第6話
「グラン……アタシも」
そういうとメティナは僕の空いている手の方に、手をひらひらさせる。
何がしたいんだ?
「グラン、わかってると思うけどメティナを好きになっちゃ駄目よ」
「わかってますよ……ユシア」
2階に上がった先には罠がある。
「ここに罠があるので解除してもらえますか?ユシア」
「ここに?本当ね、よく気づいたわね」
ユシアは床に仕掛けられている糸を慎重にその手でふれてみる。
「そういえばここらへんにあったわね。変重力の罠……だったかしら」
「罠の場所くら覚えておきなさいよ、メティナ」
「ごめんなさい」
僕たちは酒瓶を割った音が再び聞こえたような気がした。
「お、怒った訳じゃないの……こっちこそさっきはごめんなさいね」
初めてユシアが優しい顔で、メティナを見つめて話しかけた。
普段のストレスと緊張から考えると、どこかで爆発しない方が不思議なくらいユシアは大人びすぎてるので、怒る時もあるのだと逆に少し安心してしまう。
「うん。 確かこの先にアタシの部屋があるの、そこで少し休んでいきましょうよ」
そう言いながら進んだメティナはまだ解除が途中の罠を踏んだ。
張った糸が切れた音と共に壁に勢いよくメティナが叩きつけられる。叩きつけられた彼女の双球が焔の如く激しく重力になびいていた。
美しかった。
「まだ解除できてないのよ……」
「そ、そうなのね」
メティナは変重力の罠で足をくじいてしまったようで、歩くと痛むようだ。
足を引きずるたびに苦い顔をにじませる。
僕は赤ちゃんを抱くようにメティナをかかえた。
「失礼しますよ」
「え?あ、あの……重くない?」
「スカスカですよ、もっと食べた方がいいと思います」
イラついたため息を吐いたユシアが腕を組んでこちらを見る。
「グラン、メティナが綺麗で可愛いからって、いい所みせようとしてるわよね?私にお姫さま抱っこなんてしてくれた事あったかしら?」
ユシアの眉は山のようにそびえたっていた。
「ユシアは嫌がるでしょう。それに魅了魔法を使うタイプの女性が、僕は一番嫌いなんです」
「一応アタシにも耳がついてるんだよ?」
「そんな事いってグラン、隙があったらメティナの胸ばっかり見てるわよね?さっきの罠の時なんか酷かったわ」
恐らく無意識化の自分だろう、まるで自分の体が別人のように感じるんだ、間違いなくそれが原因に他ならない。
「それは仕方がない事なのです。質量が大きいほど引力が強くなるんですよ」
「何の話?」
「それがこの世界の法則であり、事実です。ユシアは重力に逆らう事が出来ますか?無理でしょう?」
ユシアとメティナは僕の話を聞いてはいなかった。
古風な城の色調に、ぽつんと浮いたピンクのドアを開ける。
僕たちはメティナの部屋にお邪魔した。
メティナの部屋は意外にも物が殆ど置かれておらず、ベッドと椅子と空っぽのゴミ箱しか家具は無かった。
「魔法が解けたとしても、グランの事がずっとずっと、ずーっと、好きだったらいいな」
メティナは無邪気で、素直で可愛らしい笑顔で僕に向かって真っ直ぐにそう言った。
「メティナ、あなたは味方を裏切っているんですよ……その先になにがあるかわかりますか?」
「わかる必要なんてないもの。それにグラン……アタシ、こんなに誰かの事を好きになったのは初めてなの」
「あなたがアタシの初恋よ、これを受け取って」
メティナは手のひらに収まるほどの小さな包みを渡して来た。
「僕は人間が作った物しか、口に入れないんです」
そう言って受け取らずにいると、少し物悲しそうな顔をして彼女はその包みを矢筒にしまった。
まるで待ちに待った夕食に、嫌いな食べ物が出た時のような落ち込み方だった。
「あの……グランとユシアってどういう関係なの?」
メティナはユシアにおそるおそる尋ねた。
目線をあわせずに慎重に顔をうかがっていた。
「グランとはただの仲間ってだけよ、私は年上が好みだもの」
「そうなの⁉よっしゃぁっ!」
ガッツポーズを決めて、メティナ1人喜んでいた。
「そう、言い忘れてたんだけど、さっきの人」
思い出したようにメティナが口を開く。
「リュースですか?」
「そう、黒いスーツの女の人、実はあの人結構強いのよ?」
「しってるわよ、一度負けたもの」
「でも彼女は四天王の中でも最弱……剛拳のリュースよ」
「あと3人いるのね……詳しく聞かせて貰えるかしら?」
「一応、一番強い四天王はアタシなのよ」
「メティナ四天王だったの⁉」
ユシアは普段からは考えられない程高い声をあげて驚いていた。よほどメティナが四天王に見えなかったのだろう。
「そんなに驚く事ですか?」
「そりゃ驚くでしょう、四天王にこんな露出癖のある異常者が入ってるのよ」
ユシアはメティナに指をさして煽るようにそう言った。
「もう一回言うけどアタシちゃんと聞こえてるからね、言葉の矢が耳から入って胸を突き刺してるからね」
「でも事実じゃない。 で、あと2人はどんな奴らなの?」
「四天王も色々あってねえ」
メティナはゆっくりと、ベッドに腰を据えて話をつづけた。
「低賃金で保険無し……残業は毎日、セカンドキャリアも用心棒くらいしかないし、だいたい勇者は休日を狙ってくるんだもの」
メティナはふかふかのベッドを握り拳で叩く。
「休日出勤なんてマンイーターに食べられればいいのよ!」
「なんかすみませんね」
「グランは別にいいよ」
「丁度アタシが入る前に1人抜けちゃってさ、だから四天王って4人揃ってた事がないのよ」
「なによそれ、最大で3人しかいなかったって事?」
「ええ、アタシもコネを使って最近四天王になったんだけど、資格がいるのよ四天王になる為に」
「資格?最近は四天王になるのに資格がいるんですか?」
四天王になるのに資格?完全に初耳だ。
「ほらこれ、四天王証明書よ。つい最近になって出来たのよ」
メティナはポケットから文明度を測る物差しを取り出した。
映写されていたのは金髪ストレートで無表情、そしてスーツを着ているメティナだった。
「まるで冒険者証みたいね」
「これ案外取るの難しいのよ、アタシは筆記が得意なんだけど実技がギッリギリだったの、4%の合格率だったんだけど運良く一発で受かったわ」
「この資格のせいで求人を出しても中々新しい人材を確保する事ができなくなっちゃったのよ」
四天王証明書をみると、使える魔法と弱点属性……更によくみるとレベルの横に小さな王冠の印が見える。
メティナはその印を指す。
「これがアタシが最強っていう四天王主任の証よ、実務経験が必要なんだけどコネでなんとかなったわ」
メティナは誰もいないのに、コネがどうとか言う所からひそひそ声で喋り出していた。
「へぇ、大変なのね四天王も」
ユシアはメティナの頭をぽんぽんと軽くたたくと、ひらめいたようにメティナに指をさす。
「じゃあ後1人しかいないのよね?残りの四天王はどんな奴なの?」
「赤い糸のルドリカ……正直厄介な相手よ。とにかく隙の無い相手だけど、ユシアが上手く接近戦に持ち込めれば勝てると思うわ」
ルドリカについての話を聞くと、僕たちは更に上をめざした。
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