……仲間同士でPvPに明け暮れる連中だ。裏切り上等、荒らし歓迎、他人が苦しむ様が楽しみだと言っても過言ではない。


 現在、派閥が消滅してランキング入りを目指そうとクラン同士で潰しあっている。そして今やフリーとなったロードのプレイヤーたちは、好きなようにプレイヤーたちを妨害できる。


 彼らにとってこれほど愉悦することはないだろう。


「それにしても、鷹隼騎士団の判断は早かったな……あいつらには裏切る話は持ちかけてないっていうのに」

「まー、元キャプテン――リーズさんは頭が回るからねぇ! 参謀役としては優秀なんだよ、っとぉ!」


 Rui子が指摘した通り、いち早く気がついたのはリーズである。彼には自分の実力を過大評価しすぎる欠点はあるものの、相手の策略や流れを読むことは人より長けているのだ。

 当然、彼もいきなり上位へ上がってきたタイガートリガーに不信感を抱いていた。そして6日目の朝から起きている様々な情報を集め、ノインの作戦に気がついたというわけである。


「でも、よく他の鷹派の連中をぉっ! 巻き込めましたね! 何を言ったんですか!?」


 タイガートリガーがバグ技によってランキング入りしていることを知ったとしても、虎派はともかく鷹派には集団で叩けばいいだけの話。同士討ちの対象にはならない。


 ユキの問いに、ノインは「簡単だ」と笑みを浮かべる。


「こう言っただけさ。『鷹派の中に虎派のスパイがいる』って」

「えぇっ!? なんですかそれ! 私、初耳なんですけど!?」

「いや、確証はない。ただ、タイガートリガーの動きを観察してる時、なんか鷹派の動きを妙に読めていた気がしてな。読めているというか……全部わかってた感じ、かな」

「……あー」


 ――それは私も感じた。


 各スタンピードを回って、タイガートリガーのメンバーを探していた時。

 ふと上空をしばらく見ていたかと思うと、急に走り出していた。そして必ずその先には鷹派が空を移動していて、何度も奇襲に成功していたのだ。


「まあ、スパイを送るっていうのは割りとアリな手段だ。やや卑怯に感じるが……これはゲームだしな、仕方ない」


 だが――鷹派としては仕方ないで済む話ではない。

 組んでいるメンバーの中で虎派のスパイがいる限り、永遠と不利になるわけなのだから。


「で、鷹派のクランにもこう言ったのさ。『今、派閥を抜け出した方がランキング入りを狙いやすい』って」


 よって、鷹派のクランにも内乱が起き始めた、というわけである。


「……ノイン、あそこだ」

「ん。了解」


 龍矢の指差す方向にはゴブリンたちが逃げ込んでいる。最終フェーズのキングゴブリンの出現場所だ。


 そして、その出現場所には既に待ち構えている複数のクランが争いあっている。


「よーし! みんな、武器をバスターに切り替えて! 攻めるよ!」


 Rui子の指示に三人は共通のバスターに持ち替える。


 ノインたちのチームプレイは大きく分けて2パターン。『オフェンス』と『ディフェンス』だ。


 オフェンスは全員が共通のバスターを持っている時である。


「【アクセル】!」


 まず切り込んだのはノインだ。速度を上げ、争いの中心へ突っ込んでいく。


「なっ――!」

「き、来た! 『ノルズ』だ!」

「潰せ! 他はともかく、奴らにだけはここを譲るな!」


 ノインの出現により周囲がざわつき、それぞれが武器を構える。


「ノインくん、ポストアップ!」

「オーケー!」


 ウイングブレードとして、刃を持っているのはRui子だ。真っ正面から走ってくと、真ん中にポジションを取ったノインにブレードを投げつける。


「おらっ!」

「ぐっ――!?」

「離れろ離れろ! 遠距離攻撃で集中砲火だ!」


 真ん中で振り回される大剣。集まっていたプレイヤーたちが斬り刻まれ、慌てて離れていく。


 本当は距離を詰めるところだが……その必要はない。


「――ノイン!」


