第2話 野生の Lv.100 が 現れた ! ▼
「……おぉ」
設定完了ボタンを押したノインは真っ白な空間へと転送された。
『あなた、新入りの冒険者ね? あたし、ノーティス! これでもあなたの先輩よ!』
と、目の前に現れた赤髪ポニーテールの少女。
『でもいきなり戦うってなっても不安よね……そうだ! 研修ってことで、あたしが少しレクチャーしてあげる!』
なるほど、どうやらこのNPCの子がガイド役のようだ。
結構親切な設定をしてるなと感心する。
『まず、視界の左上! 緑と黄色のバーが表示されてるでしょ?』
NPC――ノーティスの言う通りに左上をちらりと見ると、確かに緑の黄色のバーが並んでいた。
【ノイン
HP 20/20
MP 3/3】
まあ、見るからに明らかなHPとMPの表示バーである。
『そこにあなたのHPとMPが表示されてるわ。HPは……まあ0になったら死ぬのよ。MPはなんか時間回復するわ』
「急に適当になったね!?」
若干不安になるような曖昧すぎる説明に思わずノインは突っ込みをいれた。
もっとも、HPとMPなんて丁寧に説明しなくても構わないが。
『次に装備よ。あなたのメインジョブは……ディフェンサーね? なら、盾と短剣が武器となるわ』
と、ノインの手元が輝き出す。
左手には木製の丸形の盾が。直径は50cmくらいだろうか。
右手には本当に小さな短剣。一般家庭で使われる包丁とあまり変わらない。
試しに持ち上げたりジャンプしたりしていると、目の前の地面が輝き出す。
『あっ、スライムよ! 試しに倒してみましょう!』
現れたのは青いジェル状の存在。ファンタジーではすっかりお馴染みのモンスターだ。
【スライム Lv.1】
スライムの頭上に表示されている名前とレベル。
『まずシールドの使い方ね。攻撃を防いでくれるのよ』
スライムが何か力を溜めるような動作に入る。
ノインが盾を構えると、予想通りスライムは突撃してきた。
『そう、それがガード。攻撃のタイミングを合わせてガードすればジャストガードになるわ』
またスライムが力を溜める動作に入る。さっきと同じ攻撃だろう。
ノインはスライムの動きをじっと見、ジャンプした瞬間を見計らって、即座に盾を構えた。
スライムの攻撃を防いだ瞬間、何か小気味良い音が鳴り、盾が一瞬光る。
『ジャストガード成功ね!』
なるほど、音と光で知らせてくれるのはわかりやすい。初心者のノインもすぐに理解できた。
『ジャストガードはどんな攻撃もダメージ0なのよ』
「へぇ、そうなんだ……」
『じゃあ、スライムを倒してみましょう! ディフェンサーのジョブスキルに【シールドスラッシュ】という攻撃スキルがあるわ』
ディフェンサーにも一応攻撃スキルが存在するらしい。
『【シールドスラッシュ】はシールドを投げつける技よ。スキル名を叫べば発動するわ』
盾役が盾を投げるのは、最早役割を捨ててるのではないのだろうか。
心の中で突っ込みを入れながら、シールドを構える。
「えーと……シ、【シールドスラッシュ】!」
少し恥ずかしそうに叫んだ。
すると体が自動的に動き、綺麗なフォームで盾を投げつける。
全力が込められたシールドは、光の軌道を描いてスライムに直撃する。
『16』
当たった瞬間、スライムの頭上に赤い数字が表示される。これがダメージ量らしい。
シールドスラッシュをまともに食らったスライムは光の粒子となって消えた。
【レベルアップ!】
スライムを倒した瞬間、目線上にそんな文字が表示される。
【名前:ノイン
メイン:ディフェンサー Lv.1→2
サブ:バーサーカー Lv.1→2
HP:20/20→40/40
MP:3/3→6/6
攻撃:11→22
防御:18→36
魔功:1→2
魔防:15→30
素早さ:12→24
スキル
【シールドスラッシュ Lv.1】【バーサーク Lv.1】【ブラスト Lv.1】
】
『もうレベルアップしたのね! すごいわ!』
いや、チュートリアルでそんな褒められても微妙なのだが……。
もしかしたら、RROは褒めて伸ばすタイプなのかもしれない。まあ、褒められて悪い気はしない――と、ノインは頭をかく。
『あ、ドロップアイテムよ! 開けてみましょ!』
ノーティスの言う通り、スライムが消えたところにはいかにもって感じの宝箱が置いてあった。
