弱気なヒーロー
望月は部屋に入るとアチコチに散らばっている空いた酒瓶を見て噂が本当なのだと思い知らされ愕然としたが、山吹の懐かしい顔をみると居住まいを正した。
「山吹先生……ご無沙汰してます」
そういうと望月は一礼した。
「いやいや、そんな畏まらなくてよいよぅ。こんな酔っぱらいのお爺ちゃんに気を遣う必要もない」
苦渋と諦観が混ざったような顔で山吹は吐き捨てる様に言った。
「そんな……山吹先生、大丈夫ですか?」
望月は色々と聞きたいことが多かったが、多すぎて結局シンプルになった質問を投げかけた。
「ん?……大丈夫大丈夫……大丈夫じゃないように見えると思うけどね……大丈夫さ……それよりこんな酔っぱらいに会ってて大丈夫かい?西湖大学のホープなんだから……風評被害にあわないようにしなくちゃ」
「私の事は良いです。それより、私に何か出来る事はないですか?」
すると暫く沈黙があって絞り出す様に
「いや………ないな」
と言って顔を背けた。
「そんな……私の事を心配してくださっているなら……」
「望月さん……ヒーローってさ、強くないと駄目なんだと思うんだ」
唐突な宣言に望月は面食らった。
「ヒーロー……ですか?確かにそうですね、一般的には」
それでも望月は話に合わせる事ができた、もはや阿吽の呼吸と言うやつかもしれない。
「もしも……ヒーローが弱かったらどうなると思う?スーパーマンが弱かったら……バットマンが直ぐにやられちゃったら……その世界は……破滅を待つしかない、そんな……そんなヒーローに自分がなったとしたら……君ならどうする?」
「弱いヒーローですか?私なら……仲間を探します」
「仲間?」
「そうです、一人では駄目でも仲間を集めて迎え撃つんです」
「仲間か……確かにそうだな……しかし」
「しかし?」
「敵がだれなのかわからない。どうすれば倒れるのかわからない。そもそも今現在目の前にいない敵に対して……なにが有効な手なのか思いつかないんだ……下手に動けばより悪い未来になってしまうかも知れない……いや、事実そうなってきたんだ。いや、それは私のせいじゃないと……何度も否定してきたんだが……否定すればするほど……駄目なんだ」
山吹の手はワナワナと震え出した。、
「だ、大丈夫ですか?」
望月は駆け寄ろうとしたが、山吹は手で制した。
「悪い……大丈夫じゃあない。いっそ悪役になれば良かったんだ、弱いなら。悪役になれば強い善にやられて世の中さらに良くなる。弱い善というのは悪なんだよ……わたしは……悪なんだ!」
「せ……先生!先生は悪じゃありません!しっかりしてください!何があったんですか?!」
「いや、君にまでこんな思いをさせるわけにはいかない……悪は私だけでじゅうぶんだ……もうじゅうぶんだ……」
「……先生」
「すまない……帰ってくれ……」
「………」
「……ありがとう。顔を見れて良かったよ」
そういうと、山吹は顔を庇ってそれ以上何も言わなかった。
望月は西湖大学の学園祭の招待状をそっと置くとそのまま一礼して部屋を後にした。
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