 いつの間にか背後へ回っていた龍矢が声をあげる。

 ノインはウイングを龍矢へパス。


「刃よ、畳み掛けろ! 【その一矢は地を穿つドラゴンテイル】!」


 大きく横薙ぎされる大剣。糸を射出し、広い攻撃範囲で敵を掃討していく。


「なっ!?」

「や、やべ――ぐぁあ!」


 想定範囲外の攻撃に周囲もたじろぐ。


「龍矢、パス」


 このまま暴れ回ってもいいが、これ以上龍矢にヘイトが向くといけない。ノインがたちまちポジションを取って、龍矢からウイングを受け取る。


「こ、今度はこっちか!」

「馬鹿、目を離すな! まずはあの男から潰させねえと、遠距離攻撃されるぞ!」

「いやっ……ちょっと待て! あいつは何処に行った!?」


 ノインに刃が渡ったことに周囲が慌てふためいているうちに、龍矢はノインの横を通り過ぎ、逆側へと離れていた。


「ノインくん!」


 と、正面から降りてきたRui子。すかさず刃を受け取ろうとノインへ駆け出していく。


「や、やばい! あの大剣、攻撃力がかなり高い! 奴らにずっと回されていると、死角から攻撃されるぞ!」

「そのチビッ子にパスを出させるな!」


 大剣の凶悪な攻撃力に、刃を手渡そうとするノインとRui子へ注意が向く。


 ……だが。


「【ドライブ】!」

「なっ――!?」


 受け取る瞬間、Rui子はぐんと速度を上げると……逆サイドへ捌けていく。


「悪いけど……シュートを決めるのはボクじゃないよ!」


 場は整った。

 内側と外側の攻めによってかき乱され、司令塔の役目をするプレイヤーはいない。


 そして――張り巡らされた糸。


「うおっ――!?」

「な、なんだっ!?」


 ノインを軸に張られた二本の透明な糸は龍矢とRui子がクロスすることにより、二人の間にいたプレイヤーたちを真ん中に寄せていく。


 ノインはニッと笑い……刃を上空へ後ろ投げした。


 適当な攻撃? それともすっぽ抜け?



 ……否。


「【ブラスト】!」


 である!



「――【鵺】っ!」


 ノインからの刃を受け取ったユキは鋭い突きを放つ。


「ぐっ――!」

「く、くそっ――!」


 逃げようにも纏めて拘束され、逃げることができず……ユキの一撃が複数プレイヤーを貫いていった。


 モロにダメージを受け、全員が光の粒子と化していく。


「……ふぅ」


 これで、出現場所は占拠できた。


 ――だが、これで終わりじゃない。むしろここからなのだ。


「来るぞ、みんな」

「ディフェンス! 1-1-2ゾーン!」


 ノインの一言とRui子の指示により、全員がメイン武器へ持ち替え――龍矢を中心とした三角形の陣形を組み始めた。


 そしてノインの読み通り、四方八方からプレイヤーたちが攻撃を仕掛けてくる。


「奴らはたった四人だ! 集団で襲えばいける!」

「「「うおおおおおっ!」」」


 誰かの指示に各々が動き出す。

 遠距離から攻撃する者、武器を構えて接近戦に持ち込む者……。


「まずは……ユキさんの方だな」


 それぞれ迫り来る攻撃に三人が対処しつつ、真ん中にいる龍矢が弓を構える。


「【濃藍の涙が降ってくるレインアロー】!」


 放たれた矢の雨は、ユキへ魔法を打とうとしているプレイヤーたちへと降り注いだ。


「真ん中の|Ar(アーチャー)だ! あいつを先に倒せ!」


 三人が抑え込むのに対し、龍矢だけは完全なフリー状態。三方向を見て、何処に攻撃を放つのがベストなのかを判断できる余裕があるのだ。


 そして――龍矢を狙ってくるのも、想定内。その為の三人なのだ。


「行かせないよ!」


 真っ先に龍矢を狙おうとするも、Rui子によって阻まれる。


「こっ、このっ……!」

「【スティール】!」


 振り切ろうとする野良プレイヤーと、それでも尚ついていくRui子。なかなか龍矢へ辿り着けず。


 ――だが、目的は達成できた!


