第1章「チュートリアル~第5階層編」

第1話 ロマン砲は求めるな

 ――もしもLv.2のプレイヤーがLv.100のモンスターに挑んだら、どうなるのだろうか?


【ノイン

HP 0/40

MP 6/6】


『You Are Dead』


 答えは、当然死ぬ。


 誰がどう見ても無理ゲーであり、やめておくのが利口……というより、常識的な考えだろう。


 しかしこのLv.2の男、やめることなく挑み続けた。

 ……いや。やめられないので、仕方なく戦っているという考えに近いだろうか。


 ――完全にしくじった。


 チュートリアルをプレイし続けて2時間。とあるプレイヤー、ノインはようやく自分の浅はかな考えを後悔していた。


 まだチュートリアルの最中。何処を見ても真っ白な狭い空間のワールド。彼は本編の美しいワールドを未だ目にしてなかった。


 積もるストレスの末、とうとう腹の底から叫びだす。


「いい加減、俺にも本編やらせろやぁぁあああ――ぐぎゃっ!」


 容赦なく振り下ろされる大剣。身体を割かれるノイン。



【ノイン

HP 0/40

MP 6/6】


『You Are Dead』



 彼の視界は暗転し、赤い文字が大きく浮かび上がる。


 と思ったのも束の間。またあの白い空間へと召喚された。


 ――そう、彼はまだチュートリアルのボスを倒せてないのだ。



***



「やっぱゲームの中と言えど、黒髪だよなー。馴染み深いし」


 この時の彼は、まだ楽しそうにキャラクリエイトを弄っていた。


 性別は現実世界のまま。顔や体型、身長もあまり大きく変更することができないという厳しい制限があるが……元々無駄に高身長でガリガリだった彼にとっては、そこまでデメリットではなかった。



 『リバースダンジョン・オンライン』――通称『RO』は5年間オンラインゲームのトップに立ち続けているVRMMOである。

 世界初のフルダイブ型ゲーム。現実と変わりないグラフィックの高さに心踊るようなファンタジーの世界観。プレイヤーのスタイルによって変化する『ジョブスキル』は日本中のゲーマーを魅了した。

 キャッチフレーズは『現実よりも長い体験を』。現実世界を10倍加速させているRO空間では、2時間半プレイしただけで1日を費やした体感を得られるので、あながち間違いではない。


 そしてROサービス開始され記念すべき5年目のイベントの時に発表されたのが、完全新作である『リアル・リバースダンジョン・オンライン』――通称『RRO』だ。


「より楽しく、より奥深く、よりリアリティーに。『RRO』をプレイしたら最後。貴方はどっちが現実かわからなくなるだろう」


 そんな挑戦的な謳い文句に多くのプレイヤーが歓喜をあげた。



 しかし、そこまで人気なゲームのβテストを出来るのはわずか10,000人。倍率は500倍以上となった。


 さて、RROのβテストを楽しみにしていたのは既存プレイヤーだけではない。


「名前……名前かぁ。じゃあ――『ノイン』で」


 青年――ノインも未プレイ勢ながら運良くβテスターに選ばれた一人である。

 現実ではまだ社会人ではないので、VRMMOをするのに必須のハード機械『V-GEAR』を購入することが出来なかったのだが……大学生になった時から短期バイトを利用して3年生となった今、ようやく購入できたのだ。


 願わくば前作からプレイしたかったノインだが……『前作をプレイしなくても十分楽しめる。むしろ今作からプレイすべし』と公式ホームページに書いてあったので、気がつけば衝動買いしていた。


 まだかまだかと待ち望み、今こうして開始された彼は天にも昇るかのような気分で初期設定を弄っているのだ。


 見た目、名前の次に選ぶのは――ジョブ。これがこのゲームにおいて最も重要な要素でもある。



 前作ROにも存在していた4つのジョブ『ナイト』、『ウィザード』、『アーチャー』、『ディフェンサー』。そして今作RROから新たなジョブ『ヒーラー』、『ファイター』、『テイマー』、『バーサーカー』の合計8つの中から2つ選ぶ。


 このジョブ2つ、どちらをメインにして、どちらをサブにするかによってプレイスタイルが大きく変化するのだ。



「えーと、とりあえず初めてだし、メインを『ナイト』、サブを『ディフェンサー』にしようかな」


 最も地雷になりにくいと言われているジョブ『ナイト』(通称Kn)と『ディフェンサー』(通称De)。

 平均的なステータスである『ナイト』をメインに置き、サブに防御メインの『ディフェンサー』を置くことによってまず死なない――と、『Kn/De』の構成は、彼が事前にネットで調べたものである。


