第10話 既知との遭遇~1st contact?~

「まだ寒いってのに、雷太はアイスか」

「しかも二つだぜ。いいだろー?」

 全然羨ましくないよ。俺はあつあつのピザまんを一口食べる。コンビニの前でたむろするのもあまりよろしくないので、飲食用のスペースに座っている。ここの店主さんが優しいので、高校生の買い食いを黙認してくれているらしい。

「そういや、来週から部活なんとか習慣だろ? 雷太はどうするんだ?」

 この面倒くさがりの友人のことだ。どこにも所属しないとかな気もするけど……。

「決めてないぜ! 考えるのもめんどくさいしなっ」

「そこくらいは考えなさい」

「ごめんよ、お母さん」

「お母さんじゃない。とかいいつつ、俺もちゃんと決めたわけじゃないしなー」

 雷太と違って考えてはいるのだけど、確定ではない。なんというか……決めてに欠けている。

「あれ? 文芸部じゃないのか?」

 雷太はがつがつと一気にモナカアイスを食べ終えて、2つ目を開けながらそんな疑問を投げてくる。頭痛くならないのか?

「うーん、まあそうするつもりだけど……本は好きだけど、じゃあ自分で書くのかって言われると、それも違うような、書いてみたいような……」

「優柔不断かよっ」

「そうだよ。知っているだろうに」

 もう長い付き合いだから俺の性格くらい把握しているはずだ。いまいち押しきれないへたれなのである。情けないと思わなくもないが、これが性分なのだよ。

「まあ、別に焦ることでもないし、いいんじゃね? 他にも文化系は色々あるみたいだし。料理部とか情報コミュニケーション部とか」

 後者の部活の実態は不明だけど、たしかに雷太の言う通りだ。

 とかなんとかしている間に、すでに雷太はアイスを食べ終わっていた。本当に強靭な肉体を有しているようで、ケロッとしている。

 俺も二口目を食べようとしたところで、すりガラスの向こうに二人の人間がコンビニに向かってきているのが見えた。一人は身振り手振りが大きく、中々愉快な動きをしており、もう一人はおしとやかそうに相槌を打っているようだ。色合いからしてうちの高校の女生徒だろう。

「……あそこの二人のどっちかが豊の想い人だったりしてな!」

 がははと雷太は笑う。そんな都合の良いことが起きるわけがないだろう。

「そんなわけないだろ。変なことを言うなよ」

 ちょっと期待しちゃうじゃないか。俺がピザまんにばくりとかじりついたところで、その女生徒達が入ってきて――


 ◇◇◇

「れんは何を食べるかね?」

 ミルクティー大好きみっちゃんは、そんな風に尋ねてくる。うーん……

「せっかくだし、私も紅茶を買おうかな。紙パックのやつ」

「紙パック? コンビニで飲みきれるの?」

「ううん。家に帰って、お風呂上がりにぐいっと、ね」

 いまたくさん飲んじゃうと、おゆはんを美味しく食べられなくなってしまう。それと、お風呂上がりにはあまーい飲み物をごくごくいくのが大好きなのだ。

「……おっさんくさい」

 険しい表情で私を見てくるみっちゃん。華の女子高生に向かってなんてことを! 

「そんなことないよ。みっちゃんだって、お風呂上がりにはアイスとか食べるでしょ」

「そうかもだけどさー。腰に手を当てての飲む仕草はちょっと……流石に、ね」

 極めて言いにくそうにそんなことを言いながら、私から目を逸らす。

「そ、そんなに駄目?」

「……個人の自由だから」

「それ駄目って思っているやつじゃんかぁ!!」

 そんな風にふざけていると、コンビニに辿り着く。24時間営業……ではなく、うちの高校の生徒を主な対象にしているらしく、6時開店20時閉店という具合である。それでも14時間も営業しているなんてすごい。

「お? あの窓際のイートインに誰かいるねえ」

「そうだね。うちの生徒さんっぽいね」

 見た感じ、黒色のシルエットなのでうちの学ランだと思う。

「男子二人組……連の一目惚れ相手が居たりして?」

 にしし、とみっちゃんは悪戯っぽく笑う。

「そんな偶然はないよー。もし、そうだったら……」

「え、吐くの?」

「吐かないよっ。もし、例の男の子だったら……頑張って話しかけてみる!」

 軽い気持ちでみっちゃんに宣言する。『覚悟完了!』というわけではない。そんな偶然はないだろうと思って、ちょっとした軽口のつもりで言っただけなのだ。ホントにいたらヤバいのだ。

 そして、自動ドアを通り、その二人組の方を見てみると――


 ◇◇◇

「ああっ!!!」

 みっちゃんがちらりと豊の顔を目に入れた瞬間、その顔を指差し、馬鹿みたいに大きな声を出す。目は極限まで開かれて、零れ落ちそうだ。

「うえっ!?」

 その勢いに驚愕し素っ頓狂な声とともに、いじっていたスマホを床に落としてしまったのが雷太である。結構な勢いでスマホは画面から床にぶつかり、不吉な音が響く。

「……ほあっ」

 そんな二人の様子は全く頭に入らず、豊は吸い込まれるようにみっちゃんの隣の女生徒――れんの方を見る。姿勢はピザまんをかじったまま。もちろん、思考は完全に停止しており、ピザまんを石膏と入れ替えたとしても気づかないだろう。

 そして……豊の姿を目に入れた(一番問題の)れんは……

「……」

 白い肌を一瞬で赤に染め上げたものの、何も声を出さない。というか、呼吸も忘れている。普段は比較的大人しい彼女なのだが……

「……」

 無言のまま、ものすごい勢いで反転するとそのまま全力で逃げ出した。すらりと細長いスタイルを利用した華麗なるスプリントである。もちろん、この極限不意打ち状態でたまたま出来たことなので、再現性は全く無い。

「れんっ!? ちょっと、どこに行くの!? あなたの家は反対方向――」

 みっちゃんもその姿を慌てて追いかけていく。

 嵐が過ぎ去り、残されたのはピザまんにかぶりついたまま凍りついている豊少年。そして、購入したばかりのスマホの画面にヒビが入っていることを発見し、絶望の表情になっている雷太少年。

 端的に申し上げるならば――阿鼻叫喚といった具合だった。

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