承
「嘘でしょ! どうして出られないの!!」
夜中の校舎で掃除をしている最中、蓮が自分の姿を全く見ることができないのをいいことに、じーっと見つめていたのだが、夜が明けた途端、美少女だった彼女は蓮のポケットの中にあった手紙の中に戻ってしまう。
どうやら妖怪にはなったがまだ力は弱いらしく、彼女は夜にならないとラブレターの中から出ることができなかった。
ずっとポケットの中にいて、状況を把握しきれていなかったのだが、蓮が住んでいる祓い屋道場には結界が張られており、夜にまた美少女の姿で外に出ようとしたら、その結界が邪魔をして出られない。
かといって、手紙のままでは身動きが取れない。
「もう……こうなったら、一生、蓮様の部屋から離れないわ!!」
蓮は今、自分の部屋の棚の上に、あとで読んでみようと手紙を放置したまま忘れて眠っている。
この道場にいるみんなが蓮のように見えない祓い屋なのかと思えば、見えないのは蓮だけだった。
蓮の部屋にいるのが、彼女にとっては一番安全なのだ。
(ああ、眠っている顔も素敵ね)
夜中になると彼女は美少女の姿になって、眠っている蓮の顔をじーっと見つめる。
(いつになったら、私を読んでくれるのかしら?)
最初の数日は、早く手紙を読んでほしいという気持ちがあった。
何しろ、誰にも読まれなかった想いが、彼女を作り出したのだから。
(早く読んでほしい……でも、もしも、読んでしまったら、私、捨てられるかもしれない)
その内、いつまで経っても読んでもらえなくて、色々なことを考えてしまう。
(それなら、ずっとこのまま、読まれない方が……いいのかな?)
もうそれで十分だと思えてきた。
どうせ、読んだところで、蓮には彼女の姿は見えないのだ。
蓮に拾われてから2ヶ月半ほど経ち、暑い夏になったある日、妙なことが起こる。
(今夜も、蓮様の素敵な寝顔を見守らなきゃ……)
蓮が眠った頃、美少女の姿になって、ベッドで眠っている蓮の横にぴったりとくっついて、彼女は蓮の体に抱きついた。
最近の彼女の行動は、見えないのをいいことに、どんどん大胆になっていっていた。
(ああ、蓮様……すき。素敵)
「はぁ……素敵……すき」
なんだか興奮してきて、息が荒くなっていく。
このまま、もっと色々イタズラをしたくてたまらなくなっていく。
彼女はそっと蓮の右頬の黒子に触れる。
「……ん?」
いつも、声を出しても、触っても、なんの反応もない眠っている蓮の眉間にシワが入る。
「まぁ、何か悪い夢でもみてらっしゃるの? 蓮様……」
パチっと目が開いて、蓮の瞳が彼女を捉えた。
「えっ?」
「……え?」
蓮はガバッと起き上がり、何度も自分の目をこする。
「なん……だ?」
(危ない!!)
彼女は一瞬で手紙の中に戻り、蓮の前から姿を消した。
「あれ……? 今、見たことない女の子がいた気が……————夢?」
(どうして!! どうして!? なんで急に、蓮様!! 私が見えるの!?)
蓮は寝ぼけていたのかと、また眠ろうと横になった。
「どうせ見るなら、ゆきのんの夢がよかったな……」
そう呟いて、すぐに眠ってしまった蓮。
(ゆきのん……?)
彼女はまだ、ゆきのんが何者か、知らない————
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