 初VRMMO且つ、ネトゲ初心者であるノインはいきなり地雷扱いされることだけは避けたい。まあジョブは後に変更することが可能らしいので、大丈夫だとは思うが。


 ――しかし。

 この『後に変更することが可能』という、『どうとでもなる』と良くも悪くも捉えられる考えが、彼にとあることを思いつかせてしまった。


「あれ、メイン『ディフェンサー』のサブ『バーサーカー』にすればロマン砲出せるんじゃね……?」


 彼が思い付いた構成――『De/Be』。



 『ディフェンサー』とは、文字通りの防御力を主としたジョブだ。

 盾をメイン武器とした壁役で、メインスキルも『ジャストガード時防・魔防上昇』という防御力を強化する為のものだ。


 一方の『バーサーカー』(通称Be)は、新ジョブ。

 一見、平均的でやや防御寄りのステータスだが……メインスキル『バーサーク』発動により、防御を捨てた狂戦士に様変わりする。


 『バーサーク』を発動すると、自身の防御力の半分を攻撃力に、魔法防御力の半分を素早さに割り振られるのだ。

 『攻撃こそ最大の防御』を体現したかのようなスキル。バーサークモードの攻撃力は全ジョブ中トップ、素早さもトップクラスへ躍り出る。


 さて、サブジョブから引き継がれるものは4つある。


 まずステータス。メインジョブのステータスにサブジョブのステータスがそのまま加算される。


 2つ目、スキル1。『ナイト』の場合は『攻撃時自動回復』が、『ディフェンサー』の場合は『ジャストガード時防・魔防上昇』が使用可能になる。


 3つ目、専用武器の所持。本来はメインジョブは定められた武器しか持てないが、サブをつけることによって持てる武器の枠が増える。


 そして4つ目、ジョブスキルの一部使用。全てのジョブスキルは使えないが、一部だけなら使用可能なのだ。



 しかし、引き継がれないものもある。

 1つは一部以外のジョブスキル、そしてもう1つが――『スキル2』だ。


 メインスキルとは違った効果を持った、もう1つのスキル『スキル2』。


 『ディフェンサー』のスキル2は『体力減少時攻・素早さ上昇』。防御メインの『ディフェンサー』がピンチになった時の打開策として、このようなスキルになったのだろう。


 ここまで説明した上で、ノインが考えた最大火力――いわゆるロマン砲について説明しよう。


 まず、相手の攻撃タイミングを合わせてガードすることで発生する『ジャストガード』を繰り返し、防御力と魔法防御力を上限まで上昇させる。

 次にバーサークモードを発動。底上げされた防・魔防の半分が攻撃力と素早さに行き渡ることとなる。

 そして、スキル2『体力減少時攻・素早さ上昇』。バフにも上限値はあり、当然攻撃力だけを上げても永遠に上昇するわけではない。


 つまり――『De/Be』の構成は攻撃力・防御力・魔法防御力・素早さを底上げさせ、尚且つバーサークモード時には上限値まで達した防御力の半分が上限値まで達した攻撃力に、上限値まで達した魔法防御力が上限値まで達した素早さに割り振られるのだ。



 全ての条件が満たされた時――その最大火力は、ソロの場合はどの組み合わせよりもぶっちぎりで上を行く。


 もし、地雷プレイになってしまったとしても、後から変えてしまえばいい。一番最初はチュートリアルなので、深く考えなくてもいいだろう。


 だって……のだから。


「……よし、決めた!」


 そんな悪魔の発想をしてしまったノインは、ジョブを『De/Be』に変更し、設定完了ボタンを押した。



 後に、彼は語る。


「えぇ、もしあの時の俺と会えるのだったら、助走をつけてドロップキックを放ちたいです。処刑ものですよ、処刑もの。ロマン砲だなんて魅力的な言葉に惑わされた自分への処刑ですよ。

 そして忠告します。『その構成は地雷中の地雷。ネタ構成なんだぞ』と。

 いやまあ、別にネタ構成したからこうなったわけじゃないんだけどさ。明らかにバグが原因で――あぁっ!? 待って待って、ちょっと待って! まだ言いたいことがたくさんあるんだから! 喋ってる途中くらいは待機するのがお約束ってもんじゃないの!? ねえ、聞いてる!? あっ、あっ! ちょっ! やめ――!」



【ノイン

HP 0/40

MP 6/6】


『You Are Dead』

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