宝箱を触ると、それだけで箱が自動的に開く。
【ドロップアイテム
・5ゴールド
・雪の花】
「ま、スライムだしこんなもんか」
アイテムのショボさにせせら笑う。
「っていうか、雪の花ってなんだ?」
【アイテム
・雪の花 レア度:F
雪のように白い花。HPが5回復する。】
「レア度Fってことは……何処でも採れるゴミアイテムだろうな。ま、HP回復するから何かの役に立ちそうだし、持っておくか」
それにしても、今のレベルアップでステータスが大幅に上がっていた。防御と魔防なんて、もう30超えだ。
「この状態でバーサークモードになったら……もしかしたら、本当に俺TUEEEできるんじゃね?」
そんなことを言って、思わず顔がニヤつく。
バーサークモードを上手く扱えるようになれば、トッププレイヤーとして名を馳せることも夢じゃないかもしれない。
『じゃあ、早速街に――え?』
なんて妄想をしていたところ――それは現れた。
身長180cm前後のノインの3倍はありそうな体格。
複雑な模様を型どった白銀の鎧。
一撃で地面を割れてしまいそうなおよそ4mくらいの大剣。
発せられる銀のオーラは強者の証。
チュートリアルにしてはあまりにも異形な存在がノインとノーティスの前に現れたのだ。
【宿命之白帝・ティガヴァイス Lv.100(Max)】
『な、なんでこんなところにこいつが!? 出てくるはずがないのに!』
ノーティスの言う通りである。
こんなやつを序盤に出してくるだなんて、明らかにおかしい。
――もしかして、負けイベ?
なるほど、それなら納得だ。勝てるはずがないのだから――
『ちょっと強いモンスターだけど……大丈夫! あなたなら勝てるわ!』
………………………………………………………………………………ちょっと?
彼女は一体、何を言ってるのだろうか。
こっちはLv.2に対し、向こうはLv.100。足下にも及ばないことは目に見えており、こんなのに勝てるはずがない。
『今回は私も助力するわ! これでもLv.12なんだから!』
「いやいやいやいや」
そんなキメ顔をされても。
Lv.12とLv.2で、本当に勝てるとでも思ってるのだろうか?
『安心して。私、こいつなら何体も倒したことあるのよ』
「何体も!? マジで!?」
ノインは思わず耳を疑った。
如何にもラスボス手前に出てきそうな仰々しい名前を持ったモンスターが何体もいるということに、だ。
いや、例え1体だろうが、彼女は本当に倒せるのかと疑ってしまう。
――いや、待てよ。
ふと、ノインの脳裏に別の考えが浮かぶ。
――もしかしたら、こいつ……チュートリアル用の雑魚モンスターかもしれない。
要するに……このモンスターは明らかなかませ役。
プレイヤーに『また俺、何かやらかしちゃいました?』的な演出を味わってもらうが為に用意されたイベントなのではないか、と彼は思考を巡らす。
『来るわ! 構えて!』
ノーティスの発言と同時に――白銀の鎧は動いた。
その巨体には似つかわしくないようなスピードでノインまで迫り来る。
「う、うわっ!?」
咄嗟に盾を構えるノイン。その頭上に大剣が振り下ろされた。
【ノイン
HP 0/40
MP 6/6】
『You Are Dead』
盾ごと身体を真っ二つにされたノインは、あっけなく死んだ。
***
「………………ハッ!?」
目の前が真っ暗になったノインは、気がつくと白い空間の中に立っていた。
そして、目の前にはあの白銀の鎧が襲いかかる前の距離にいる。
……どうやらノインはゲームオーバーとなったらしい。
「……き、気のせいかな?」
何か、とてつもない力だったような気がするのだが。
と、白銀の鎧がまた迫り来る。
ノインは咄嗟に盾を構えた。
【ノイン
HP 0/40
MP 6/6】
『You Are Dead』
***
「………………ハッ!?」
ノインが我に返ると、再び同じ配置。
「……ふ、ふふふ」
二度起これば十中八九で確定。ノインは思わず笑い……心の底から叫ぶ。
「これ、無理ゲーすぎるだろぉぉぉぉぉおおおおおおおお!?」
【ノイン
HP 0/40
MP 6/6】
『You Are Dead』
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