あるいは全くもって雑な導入  3

  〜チョロい情ちゃんが吠えてから暫くして〜



「……出来た。」

「おっ、ようやくか。遅かったな。」

「これでも急いだ方よ…」


 新しい俺の肉体の準備がようやく出来たらしい。なんだか情ちゃんがボロボロになっているが気にしない事とする。


「決定的に私を労る心がかけている気がするけれどまぁいいわ。すぐにその世界に送れるけど、どうする?先に色々解説とかしといた方がいい?」

「いや、いらん。実地で色々試すさ。ほらさっさと送ってくれ。」

「偉そうな態度ねぇ。何でこんな奴にこんなリソース割かなきゃいけないのよ…色々と無駄に出来ないってのに…」

「それは全部自分の不手際が原因なんだけどな。」

「好奇心だけで死んでおいてよく言うわこの三文小説家!猫をも殺すって言葉を知らないの?」


 三文小説家とは言ってくれるじゃないか…。


「高位(笑)な情報生命体さまがなんか言ってるなぁ?」

「あーーームカつく!人間の小説家ってみんなこうなの?私の知り合いの詩人の方がまだマシだわ!」

「そん事知るかよ!俺は作家に知り合いいなかったし。」


 情ちゃんの一言に少し、心の傷が抉られた。物書きとしての俺は、親の集まりに連れて行かれる事はあったが自分が呼ばれることなんて無かったのだ。

 自分の能力不足なのは分かっているが、親の壁は俺にはあまりにも厚すぎた。


「まぁ良いわ。ほら、送るから楽にしときなさい。」

「魂だけの身で楽も何も無い気がするんだがな。」

「その辺は気にしないの。始めるわよ。」


 情ちゃんは一度咳払いすると、俺に手をかざして目を閉じた。

 最初はブツブツと何か呟いているようにしか聞こえなかったが、次第に声が大きくなるにつれて段々と俺は自分が拡散していくような感覚に襲われた。




   結べ

       紡げ

          束ねて 

              繋げ


  此処より彼方へ

       彼方より此処へ


  其は導かれし者

       我は導きし者


  ―――― ――――――

     ――――――の名の下に


  我は輪廻の渦に楔を穿つ

     太極はこの一瞬にて停止する


  天秤司る白き手よ


   今こそこの者の渡る世界を

            指し示せ



 中々イカした詠唱だと思う間もなく、俺の意識は極彩色の渦に呑み込まれた。

               

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