第12話 三回目の1st Contact

「おっはようさーん!」

「おはよう、雷太。……なんか、思ったより落ち込んでないな」

 昨日、スマホを壊した影響をまだ引きずっているかと思ったが、全然普通のいつも通りだ。

「ふっふっふ、これを見たまえ!!」

 雷太はポケットからばーんとスマホを取り出す。割れていたはずの画面は綺麗に直り、すっかり新品同然だった。

「え、どうしたん?」

「ショップに行ったら、新品と交換してもらえたぜ! ついでに色も違うものにしてもらっちゃった」

 確かに、背面部分が黒から白に変わっている。雷太はるんるんと実に嬉しそうだ。

「ラッキーだな」

「おうよ。だから、今日も付き合うぜー」

「……おう」

 俺はといえば、昨日のことをまだ引きずっている。だって、俺の顔を見て逃げたんだぜ。そりゃへこむよ!

「あんま気にすんなよー。当たって砕ければいいのさ!」

 あっけからんと雷太は笑う。

「俺の状況的に当たる前に砕けているけどな」

「細かいとこは気にするなぁ! 今日は教室で飯を食おうぜ。三限目が体育だから、その帰りに購買でパン買おう!」

 特に反対する理由もないし、学食で食べたいものもなかった。

「いいよ。じゃあ、そういう感じで」

「おっし。そんじゃまたな」

 予鈴がなり、雷太は自分の席に戻っていく。ちなみに、俺は廊下側の一番後ろ。普通にくじ引きでここの席を引くという強運である。しかも、廊下を観察して彼女が居ないか探せるしな!


 ◇◇◇

「れん、行くよっ」

 お昼休みになった途端にみっちゃんは話しかけてくる。

「今日は学食?」

「No! 今日は場合によってはごはん抜きです」

「えっ」

 なんだか今日のみっちゃんは気合の入り方が違う。本当なら私こそ、それくらいの気合を入れないといけないんだけどね!

「まずは彼を探しに行きましょう」

「で、でも心の準備が……」

 いじいじとしていると、みっちゃんは私の腕を掴んで廊下に連れて行く。

「いいからいいから! 昨日の電話の後に考えたんだけどね……彼、もしかしたらA組かB組なんじゃないかな?」

「え? な、なんでそう思うの?」

「まず、E組だったら体育が一緒だから、多少なりとも見たことがあるはず。で、Dなら同じ方向のトイレを使うはずだから、普通なら廊下で見かけたことくらいあるはず。C組は、私達のすぐ後ろの靴箱だから玄関ですれ違うはず。だから、AかBだと思ったわけ」

 な、なんという名推理。みっちゃんは名探偵の才能があるのかもしれない。

「だから、まずはA組を見てみましょう!」

「りょ、りょーかいです!」

 凄い、これなら本当に彼と普通に出会えるかもしれない。


 ◇◇◇

 雷太は俺の前の席を借りて、こちらを向いて座る。

「今日はカツサンドだぜ」

 そう言いながらどんと俺の机にサンドイッチを置く。分厚いカツが挟まった運動部御用達のパワー系サンドイッチの代表格だ。しかも、二セットも購入しているので、合計四切れもある。

「俺はコロッケサンドだぜい」

 負けじと俺もサンドイッチを取り出す。流石に一セットだが、これに500mlの牛乳をつけている。

「……豊ってコロッケ好きなんだっけ」

「あんま意識していなかったけど、そうなのかも。この前のカレーそばコロッケ? いや、コロッケカレーそば?も凄い口にあったし」

 今知ることになる自分の嗜好。今度から『好きなものは?』と聞かれたら『コロッケです!』と答えることにしよう。

「一個交換しねーか? なんかそれ見てたらコロッケも食べたくなった」

 考える必要もなく、即座に雷太の提案に乗る。コロッケサンドとカツサンドのどちらも食べられるなんて贅沢だ。

「もちろんいいよ」

「あんがと。ちなみに、今日は菓子パンも四個買った」

 驚愕の事実を俺に告げてくる。お前、運動部でもそこまで食べないぞ……。

「そんなに腹減っているのか?」

「今日寝坊してな。朝ごはん食べてないんだよ。残しても明日の昼食に回せばいいしな」

「なるほどね」

 雷太の性格からして、おやつだのなんだで今日一日で食べきってしまいそうだけどな。なんでこいつはこんなに食べているのに、全然太らないんだろう。

 ここで、俺の後ろのドアが音を立てて開く。別に昼休みなんだから、人の往来はあって当たり前。俺は振り返りもしない。

 しかし、目の前の雷太が「あー!!!」と大きな声を出したのなら話は別だ。

 なんだなんだと振り返ると……そこには昨日の二人組がいた。二人とも俺たちの方を見て、驚愕の顔で固まっていた。俺は俺で彼女の顔に目が吸い込まれて固まってしまっていた。

 ……え、まじかよ。



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