 目的は龍矢の撃破であり、それが自分でなくてもいい。

 そしてRui子を引き寄せた今、先程まで彼女が守っていた箇所は空いているのだ。


「こっち、一人引き寄せた! お前ら、行け!」


 今ならいける――そう思い、見ず知らずのプレイヤーたちに叫ぶ。


 ……が。


「――【鎌鼬】!」

「なっ!?」


 誰もいないはずの場所に……一閃が走る。


 いつの間にかユキが、Rui子の穴を埋めるように移動しているのだ。


「これがゾーンの特徴だよっ!」


 Rui子が得意気に笑う。


「お互いの距離を保つことにより、隙をなくす! まあ、本当はもう一人いればいいんだけど、ねっ!」


 先程のオフェンスと違ったもう一つの連携、『ディフェンス』。守ることを重視した動きである。


「く、くそっ――!」

「はぁっ、はぁっ――!」


 ノルズの面々も息があがっていく。

 陣形を崩さぬよう走り回り、時には龍矢もフォローに回っているのだ。疲れないはずがない。


「な、なんなんだよ、あの動き……!」

「ぜんっぜん、戦闘の動きじゃねぇ……! なのに……!」


 なのに――破れない。

 どれだけ束になろうと、誰一人としてノルズの陣形を破ることができない。


 額に汗を滲ませながら必死に相手に食らいつくその姿は……。


「なんか……あいつらだけ、別のゲームしてるみたい……!」


 そう、例えるのなら――バスケ。

 攻めてくるプレイヤーたちからゴールをひたすら守る動き。


 Rui子から毎朝教わっていた練習は、この為にあったのだ。


「っ! 上!」


 下からがダメなら上から。今度はテイムモンスターに乗りながら上空から攻めてくる。


「――待ってたぜ、それを!」


 しかし、ノインは笑った。


 ロストバスターに切り替え、ガルーダへ糸を繋げる。


「【プレス】!」

「なっ――!?」


 一瞬で使役するプレイヤーの目の前に現れ、柄を使ってスキルを発動する。


 相手には命中したものの決定打にはならず、HPを削り切れてない。


 だが――それでいいのだ。


「――龍矢、来い!」

「あぁ!」


 ノインの合図に、龍矢もガルーダへ飛び乗る。


 使役するプレイヤーが離れたモンスター。

 当然、邪魔する者などいない。


「……視界良好! 全員、まとめて視えるぞ!」


 弓を構える。狙うは――目に見える者全て!


「蒼き波動に滅せよ――【その一矢は地を穿つドラゴンテイル】!」


 青の光線が地上に降りかかっていった。


「う――おぉぉぉぉっ!!」


 スキルを発動し続けたまま、周り全てに撃ち放っていく。


 全てをロックオン、ロックオン、ロックオン。


 立ち向かうプレイヤーも、逃げ惑うプレイヤーも、隠れているプレイヤーも。


 青い光を振りかざしていく。


 やがてスキルの発動時間が終わり、光線が消えた後は……まさに焼け野原。


 元々森が少ない第22階層が、龍矢の光線により更に抉れていた。


「……ふぅ。一旦終わったか」

「いつ見ても無茶苦茶な戦法ですよね、これ」


 降り立った二人を出迎えたのはユキの呆れたような表情。


「そうか?」

「ええ。下手したら巻き込まれるっていうのが、特に」

「下手したらっていうか、ボクたちはほぼ巻き込まれてるようなもんだけどね!」

「まぁ、確かに力ずくの脳筋戦法だが……これが一番手っ取り早いんだ。なんてったって、俺たちを狙ってくるプレイヤーが増えてきてるからな」

「……まあ、確かにそうなんですよね」


 あのまま防戦の一方だったら、いずれボロが出るかもしれない。ユキ自身も守りきれる確証はないので、しぶしぶ頷く。


 ところで、どうしてこうもノルズばかり狙われるのか?


