第19話 夜分の電話


『れん、大丈夫?』

「うん。ごめんね、心配掛けちゃって」

調子を崩していたものの、風薬を飲んで、ご飯の時間まで眠っていたらかなり良くなった。晩ごはんには、消化に良い鍋焼きうどんをしっかり食べて、お風呂にも入った。

ちょっとだけ本を読んで早く寝ようかしらん、なんて考えていたところで、みっちゃんからお電話があった次第なのです。

『それで、知恵熱は収まったの?』

「……もちろんさあ!」

知恵熱ではなく、藍染くんと一緒の部活になれたことが嬉しくて暴走・発熱というだけだが、このことはお墓まで持っていくつもりです!

『どうせ豊くんのことを考えていたら馬鹿になっただけでしょ』

「なんでバレてるのっ!」

みっちゃんの幼馴染センサーは、電話越しであっても感度抜群なのかっ。

『……ほんとに頭大丈夫?』

幼馴染がこんな声を出せるのを初めて知りました。

雨の中側溝に嵌ったと同時に口の中にきゅうりが刺さった、というシチュエーションで使いそうな声だと思いました。簡単にいうと、『そろそろいい加減にしないと付き合いきれないわよ』ということを思っているんだろうなあ、と察することができました、まる

『はあ……豊くんのことが好きだっていうならさっさとやることやっちゃいなさい』

ここでみっちゃんカウンターが鋭く私のレバーを美味しく頂く! 鋭利な角度で差し込むように打つべしされたそれは、容易に私の脳髄液を煮沸消毒したりしなかったり!

「すすすすすすす、好きだなんて、そんなことは……」

『見た目も性格も理想的なだけ?』

「見た目120点、性格120点! 両者を掛けて144000点なんです!」

『ダブル馬鹿』

「あ、14400点です!」

『そこじゃないんだけどなあ……』

呆れを通り越してもはや諦観の域に達している、みっちゃんの様子。なんだか心労をかけている気がしてちょっと申し訳ない気もするのですが……それよりも!

「というか、豊くんってなんですか!?」

急に藍染くんと接近してませんかねえねえねえんえええええ!!

『豊くん、雷太くん、さやかちゃん。今日一日の成果だよん』

なんでもないことのようにさらっというみつりちゃんが……にくい! にくにくしい!!

「ほわい!」

『雷太くんは『みつみつ』、さやかちゃんは『みつりちゃん』……豊くんは『みつりさん』だって』

「Nooooooooooooooooooooooooooooooo!」

『からかいがいがあるなあ』

楽しそうなみっちゃんの声はどこへやら。私は一歩も二歩も先に行っている大親友に対して絶叫を返すしかできないのです。


閑話休題。

『ま、そんなに元気ならもう大丈夫そうだね』

安心したように笑いをこぼすみっちゃんに対し、ようやく落ち着いた私はベッドの上で縮こまるしかできなかった。

「……すいませんでした」

『いいって。ところで、明日は部活くる?』

「行く……私だけ仲間外れ感があるのはヤダし……」

『すねんなよー』

「すねてないもん」

全然すねてなんかいないもん。羨ましいだけでえい。

『でも、ちゃんと、ほんとぉーにちゃんと、落ち着かないといかんよ』

みつりちゃんは、ここで初めて真面目くさった声で、きちんとアドバイスをくれます。本当に優しくて涙が出ます。

「……鋭意努力します」

これに対して、こうとしか返せない自分がとっても情けない。

こういうが初めてで、どうすればいいか分かんないのだとしても、もう少し、こう……ねえ。

「努力だけじゃなくて結果を見せて! じゃ、あったかくして眠るんだよ」

バイビーという古式ゆかしいみっちゃんの挨拶で電話が終了する。

「……努力かあ」

努力、努力、努力……努力!

「よしっ」

私は思いついたことを実行するために、まずは……寝ることにした。

勝負は明日だ!

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