第2話 新しい依頼、担当‥?

プログラムもシステム仕様書もかなりこなれた数年後、

「これうちのシステムでできるかな」

 某大手卸を担当する営業さんが部長、課長と同席でシステム部に依頼にやってきた。


 今からみれば普通のことだけど、当時の受注は電話、FAXなどでとっていてね、EOS(エレクトリック・オーダー・システム、電子発注)やEDI(エレクトリック・データ・インターチェンジ、電子データ交換)はこれからの時代だった。


「先方がね、半年後からさ、EDIでないと発注しないって言ってきたんだよね」

EOSは受注だけただ受け取るものだけど、EDIとなると納品データの送信も入ってくる。

紙としての納品書がいらない仕組。


 データ交換システムだからね、発注をうけたら本当は全件のデータ、出荷やそれ以外のいわゆる0伝、発注もらったけれど在庫なかったです、5個のうち3個しか出せなかったです、そんなデータも送らないといけない。

「うち、EOSもやっていないのに、EDIをいきなり‥」

 一番若手で経験のない僕でもデータで発注もらうだけなら、変換プログラムつくってその項目つめればなんとかなるのはわかるけれど、0伝まで送るのは‥。だって出荷データがないのにどうやって未出荷のデータつくるのさ‥。


システム室の室長と小林さんが僕を見た。営業さんと営業部長と課長も僕を見た。

“何‥、え‥、室長、小林さん、僕になにを言わせたいの‥”

 資料をめくりながら僕は考えた。まったくもう、試すなよこんなところでさ‥。

「受注はね、できると思うのですが‥」

 僕は営業部よりシステム室のお二人を見て話した。

“あってる‥?”

「納品データの送信は、出荷したものだけ‥、それならできるかな‥と‥、思うのですが‥」

“どうかな‥、これが僕の精一杯です”

「オウ、受注できる?それなら先方に送信するのは出荷データだけでもいいか確認とるよ、たぶん最初はそれでいいと思うよ。堀ちゃん、すごいね‥おい、先方に連絡だ」

 営業課長が担当者に向かって言っている。


 僕のほうはシステム室のお二人をおそるおそる見た。お二人とも資料を眺めていて何も言わない。

「あの‥、室長‥、どうですか、堀の言うことはあってますか‥」

 自分の恥などは僕は昔からどうでもいい性格なので、でも会社の利益と実際にシステムに落とせるかは、お二人に判断頂かないと。

「ん‥」

 独特の語尾があがる感じで室長がちょっとだけ反応する。

「ふ~ん‥」

 小林さん、資料みながら首をひねる。

 読めないよな、この辺は、お二人の反応は難しい。

 営業さん、課長、部長とも黙っているね。何も言わない。待っている。


社歴はうちの室長が一番長いし、なにしろシステムに関する実力は社内、社外にも知れ渡っている人だから。見た目はゆるい感じなんだけど、そう、“刑事コロンボみたいな人”だった。

「堀の言うとおり、でも未出荷データ送るとなると、俺達だけじゃできないな、外部たのまないとね」

 小林さんが言ってくれた。

「出荷データだけならなんとかね、あとさ、テストできるんだろう‥、その段取りも先方に依頼してくれるかな‥」

 室長が続ける。

 そうだ、テストもあるね。

「なるほど‥、テストか‥」

 営業担当がうなった。

 室長が資料を見ながらさらに続けた。

「テスト仕様書ってさ、ようはテストデータの作り方とか、テストのやり方、テスト用のIDとかそうゆうことが書いてある仕様書ってあると思うんだ‥」

 営業さん、メモをとっている。

「それもらってきて‥、でね、そうするとさ‥」

 なあ‥って感じで室長は小林さんを見た。

 小林さんが引き取る。

「先方のシステム室とか電算室とかと話すことになりますね」

 営業さん、はぁ‥と言ってメモから目を離し、そのままの体制で小林さんを見上げた。

「そこまででいいよ、あとはこちらで全部やるから。システム室同志のほうがね、こうゆうのは話しがはやいんだよね」

 僕は、そうゆうものなのかな‥と半ば驚き、尊敬してお二人を見ていた。


 あとは雑談だ‥。最近売上はどうとか、誰それは福岡に行ってから毎日飲み歩いているとか、役員の誰はシステムなんかわかってないのに口だけだして混乱させてとか、あのプロジェクトはおそらく失敗するとかね。

「それじゃ、そうゆうことで‥」

 と営業さん達が席を立つと、室長、

「担当、堀だからさ‥、連絡は堀にして、CCはとりあえずシステム室のみんなに送っておいて」

 え‥、担当なの‥。


「堀さん、お願いします」

 営業さんが笑顔でそう言うと、

「うちの売り上げの15%くらいかな‥、なくなるとでかいからな‥」

 と営業課長。

「ほら、○○社もやってるし、△△社もね、来月からだってさ‥」

 いままで黙っていた営業部長が続ける。


 営業担当が、え‥そうなんですか‥、驚いたように部長を見ている。言った部長と営業課長となぜか室長と小林さんがニヤって笑っている。経験を積んだ人達はちょっと違う。


 いずれわかるが、これはガセネタで、ライバル他社がやっているとわかると人員の少ないシステム室でも動かざるをえないから。

 その辺、営業課長もうちの室長も小林さんも読んでいたんですね。

 その後、お得意先様、仕入先という関係はあるにしても、社内で同じ苦労をしているからか、意外とシステム室同志って話しやすく、先方さんの担当者と何度も話すうちに、

「同じタイミングですよ、こちらが切り出したのは、メーカーさんすべていっしょですから‥」

 と言って頂いた。

 社内取引、戦略はみんな持っているんです。

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