 その原因は――現在のクランランキングにある。


【スタンピード(初級)途中経過ランキング

1位・『ノルズ』30,512pt

2位・『レクロウス』26,154pt

3位・『蝦の爪』26,045pt

4位・『B』25,951pt

5位・『A』25,923pt


 スタンピード6日目終了。終盤へ差し掛かっている現状にして、この圧倒的な差。

 4つの砦を破壊した為、ポイント上昇率はやや減ってしまったが故、頭一つ抜けているノルズがどのクランよりもリードしているのだ。


 そして……派閥というグループがなくなった今、狙われやすくなるのは当然ランキング入りしているクラン。1位となれば、その度合いは更に増してくるのも当然だろう。


 ランキング入りする為に上位のクランを潰そうとするプレイヤーたちもいれば、敢えて彼らとの戦闘を避けて少しずつポイントを稼ぐクランもいる。


 ……まぁ、明らかに私怨で狙ってくるプレイヤーもいるが。


「――【オーバーソニック】!」

「おっと」


 瞬間。一人のプレイヤーがノイン目掛けて飛びかかってきた。


 青い髪を乱しながら、ノインを睨み付ける色黒の男。

 ユウジンである。


「今度こそ……今度こそ、お前に勝つ!!」

「おう、かかってこい」


 必死なユウジンに対して、ノインはどこか楽しげに笑う。


「【クロー】!」

「よっと」

「ぐっ……【ブレイク】! 【コンボ】! 【ソニッククロー】! 【ラッシュ】!」

「ほいほいっと」


 怒涛のスキルラッシュ。

 そんなユウジンの全力も虚しく、全てジャスガされていく。


「くそっ、くそっ! 負けられねえ! ぜっっったい、お前にだけは負けられねぇ!」

「あぁ。もっと戦おうぜ」


 これでユウジンが襲いかかってきたのはもう何度目だろうか。ノインのみに執着し、他のメンバーには一切目もくれず何度も挑んできているのだ。


「戦う!? 違うな、これは制裁だ! 俺をここまで陥れた裁きだ!」


 しかし、単独でノインにばかり攻撃を仕掛けていれば、ポイント効率が下がるのも当然。


【19位・『タイガートリガー』22,925pt】


 結果、タイガートリガーはランキング入りどころか20位以下に落ちそうな危機に迫られていた。


「おらっ」

「ぐぁっ……! 【カウンター】!」

「よいしょっと」

「うぁぁぁっ!」


【ユウジン

HP 743/2982

MP 568/568】


 ユウジンの反撃も意味を為さず、ジリジリとHPが削られていく。


「ん、そろそろ時間か。一気に行くぞ――【バーサーク3rdモード】!」

「こんな、こんな、こんなっ! くそがぁっ!」


 ノインの猛攻に、ユウジンも決死の想いで拳を振るっていく。


「――【プレス】!」

「がっ、ぁっ――!」


【ユウジン

HP 0/2982

MP 568/568】


『You Are Dead』



 が、程なくして地面に押し潰されたユウジンは光の粒子となって消えていった。


「……懲りないですね、あの人も」


 戦闘が終わり、ユキがため息をつく。


「まぁ何度も立ち向かってくるなら、俺もそれに応えるまでだ」

「いや、立ち向かうっていうか……」

「明らかに超個人的な恨みだよね……」


 飄々としているノインに、龍矢とRui子も苦笑するしかなかった。


「さて……キングゴブリン出現まであと20秒だ」

「さぁ、皆さん! この調子でいきますよ!」

「「「おー!」」」



***



「――それ、本気?」

「本気です」


 すっかり夕暮れとなった街中、クロサがリーズを睨みつける。


「今、2位と3位なんだよ? それでも1位のクランを狙うの?」

「ええ。時間的におそらく次のスタンピードが最後。ここしかチャンスはありません」

「もし失敗したら、後ろのクランに抜かされるのに?」


 現在、2位から6位までのポイントはほぼ僅差。無謀にも挑んで全滅してしまえば、逆転される可能性もあるのだ。


「はい」


 それでもリーズは譲らなかった。


「……上に怒られても知らないからね」

「覚悟してます」

「リーダーから降格させられるかもね」

「それも覚悟してます」

「まあ、私としてはリーダーなんて渡しちゃいたいくらいだけど」

「それは知りません」

「……はぁ」


 ここまで言うのなら、仕方ない。クロサはため息をつくと、ようやく首を縦に振った。


「わかった。なら作戦を練ろっか――対ノルズへの作戦を」




 一方。


「……次で最後だから、もう僕たちはランキング確定さ。子猫ちゃんたち、よく頑張ったね。終わったらご褒美をあげよう」


 鳥肌がたつような台詞をさも当然のように口に出すのはAki。更に軽くウインクするサービスつきだ。


「きゃあっ!」

「もう、そんなご褒美だなんて!」

「ま、まあ、せっかくAkiから貰うんだから、貰ってあげなくはないんだから!」


 そしてそんなAkiの台詞に純粋に喜ぶ『三日月の迷い猫』のメンバーも、どこか頭のネジが飛んでるらしい。


 現在『三日月の迷い猫』は8位。9位とは1000pt以上の差をつけていて、あまりよくない成績でも落ちる可能性は少ない。


 だからこそ――Akiはこんな提案をしだした。


「でも、せっかくだ。最後は盛大に暴れ回ろう」

「いいですね!」

「えっと、具体的には?」

「目的はただ一つ――ノルズを倒すことさ」




 また一方。


「負けてねぇ……俺は負けてねぇ……!」


 薄暗い路地で一人、膝を抱えながらユウジンがぶつぶつと呟いていた。


「負けるわけねぇんだ……あのマケルなんかに……」


 もはや彼にとってランキングやスタンピードなど関係ない。かつての格下にボコボコにされているこの状況が全てだった。


「次で最後……次で勝つ……」


 クランメンバーと交流するのも面倒になり、ずっとソロで挑んできたが……これで最後。


「勝つ……勝つ……」


 もう後がない。負けるわけにはいかない。

 最後に勝てさえすれば、もうそれでよかった。


「……次で勝つ! ノルズに――ノインに!!」





「……いよいよ最後のスタンピードだな」


 夕暮れとなった今でも、この街の景色は変わらない。


 普段、ロードには集まらないプレイヤーたちも今夜ばかりは大勢集まっている。

 ほぼお祭り状態の中、ゆっくりとノインは腰を上げた。


「なんだかんだ楽しかったね!」

「うむ。俺ら以外の奴らも、蒼茫へ向かうのに相応しい腕利きだった」


 Rui子と龍矢も感無量といった感じである。


「……まだ終わってませんよ。最後の祭りが待ってるんですから」


 三人の視線は一人の少女に集まった。


 白髪狐耳、刀を携えた小さな和風少女。


 ユキは三人を見回すと、活を入れるように拳を大きく振り上げる。


「これで最後! 最後まで勝ち抜きますよ! えい、えい、おー!」

「「「おー!」」」


【スタンピード開始!】


 それぞれの想いが交錯する最後のスタンピードが……今、幕を開けた。

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