小さな声援


「山吹教授」


ため息を吐きながら帰ろうとした時、だれかから呼び止められ振り向いた。


そこには、この前の授業で唯一まともに聴いてくれていた女生徒が立っていた。


「君は確か……望月」


「名前を覚えててくれたんですねありがとうございます」


そう言って微笑んだ彼女は人形のような黒髪に利発そうな顔立ちで如何にも才女ですという雰囲気を身に纏っていた。


「あ、いや……どうしたんだい」


「……いえ、どうと言う事もないのですけど……」


望月は困ったようにそう応えた。


「あ……あー、なんか元気が無さそうに見えたかな?いや、大丈夫大丈夫」


そう言って山吹はハハハと笑ってみせた。


「……この前の授業面白かったです」


「……本当?気を使ってるんじゃない?」


望月はブンブンと首を振って


「本当です!」


と念を押した。


「……ありがとう」


素直に謝辞を告げると


「気をつけて帰るんだよ」


と言って笑顔でその場を離れた。


先程より少し背筋が伸びた教授の後ろ姿に多少安堵した望月は満足そうに踵を返した。

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